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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百話・対話の準備と要望


 宿に戻るため館の玄関に出ると、キランが待っていた。


白馬の馬車である。


周りの馬丁や御者たちがジロジロ見てるじゃないか、恥ずかしい。


でも。


「お待たせ」


こーゆー時は開き直るしかない。


「アタト様、お疲れ様でした」


キランが優雅に腰を折り、扉を開ける。


僕は、ヒラリと飛び乗った。


「はあ、アタト様は後10年、いや7年後に成人されたら女性に大人気になりそうですね」


は?、何気持ち悪いこと言ってんの。


白馬の王子様はキランでしょうに。


モリヒトも乗り込むと合図を送り、馬車が走り出した。




 宿に戻ると、普通の客室に入る。


宿の主人が申し訳なさそうにしているが、部屋を勝手に変わったのは僕のほうだ。


この祭り騒ぎの町で、たまたま部屋が空いていて良かったよ。


「アタト様のお知り合いがいらっしゃることを想定して、必ず予備の部屋をご用意しております」


へっ。 すごい。


「ご迷惑をお掛けしてすみません」


従業員の皆さん用に回復の薬草を練り込んだ魚醤飴の入った瓶を渡す。


「お一つ、どうぞ」


部屋係りの女性に味見をお願いする。


「うわあ、甘いっ。 ありがとうございます!」


喜んでもらえて何より。


後で作り方も教えておこうっと。


魚醤はこの町でも作っているが、薬草や砂糖等は仕入れが必要になる。


ふっふっふ、アタト商会食料品部の出番ですよー。




 寝る用意をしながらモリヒトに訊ねる。


「手紙は読んでもらえたかな」


『はい。 確かにティファニー様が読んでいらっしゃいました』


そか、良かった。


 ご老公の手紙を読んで、どうするかは彼女次第。


「気に入らなければ、この宿を出て行くだろうし。 もし、ご老公に会う気があるなら、こちらが動くまで待つだろ」


そんなわけで、今は何もすることがないので寝る。


何か動きがあれば起こすように言ったが、特に何事もなく朝を迎えた。




 早朝の鍛錬を見合わせていたら、扉が叩かれる。


「すみません、アタト様。 特別室のお客様から朝食をご一緒したいとお誘いがありました」


姫一行は宿の従業員に言伝を頼んだらしい。


「分かりました。 特別室に1人分多く運んでください」


準備が出来たら呼びに来てもらうことにして、僕は身支度にかかる。


綺麗めの普段着でいいか。


相手が高貴な姫でも、ここは町の宿だし。


 正直、相手をするのは邪魔臭いが向こうも必死なんだろう。


他国で、敵か味方かも分からない人間に周りを囲まれた状態だ。


自分がしたいことをしようとすれば、誰か協力者が必要になる。


案外、拐われたのも誰かに頼ろうとして失敗したのかもな。




「おはようございます」


「朝早くから申し訳ない」


護衛の老人が出迎える。


「いえ。 お誘い嬉しいです」


無邪気な笑顔を見せる。


こういう時、子供というのは楽だ。


下心なんぞには無縁と看做みなされるからな。


「どうぞ、お入りください」


護衛の娘の方が出て来て、部屋の奥に案内される。


すでに朝食が並んだテーブル席に座るように促された。


僕が椅子に座るとモリヒトが後ろに立つ。




「この宿、とても素敵ね」


向かいに座っている姫が嬉しそうに微笑む。


お気に召して頂けたようで。


「エルフ殿の宿だと聞いて、納得したわ」


は?、なんのことだ。


「宿の看板にエルフの意匠が使われていますでしょう?」


護衛の女性がそれを見て僕に関係がある宿だと認識したようだ。


あー。


そういえば、あのドワーフ代表の男に宿の主人が何か頼んでいたな。


『商会の系列店である目印の看板を作らせたようです』


「モリヒト。 商会の意匠を見せたのか?」


『はい』


お前か!、そそのかしたのは。




 まあいい。


この宿は僕の定宿には違いないし。


「僕は商人ですから知り合いは多いです」


色々と手を出しているが、基本的には辺境地に居るという話をする。


「そ、それなら!。 辺境地にいる『異世界人』に会ったことはある?」


「ええ、狭い町ですから」


顔見知りの商売相手だと言うと、姫は身を乗り出す。


「良かった。 すぐに会う手配をしてちょうだい」


予想通りの言葉に、僕はわざと顔を顰めた。


「は?、嫌ですが」


断られるとは思っていなかったようで、姫も2人の護衛もポカンとする。


「他国の王女様がお忍びで、という立場は分かります。 でも、それは公式な依頼ではないということですよね?」


『異世界人』てのは、どの国にとっても最重要人物なんだよ。


王女という身分を明かさずに会おうなんて虫が良すぎないか?。


拒否されても仕方ないだろ。




「で、では、どうすれば」


「さあ?」


僕は可愛らしく首をコテンと傾ける。


一介の商人である僕には分かりません。


「そんなことを言わずに、ほんのちょっとでいいんだから」


僕は胡乱な目で姫を見る。


「辺境の町と、そこを治める辺境伯閣下には大変お世話になってますので」


「そこをなんとかお願い出来ないかな」


護衛の爺さんがモリヒトを横目で伺いつつ僕を睨む。


器用だな。


でも、無理なものは無理。


「どちらにも何かあったら、僕は責任取れません」


いくら極秘だからって、そんな重大なことを知ってしまった上で、危険な行為など出来るわけないでしょ。




「もう良い。 こんな子供に望みを賭けたこちらが愚かだった」


自分が悪いとはちっとも思わず、ただこちらを睨んでくる姫。


「我らには、もう救いの手が差し伸べられておるわ」


フンッと明らかにこちらを嘲る笑顔を浮かべている。


あー、ご老公の件かな。


手紙の内容は分からないけど、会えばなんとかなると思ってるのか。


本当に愚かな。


「では、僕は用事があるので失礼します」


僕は食事の礼を述べ、部屋を出た。


向こうは気分を害したとばかりに無言である。


王女のくせに礼儀がなってないな。




 僕は部屋に戻ると、王宮に出入りするために作った仕立師の爺さんの傑作の一つを身に纏う。


「キラン、馬車の用意は」


「出来てます」


僕は頷き、エンディの館へ向かう。


 領主館に着くと、すぐに中年の家令に案内されてご老公の部屋を訪ねる。


「お迎えに上がりました」


「おお、来たか。 すまんな」


そして、今度は元国王と共に宿に戻った。



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