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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三十九話・薬草茶の効能は何か

 

「確かに美味しいけど」


ティモシーさんは何かが引っかかったようだ。


「これ、薬なんだよね。 エルフ的には何の薬なの?」


「滋養です。 癒し、というか茶葉に効果を高める魔法が掛かってます」


「魔法……」


ティモシーさんが考え込む。


「なんだよ、ティモシー。 美味しくて滋養にも良いって最高じゃん」


ヨシローは不思議そうに首を傾げている。


「ああ、いや、ちょっとな」


地下から戻って来たガビーが台所で夕食の準備を始めると、ヨシローが慌てて駆け寄って行った。




 ワルワさんがティモシーさんにそっと顔を近付ける。 


「何か問題があったかの?」


ヨシローに聞こえないよう低い声で訊ねる。


僕も二人に顔を寄せた。


「人間の世界にも回復薬はあります。 それに似ているなと」


騎士であるティモシーさんは当然、魔獣や盗賊討伐などで怪我をすることも多い。


傷を治す回復薬は何度も飲まされた。


このお茶の後味が、その薬に似ていると言う。


「だけど、これは……濃いんじゃないかな」


お茶として飲むなら薄めたものにしたほうが良いかも知れない、という意見だった。




 普通、町で流通している回復薬は当然、人間用だ。


「普通の回復薬は人間の体内の代謝を高め、自然治癒を促進することで傷の治りを早める」


治癒の魔法を使えば一瞬だが、その魔法を持つ者自体が少ない。


騎士たちは怪我の程度により魔法を掛けてもらえることもあるが、その他の場合は薬を利用する。


「聞いた話では、魔力が自然治癒力に影響するらしい」


治癒の魔法は、他人の魔力を自分の体に受け入れる行為である。


そのため、病人の魔力と治癒する者の魔力の相性が悪いと反発してしまうため、魔力の循環が悪くなってしまう。


「この薬がエルフの魔力で出来ているとすると、どんな反応が起こるか分からん」


なるほど、そういうことか。




 僕はティモシーさんの話に興味を持った。


これって、元の世界の血液型の問題に似ていないか?。


血液型が違うと拒絶反応が出る。


違っても大丈夫な組み合わせもあったな。


それがこの世界では魔力の型なのかも知れない。


 しかも、元々、体内を循環する魔力量が少ない者ほど効果は薄いそうだ。


「治癒魔法は怪我人の魔力量によって治りが違うんだ」


何故か魔力が少ない者ほど治りが遅い。




「アタトくんには悪いが、これをしばらく預からせて欲しい」


ティモシーさんが提案する。


「警備隊で責任を持って調べさせてもらう」


隊員さんたちに飲ませるつもりのようだ。


確かに、体力のある警備隊員の皆さんなら、不測の事態でも対処が可能である。


従来、使われている回復薬も、隊には常備されているとなれば尚更だ。


「それは大変に嬉しいご提案です。 ぜひ、お願いいたします」


僕は準備してきた薬草茶の八割ほどをティモシーさんに託す。




 残りの二割をワルワさんに渡した。


「もし、この家でご協力いただけるとしたら、ティモシーさんからの調査結果が出てからにして下さい」


ワルワさんは高齢だし、ヨシローは異世界人だ。


何か違う症状が出るかも知れない。


「アタトくんの心配も分かるが、ワシは研究者だからの。 自分の体で魔力の異常が起こるかも知れんと聞くと試してみたくなるわい」


ガハハと笑う。


いやいや、いくら研究者でも自分の体で治験はやらないでしょう。


やらないよね?。


不安そうな顔になった僕を見て、ワルワさんは苦笑した。


「大丈夫じゃよ。 必ず少量から様子を見ながら始めるし、しっかりと観察記録は残すことにするからの」


とりあえず、今、飲んだ分から記録は取ってくれることになった。


「あのー、特にヨシローには気をつけてください」


美味しいからと、勝手に喫茶店や領主のお嬢さんに渡さないように見張って欲しい。


「了解した。 気を付けておくよ」


「ワシも厳重に管理しよう」


ティモシーさんとワルワさんが頷く。


「お願いします」


僕は二人に頭を下げた。




「あ、そうだ。 先日、また教会の蔵書室に押しかけてしまって。


警備隊の皆さんや司書の方にもお世話になりました」


そう言って、教会用にと燻製と干し魚を渡す。


「ああ、聞いてる。 すごいね」


うん、すごい司書さんだった。


「厳しい方だそうですが、僕には普通に接してくださいましたよ?」


そこへ「お待たせー」とヨシローが食事の準備が出来たことを知らせる。


「なになに?。 さっきからすごく盛り上がってたみたいだけどー」


興味津々で話に入ってくる。




「はい。 蔵書室での話をしていました。


ヨシローさんは本は読まれないんですか?」


ガチャガチャとガビーが食器を並べ、美味しそうな匂いが部屋に満ちる。


「んー、一応は努力したんだがなあ」


眉を寄せて嫌そうな顔をする。


「ふふっ。 ヨシローは最初、子供が読む本で勉強させたら、恥ずかしいって途中で止めてしまってね」


ティモシーさんは嬉しそうに魚の燻製に木のフォークを刺す。


「そうじゃったな。 一通り文字は覚えたんじゃがのお」


ワルワさんは燻製を見ると酒瓶を持ち出した。


それをカップに注ぎながらヨシローの話に花が咲く。


「だって、町中で必要になる文字は数字くらいだし。


店の看板はほとんど図案化された絵文字みたいなもんだしさ」


組合や領主館では、読めないヨシローにちゃんと係の人が説明してくれるので勉強は止めてしまった。




「でも、ここの文字は美しいです」


ガビーがパンに燻製を挟みながら変なことを言い出す。


「読めなくても、綺麗に並んだ文字は好きです」


あー、これは僕の文字練習の紙を見たな。


本を丸ごと書き写しているから、文字が綺麗に並んでいる。


僕は話題を変えることにした。


「明日は漁師さんに干し魚を渡してから、また魔道具店に行きたいのですが」


酒を飲むワルワさんが羨ましい。


塔では飲むけど、ここでは大っぴらには飲めない。


僕は七歳の子供だからな。


「承知した」


何故かティモシーさんが返事をする。


薬草茶の件で忙しいと思うんだけど。


「あの店の主人に、ぜひアタトくんを紹介して欲しいと頼まれてるんだ」


ぐえっ。


スープにむせてしまった……。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「警備隊で責任を持って調べさせてもらう」 そこまで気を遣うお茶を敢えて売る必要ないと思うな。そんなにお金が必要なのかな。
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