第三百九十話・仕入れの斡旋の先に
僕はロタ氏を見つけて近寄って行く。
ティモシーさんとヨシローもついて来た。
「おはようございます、ロタさん」
「おはよう、アタト様。 昨日は兄が失礼なことをしなかったかい?」
「いえ、大丈夫でしたよ」
僕は笑って答えた。
背中に視線を感じながら、建築中の建物を見る。
小さな工房はすでに幾つか完成していた。
今は少し大きめで、研修所というか、若手の職人が学ぶための場所を作っている。
「あちらはもう稼働しているんですか?」
小さな工房からは、鍛治仕事のカンカンという音が響いている。
「ああ、少しずつな。 今はまだ腕が鈍らないように小物を作っているみたいだ」
へえ。
「だが、材料の仕入れに苦労しているようでな」
「そこはロタさんの腕の見せ所でしょ?」
ロタ氏は行商人だ。
各地のドワーフ街や人里にあるドワーフたちの店を周り、頼まれた品の仕入れや販売、同時に情報収集をしている。
「鉱石や魔獣素材は辺境地からの仕入れが多い。 今は、その、あれだ」
ロタ氏は仲介役であり、定期的に仕入れるとなると、工房が直接、鉱石などを扱う業者と買い付けの契約をするわけだが。
「まだこの町の工房には実績がないから仕入れ値が高い。 その上」
ロタ氏は小声で訴える。
「業者が組合を通さないと売れないと言い出した」
いや、それを僕に言われてもな。
鍛治組合の頑固ジジイのせいで、ロタ氏の商売のほうも色々と制限され始めているらしい。
ふむ。
僕はチラリとヨシローを見る。
「ドワーフの鍛治組合に関係のないところから仕入れれば良いのでは?」
ドワーフは、良く言えば家族や種族の結束が固い。
悪く言えば排他的。
エルフ族はそれに加えて、他種族を下に見る傲慢さがあるけどな。
ドワーフたちは、他種族相手に商売はしているが、仕入れに関してはあまり他種族を頼らない。
他種族と商売以外の交流がないのは、長年の確執からだそうだ。
どうしても必要な場合は、行商人という仲介者が他種族と交渉する。
他種族と付き合いがあり、信頼して任せられる者しかなれない職業のため、行商人は一目置かれていた。
ロタ氏は訝しげに僕を見下ろす。
「ほお、例えば?」
僕はヨシローさんたちを手招きする。
「なんだい?」
「ドワーフが辺境の町の領主館から素材を仕入れたいそうです」
ヨシローの顔がパッと明るくなった。
待遇は良いが囮として連れて来られ、いつ未知との遭遇があるか分からない。
疲れているのは目に見えていたヨシローが久しぶりに笑う。
「それはありがたい!。 今なら格安でお売り出来ますよ」
僕の商会で仕入れたのは、肉や内臓等の腐敗し易い物。
そういった物ほど王都では手に入り難いため高値が付くからだ。
長期保存出来るものは慌てて捌く必要もない。
なので骨や頑丈な皮革が、まだ大量に領主館にある。
「それは助かります!、是非」
ロタ氏とヨシローが固く握手する。
ヨシローは現在、領主家の文官。
次期領主であるケイトリン嬢の婚約者である。
それくらいの裁量は任されているようだ。
「後は鉱石類だけど」
僕がそう呟いただけで、モリヒトが反応する。
『私の出番ですか?』
よく分かってるじゃないか。
『この領地には、まだ採掘されていない鉱床があるようです』
「本当ですか!、モリヒトさん。 あ、いや、精霊様を疑うわけではありませんが」
モリヒトに睨まれてロタ氏が慌てる。
『採掘場所の指定と、ある程度の量はご用意出来ますが』
後はそっちでやれ、と。
「ありがとうございます!」
ロタ氏はペコペコと頭を下げる。
おいおい、大事なことを忘れてないか?。
「採掘には領主様の許可が必要になりますよ」
ティモシーさんが呆れたようにロタ氏を見ている。
行商人が知らないはずはないからな。
「勿論ですよ。 ほら、サッサと領主館へ参りましょう。 アタト様」
ハイハイ。
僕たちは一旦宿に戻り、キランの馬車でエンディの館へ向かった。
突然、押し掛けて来たので待たされるかと思いきや、すぐにエンディの執務室に通される。
「私の要請が気に入らずに姿を眩ませていたらしいな」
などと散々嫌味を言われた後、本題を切り出す。
「ほお。 鉱床か」
「ええ、この領地の山岳地帯に」
詳しい埋蔵量など精霊では数字に表せないが、エンディから三世代くらいは持つだろうという話だ。
エンディの側近の中年騎士が目を剥いている。
涎が出てるぞ。
「すぐに調査隊を!」
「いや、調査は不要だ。 そうだろう?、アタト」
僕はニコリと笑って頷く。
「勿論です。 地図をお願いします」
領主館の文官たちが慌ただしく動き出した。
この領地は代々の領主が景観を大切にしていたため、山や森は手入れされているが、採掘などは「景観を損ねる」として禁止されてきた。
そのために手付かずの資源が残されていたのは暁光である。
すぐに鉱夫の募集が始まり、近隣の領主や王都にも知らせが走って行く。
翌日には、モリヒトを案内役に、エンディは十数名の兵士や職人、役人を引き連れて山に入って行った。
「アタトくんは行かなくていいの?」
領主館の一室でお茶とお菓子を頂いている。
「モリヒトに任せました」
あまり主要な人間がいなくなると探し人が見つかった時に困るので、僕とヨシロー、護衛のティモシーさんは留守番である。
僕はティモシーさんに訊いてみたいことがあった。
「すみません。 どうして探し人の特徴や名前が秘匿されているのですか?」
「んー、私が話せることは少ないけど」
ティモシーさんは、お茶のカップをテーブルに置く。
「早い話、大国の事情なんだ」
『異世界人』や『異世界の記憶を持つ者』を多く保護し、国を発展させてきた大国。
「現在は、該当者はその女性しかいないらしい」
へえー、それで?。
「……」
またティモシーさんは黙ってしまう。
「俺が思ったことを話してもいい?」
ヨシローがティモシーさんを庇うように話し出す。
「ニセモノっていうか、『異世界人』だとしてもあまり能力が無い人なんじゃない?」
一言で『異世界人』といっても色々いるのだという。




