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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百二話・王女の護衛に訊く


 うわあ、この姫さん。


今まで先人たちが苦労して築いてきた『異世界人協定(仮)』を全否定かよ。


「それで本当に彼らは幸せになりましたかの?」


「勿論ですわ!。 皆様に感謝されていますもの」


ご老公はチラリと護衛の父娘の顔を見る。


冷静を装っているが、魔力が揺らいでいた。


「アタトは、どう思う」


僕は大きくため息を吐く。


「国の王女様に直接、不満を言える者がいるとは思えませんね」


鼻高々だった姫がキッと僕を睨む。




「だいたい」


僕は軽く人差し指を顎に当ててクビを傾げる。


「大国に『異世界の記憶を持つ者』って、そんなにたくさん居るのですか?」


皆様って、ひとりなら言わないよな。


「大国ですもの!。 隅から隅まで探せば今でも1人や2人は見つかりますのよ」


今度こそ、本当に護衛たちの顔が歪んだ。


ご老公も首を傾げる。


「そちらの教会は何と言っておるのじゃ?」


嫌そうな顔をする姫。


なんだか表情が豊かというか、感情的な女性だな。


段々、ボロが出て来たという感じか。




「教会には教えていませんの」


大国では、教会と王族はあまり仲は良くないらしい。


「でも、ちゃんと魔道具で『異世界の記憶を持つ者』であることは確認済みですわよ」


さすが金持ちの国だけあって、あの魔道具を教会以外も所持しているようだ。


「へぇ、あの暗号文を解いたんですかー」


僕が素直に賞賛すると姫は少し動揺を見せる。


「あ、暗号?」


ヤマ神官によると、あの魔道具はこの世界に数個しか存在感しない。


同じ『異世界の記憶を持つ』魔道具師が作ったといわれているから、性能は全て同じはずである。


「魔道具が示す文字が暗号文のようなので、高位神官しか読み解けないんだそうですよ」


それを解読出来る者が教会の外にいるとは。


「すごいですね!」


「え、ええ。 大国には立派な魔術師様がいらっしゃるのです」


なるほど、魔術師が判定しているのか。




「ですから」


姫はニコリと微笑む。


「この国の『異世界人』様がわたくしの話を聞けば、是非我が国に来たいと仰るはずですわ!」


はあ、そこでヨシローが出てくるのか。


「ですけど。 そこのエルフには会わせられないと言われました」


姫は被害者ぶって、泣きそうな顔で僕を見る。


「それは当然ですよ。 この国では『異世界人』の生活を静かに見守ることになっておりますので」


最低限の生活は保証するが、通常の生活にはなるべく口を出さないようにしている。


護衛の教会警備隊も安全のために付いているが、何かを強制することはない。


まして、他国の要人に会わせることなど出来ない。




「ご本人が望めば、それを遮ることは出来ませんでしょう?。 だってこれはご本人のための提案なのですもの」


姫は勝ち誇った顔をするが、それはどうなんだろう。


「我々としては日常生活を乱すような話を彼の耳に入れたくはないのじゃが」


「ええ、なんでも領主令嬢との婚姻が決まったとか。 わたくしからしたら、それこそ『異世界人』様の不幸に他なりません」


彼女は「大国にくれば幸せになる」の一点張りだ。


「王女殿下。 『異世界の記憶を持つ者』については、国の大小に関わらず、全ての国が協定を守るべきであり、このような行動は慎んで頂きたい」


ご老公の言葉に姫は声を落とす。


「傲慢ですわ」


嫌悪の顔で姫が吐き捨てた。


「『異世界人』はこの世界の宝なんですのよ。 小さな国が保護などと言って、何もせずにただ無為に過ごさせて良い方ではありません!」


興奮して捲し立てる。


お前ら、やっぱり『異世界人』の知識狙いじゃないか。


何が「本人の幸せのため」だ。




 僕はご老公に許可をもらい、護衛2人に向かって話し掛けた。


「一つ伺いますが、そちらが現在、保護している『異世界の記憶を持つ者』は何名いらっしゃいますか?」


彼らは答えない。


「僕は教会の高位神官さんに知り合いがいまして。 聞いた話では、『異世界の記憶を持つ者』が現れるのは数十年に1人だとか」


勿論、周りに知られないうちに、静かに普通の生涯を終える者もいるだろう。


「しかも、現れる場所もバラバラだと」


僕はご老公の傍を離れ、護衛の老人に近寄る。


「あなたは不思議だと思いませんか?」


何故、何人もの『異世界の記憶を持つ者』が、自分の国にばかり現れるのか。


そして、姫に誘われるままに保護されているのか。


「彼らは本当に国のお役に立っていますか?」


僕は娘の方に足を向ける。


「彼らの生活費はすべて国が負担。 働かないのに、あなた方より良い暮らしをしているのではありませんか?」


働いているのかも知れないが、それは知識を引っ張り出すことだけで、何かを作ることはあるのか。


しかも毎日?。


「皆さんは、彼らの我が儘にどこまで耐えていらっしゃいますか?」


「そ、それは」


護衛の女性に目を逸らされた。




 僕が2人に訊ねている間、姫はどうしているのかというと。


体を動かすことも出来ず、口をパクパクと開けるだけで声は届かないという状態である。


モリヒトが彼女だけに結界を張り、閉じ込めたのだ。


僕の質問の邪魔をさせないために。




 ご老公の隣に戻り、客人3人を見る。


「教えてください。 彼らは王女様の支援に見合う成果を上げていますか?」


護衛の親子は黙り込む。


それは構わない。


否定出来ないということは分かった。


「大変失礼いたしました」


僕は子供らしい笑顔を浮かべる。


「僕は他種族で子供で商人です。 このような質問は大変不躾だと承知しています」


だからこそ、分かることもある。


「保護されている者たちの中に、詐欺師は何人いるでしょうね」


僕は全員だと思うよ。




 モリヒトが姫の結界を解く。


「黙って聞いていれば、なんてことを!」


姫はワナワナと震えている。


「世界も、『異世界』の方々も救うことに利益は関係ありませんわ!」


完全に僕と姫は対立関係になったな。


それでいい。


その感情を、国やご老公ではなく僕に向けろ。


「そうですかねー。 人は生きているだけで金が掛かると思いますけど」


田舎で自給自足というなら分かる。


だが、街中では無理な話だ。



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