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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四十話・釣りの見本を見せる


 食事が終わり、地下の部屋へ向かう。


風呂の準備が出来ていたので入らせてもらった。


ふう。 やっぱり温かい風呂は良い。


「塔にも風呂が欲しいなあ」


『作りますか?』


「ぜひ!」


と、モリヒトに頼んだら、ドワーフのオヤジさんに依頼してくれるそうだ。


『おそらく、かなり資金が必要になるかと』


そうだよねー。


「頑張って稼ぐよ」


僕の言葉にモリヒトがニヤリと微笑む。


こいつ、最近、高い酒が気に入ってて、それが欲しいから僕に稼がせようとしている気がする。


僕にとっても悪い話じゃないから頑張るが。




 かっちりとした服のまま、モリヒトは浴室内で僕を見守っている。


モリヒトが着ている服は全て魔法で作っている見せかけだけのもの。


「浴室に居る時くらい、裸に見えるようにしたら?」


こっちは裸なのに。


モリヒトの姿自体が幻影みたいなものだし、自由に変えられるはずだ。


『どうしてもとおっしゃるなら』


少し考えて、モリヒトの姿が変わる。


「ブッ」


僕は鼻血を噴きそうになった。


ツルツルッとした滑らかな肌、ツヤツヤの長い金髪。


男性なのは分かっているが、エルフは元々中性的な容姿をしている。


「……止めようか」


『はい』


モリヒトの姿が元に戻る。


はあ、綺麗過ぎて落ち着かなかった。


あんなのに見られながらの風呂は無理。




 翌朝は、漁師のお爺さんに干し魚を渡すため市場へ出向く。


今日は僕もモリヒトもしっかりフード付きローブで全身を覆っている。


ティモシーさんは僕たちを馬車で迎えに来てくれて、市場に着くと少し離れて見守っていた。


今日はタヌ子はいつものワルワさんの検診。


ガビーは地下の風呂に興味津々だったので、今頃は寝ぼけたヨシローに風呂の作り方を教えろと迫っているだろう。




「おー、坊ちゃん、ありがてぇ。 次はいつ入荷するんだって問い合わせが多くてなあ」


漁師のお爺さんは僕の顔を見るなり大声を出す。


「それはご不便をお掛けして申し訳ありませんでした」


僕は頭を下げる。


「いやあ、今まで無くても問題なかったのによ。


人ってもんは贅沢を覚えちまうと厄介だねぇ」


お爺さんはそう言って笑った。


『本日もよろしくお願いいたします』


モリヒトがデカい袋を渡す。


お金は売り切った後、精算書と一緒にワルワさん宅に届くことになっている。


 お爺さんは干し魚を受け取ると、近くにいた若者を呼び寄せて袋を渡した。


そして、改めて僕と向き合う。


「坊ちゃん、今、時間あるかい?」


「はい、大丈夫ですが」


売り子を若者に任せたお爺さんに手招きされ、僕とモリヒトは店の奥へ移動した。


「坊ちゃん、頼みがある」


「はい、何でしょう?」


何かを迷っている感じがした。




「坊ちゃんの所に、うちの若いもんを定期的に行かせてえんだが」


僕は首を傾げる。


「それは、僕の住んでいる所を知りたいということでしょうか」


モリヒトの気配が冷たくなる。


お爺さんはイヤイヤと首を横に振った。


「いや、無理ならええ。 ただ、魚をもっと早く仕入れてえと思ってな」


「つまり、僕が来れない間、魚だけでも仕入れたいということですか」


お爺さんはウンウンと、今度は首を縦に振る。


首、大丈夫?。


 僕はチラリとモリヒトを見た。


一見無表情に見えるが、少し困った顔をしている。


『魚が入手出来れば良いのですか?』


「ああ、うん、そういうこった」


僕が町に来るまでの三十日が待てないくらい注文が殺到しているらしい。


『少し考えさせて頂いても?』


「もちろんだ。 良い返事を待っとるよ」


僕とモリヒトは軽く挨拶をして店を出た。




 僕たちは、ゆっくりと歩いて港のほうに向かう。


『どうなさいますか?』


歩きながら、モリヒトが訊いてくる。


「塔の場所を教えるわけにはいかないだろ」


これから先、いつ他のエルフに出会うか分からない。


そうなると彼らも危険に巻き込んでしまう恐れがあった。


モリヒトは頷く。


『では、町に来る周期を早めますか?』


僕はため息を吐く。


「僕はそんなに暇じゃないよ」


魚ばっかり釣ってるわけにもいかないし。




 この町の港には数隻の小船が浮いている。


「漁港とはいえないな」


畜産とお茶が名産なので、農業と漁業は町中で消費出来る分しか供給されない。


「おや、坊ちゃんすか。 オヤジなら市場におりやすが」


魚醤のおじさんが家から出て来た。


「はい、お会いしました。 この度は販売までお手伝いして頂き、ありがとうございます」


モリヒトも一緒に頭を下げた。


「オヤジはええんすよ、どうせ暇なんで」


漁師親子の家は、この辺りでは大きいほうだ。


「今日はもう漁はなさらないんですか?」


彼らが船を出すのは、魔魚がまだ動き出さない夜明け前だという。




「そういや、オヤジが、坊ちゃんたちはいつ漁をしてるんだって不思議がってやしたぜ」


「え?、普通に海岸で釣ってるだけだよ」


漁師のおじさんは顔を顰める。


「釣る?、どうやって?。 針なんざ魔魚に食われちまうだけだろ」


漁師さんたちは魚のいそうな場所で投網で漁をしているそうだ。


「普通に釣れますけど」


僕はモリヒトに竿を出してもらい、岸に向かった。


背後からティモシーさんがついて来るのが分かる。


「モリヒト、どの辺りならいそう?」


『船から少し離れた岩の辺りでしょうか』


港は入り江の奥にある。


その入り江の出入口辺り。


僕は針に魔力の餌を付け、海に投げる前にナイフを懐から出して鞘ごと腰のベルトに差し込んだ。




 ポイッと釣竿を振り、針が海に沈む。


ウキなんてないから、時間を見計らって竿を引き上げる。


ただ、それの繰り返しだ。


それでも数回繰り返したら、ググッと重くなる。


「お?」


漁師のおじさんが駆け寄ろうとしたのをモリヒトが止めた。


そして、モリヒトが針の先の魔魚に向け、重量軽減の魔法を小さく呟いて飛ばす。


「フンッ」と僕が力一杯竿を上げると、見事に魔魚が食い付いている。


岸に打ち上げた魔魚に僕はナイフを突き立て、動きが止まるまで離さない。


かなり大きいが干し物にすると縮むから、まあ手ごろな大きさだな。


僕はその場で捌き、ホイッとおじさんに渡した。



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