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第四話・塔の地下に住む


 眷属精霊と一緒に地下の部屋に入って驚く。


さっきまでとは全く違う空間になっていた。


横長の長方形の部屋の広さは二十畳ほどだろうか。


壁も床も磨かれた白い大理石のようにピカピカのツルツル。


仕切一つ無い部屋だが、右隅にある唯一の扉はお手洗いだという。


「ほぉ」


『お気に召していただけましたか?』


「はあ、まあ、そうだなあ」


壁の松明に照らされ、地下とは思えないほどに明るい。


どっかの高級ホテルみたいだなと思う。


何だか落ち着かない気もするが、せっかく綺麗にしてくれたのだから文句も言うまい。


「いや、十分だ。 ありがとう」




 入って正面の壁には流し台のようなものがある。


「ここは台所か」


七歳の子供の高さに合わせてあるのか、少し低めだ。


その隣には石で作られた四角いテーブルとそれに付属した長椅子。


そのテーブルの真ん中は囲炉裏のように丸く削られていて、薪がくべられている。


料理は台所で下拵えし、テーブルの囲炉裏で煮炊きをするのだろう。


壁の上部に横長の細い穴が見えるから排煙口か何かじゃないかな。


何だか古民家を見ているようだ。


まあ、ずいぶんと西洋風ではあるが。


『お食事はいかがいたしましょうか。 本日は何もご用意していないのですが』


今までの食事は長老から預かっていた物らしい。


精霊は申し訳なさそうにいつもの果実を2個取り出した。


「ああ、僕も少しは保存食を持ってるから大丈夫だ」


さっき鞄の中を確認したから間違いない。


むしろ今まで甘えっぱなしで申し訳ないと思う。




 僕が椅子に座ると、精霊は底が平たいケトルのような物を火にかけた。


よく見ると、囲炉裏の火の上に細い鉄棒が二本わたされていて、その上に鍋を乗せるようになっている。


僕は鞄から自分用の皿やカップを取り出した。


 そして、柔らかい葉で大切に包んだ物をテーブルに置く。


長老からもらった日持ちのする菓子を少しずつ残しておいたものだ。


 長老はエルフ族でも有名な方だったから客も多かった。


その客たちは僕にゴマをするように、他の子供たちには内緒でこっそりお菓子をくれていたのである。


僕はすぐには食べずに溜め込んでしまう癖があった。


さすがに消費期限には気を付けていて、長老に頼むと、いつも笑いながら保存の魔法をかけてくれた。


「焼き菓子だがアンタも食べないか?」


皿に出して眷属精霊に勧めてみる。


量もそこそこあるので、七歳の子供の食事としては十分だと思う。


エルフの姿をした精霊は目を瞬いていたが、やがて嬉しそうに微笑んだ。




 精霊たちの食事は自然や物体から魔力を吸収するらしい。


『ありがとうございます』


菓子にも材料や作成者の魔力が含まれている。


人間の町で手に入れた高級な菓子もあったが、それにも多少だが職人の魔力は含まれていた。


『これは美味しいですね』


「だろ?。 長老の客は気前が良いんだ」


遠い記憶にある菓子には及ばないが、これはこれで美味しい。


 眷属精霊が淹れてくれた白湯をもらう。


あー、色々足りないなあ。


ズズズ。




 カップを口に運びながら、ふたりでこれからの予定を話し合う。


生活の基本は衣食住。


服は眷属精霊が清潔にする魔法を使ってくれるし、当分の間は大丈夫だろう。


この部屋も快適……っぽいしな。


「あとは食料か」


『さようでございますね』


エルフは別に菜食主義ではない。


森で入手出来るものが限られてるだけだ。


しかも、追放された僕は森の奥へは入れない。


そうなると。


「魚、釣れるかなあ」


目の前の海で漁れる魚が食べられるなら、だが。


『大丈夫でしょう。 いざとなったらわたくしが何とかいたします』


んー。 頼り切りになるのは少し抵抗感があるけど、まあ仕方ない。


自力で調達出来るようになるまでは世話になるか。


僕は「頼む」と頭を下げた。


眷属精霊は驚いて首を横に振る。


『わたくしはアタト様の眷属です。 当たり前のことをするだけでございますよ』


あー、そうだったな。


「あとは、森の浅い場所で果実やキノコ類、または茶葉が採れると良いのだが」


まあ、明るくなったら探してみよう。


『そういたしましょう』


釣りをするにも竿や針、網なんかの道具も必要になる。


この建物の中も、もっと奥まで調べてみようと思う。




「さて寝るか」と僕は立ち上がる。


部屋の左奥に寝床らしいものがあった。


「これは?」


『布袋を集めて解し、洗浄して繋いだものです』


へえ。 中身の綿なんかは無いのでただの布だが、地下はそんなに寒くはないので十分だ。


『アタト様の着替えも洗浄しておきました』


「あ、ああ。 ありがとう」


どうやら、産まれてから今までの僕の行動や考え方を観察した結果、眷属精霊は僕をかなり清潔好きだと判断しているらしい。


僕としては常識の範囲内の行動だったが、ここでは違うのかな。


着替えて寝床に入り、清潔な香りがする布にくるまる。


こりゃあ、もしかしたら村にいるより快適な生活が出来るんじゃなかろうか。




 気疲れもあってか、すぐにウトウトし始めた。


しかし、どうしても眷属精霊に訊きたいことがある。


「なあ。 その、魔法って、僕でも使えるか」


眷属精霊は首を傾げている。


「アンタにばかり頼るのはダメだろ。 僕にも何かやれることはあるはずだ」


自分はエルフとしては頼りにならない存在だが、眷属精霊に何かあった時のためにも自力で生きていけるようにしなきゃいけない。


『それは可能だと思います。


アタト様もエルフですから魔力は十分でしょうし、明日から少しずつお教えいたしましょうか』


眷属精霊の話では、魔法で物質を作り出すのではなく、存在する物を分解して変質させることは出来る。


つまり無いものは作れない。


飲料水は海水から飲める水とその他、というふうに分解することは出来るけど、釣り道具は枝などの材料がなければ作れない、ということだ。


何にせよ、自分にも出来ることがあるのは嬉しい。


「助かる」


少しホッとして気が緩んだせいか、急に眠気に襲われる。


「じゃ、明日からよろしくな。 シショー」


僕は寝付きは良いほうだ。



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