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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百九十五話・報告の内容を考える


「美味しかった!」


さすが、若者は食事量が違う。


いつも僕ひとりでは食べ切れないほど出て来る料理が、あっという間に消費された。


僕はチマチマとコーヒーでパンを流し込んでいただけだというのに。


「私もあれから食事抜きで色々やらされてたんだ」


エンディは愚痴る。


おや、そうですかー。


でも領主としては当たり前だな。




 テーブルの上の食器がサッサと片付けられる。


僕は食後のお茶をモリヒトに頼んだ。


「とにかく、報告を聞こうか」


エンディが厳しい顔を作る。


ふむ。 まあいいか。


「エンディ様のご命令で人探しをしていたら、山中で賊の拠点を見つけました」


エンディはじっと僕の顔を見ている。


「それで?」


「賊を捕らえて運びました。 その後はお任せしましたが?」


ティモシーさんとドワーフ兄弟から聞いているはずだが。


「それがな。 どうも要領を得なくて分からんから、お前に訊きに来た」


何やってんだ、アイツら。




 エンディは、ティモシーさんやドワーフ兄弟から聞いた話では納得出来なかったらしい。


「取り調べで賊は前の組織の残党だと分かった。 明るくなってからドワーフたちに案内させて洞窟を調べさせたが、囚人はいなかったぞ」


女子供が捕えられていた一番奥の部屋は、入り口を塞いでおいた。


犯人たち以外がいた証拠を残しておけなかったからだ。


「しかしな。 賊たちは確かに何人か捕まえていたと言ってるんだ」


身なりの良さそうな女性を拐ったら全く喋らないので、家から金を取る目論みが外れたと話していたそうだ。


「ふふふ。 僕たちより賊の言葉を信じるのですねー」


僕の揶揄うような言葉に、エンディはムッとする。


「何かあったんだろ?。 ここなら大丈夫だ、話してくれ」


モリヒトの防音結界は完璧である。


「……怒りません?」


「私が怒るようなことをしたのか?」


場合によっては怒るだろうなあ。


でも僕は最善の策だと思っている。




 しばらくの間、僕とエンディは睨み合う。


賢い領主には黙っていても、いつかはバレるだろう。


僕は小さくため息を吐く。


「賊の拠点で『探し人』らしき人物を発見しましたが、取り逃しました」


「なんだと?!」


エンディは勢いよく立ち上がる。


「何故、保護しなかった!」


「おや、ご領主様は外交問題にされたかったので?」


「うっ」


一瞬、言葉に詰まるが、僕を睨む姿勢は変わらない。




「アタト、お前ならどうにでも出来ただろ」


「ええ。 ですから、出来る限りのことはしました」


大国の姫の無事も、護衛の面子も、ちゃんと守った上で拐われた子供たちも保護している。


「賊を放置し、王女を危険に晒したことによる補償程度ならまだマシですが、自作自演を疑われて代官を解任になるのは嫌でしょ?」


「それはー」


強気だった若い領主は目を逸らした。


「ですから、エンディ様とは無関係のまま救出し、お帰りいただきました」


ちゃんと迎えに来ていたから返せた。


あの護衛たちが思ったより冷静で、無茶しない人たちで助かったよ。




 王宮の貴族管理部で、僕は貴族社会の横暴さを見ている。


「拠点は昔の坑道でした。 もしエンディ様が保護していたら、鉱山を隠していたと言われるでしょうね」


鉱山が見つかったとなれば、あいつらは何かと理由を付けて取り上げようとしてくるだろう。


でっち上げた不祥事の責任を取らされるのだ。


だから発見したのは僕にする。


「エンディ様。 あなたを潰されるわけにはいかないんです」


口実を与えてはいけない。


弱みを見せては駄目だ。


強く、威厳を保ち、賢く、そして我慢強く力を蓄える。


この若者なら出来ると思った。


「だから協力しているんですよ」


ドワーフの工房街も完成間近だしな。




 そして、僕としては、この領地には緩衝地になってもらたいたいと思っている。


辺境地を、新たに『異世界人』の知識で集めた食材や、料理を気軽に楽しめる町にするために。


王都からの圧力を元王族の威光で遮ってもらうのさ。


ふっふっふっ。


「私に恩を売って、何を企んでいる?」


ヤバい、顔に出てたか。


「何もございませんよ。 我々の任務は終了ということでよろしいでしょうか?」


早く辺境地に戻りたい。


教会に預けた子供たちも気になるし、色々と忙しいんだよ、僕も。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「姫様、ご無事で何よりでございました」


「……2人には心配を掛けました」


「いえ。 今回のことはこちらの落ち度でもありますゆえ、不甲斐なく思いますじゃ」


「いいのです、爺や。 私の我が儘が原因ですもの」


「いいや。 これは反国王派の策略ですじゃ。 近隣諸国と揉め事を起こし、戦争を仕掛け、我が利を得たいとする愚か者どもめ!」


「それでも、この国に来たいとお願いしたのは私です。 まだ自由でいられた日々が懐かしくて、エンデリゲン殿下の新しい領地へ案内してくれるという言葉に乗ってしまいました」


「では、もう目的は達成いたしましたし、国に戻って下さるのですね」


「いえ、まだです」


「姫様……」


「『異世界人』様にお会いしなければ帰れませんわ」


「しかし、それはー」


「分かっています。 本当は外務担当の者からの嫌がらせだと。 どこの国でも、我が国が『異世界の記憶を持つ者』を集めていると知っていますから、会わせてはもらえない。 この度の外交は、既に私のせいで失敗に終わると決まっているのですわ」


「それでも、まだ会いたいと仰るのですか?」


「私には、どうしても本人に会う必要があるの」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



 あの何もなかった夜から数日後、『探し人』は無事に親善大使と合流、予定の役目を終えて国に帰った、と噂が流れて来る。


僕たちの極秘任務も終わり、ヨシローも無事にケイトリン嬢の元に返せて良かった。




 今日は、エンディ領のドワーフ街が完成した祝いの式典。


辺境の町に戻っていた僕たちは、鉱山を発見した功労者として式典に来ている。


おー、皆、楽しんでるな。


エンディ研修所と名付けられた施設では、ドワーフに限らず、各地から鍛治師や工芸師の卵を受け入れることになっていた。



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[一言] 無事、エンディの黒幕になったな。アタト
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