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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百八十八話・誰のために始めたのか


「さっき、キツロタに会ったらしいな」


このドワーフはロタ氏の実の兄である。


「ええ」


「辺境のドワーフ街の家族を人質にして連れ戻そうとしてるヤツがいるだと?」


「いえ。 そういうこともあるかも知れないという話です」


頑丈な大の男を、同じドワーフとしても無理矢理連れ去るのは難しい。


「だから、例え話として家族が病気だとか、一目だけでも会いたいとか」


そんな口実で一緒に町を出ようと持ち掛けてくるかも知れない。


向こうは連れ帰れればなんとかなると思っているし、こちらは1人でも職人が減ると苦しくなる。


「そうでしょう?」


「んだな」


ドワーフにしては背が高いロタ氏兄は、腕を組んで深く頷いた。


「小僧、どうしたら良いと思う」


え、僕に訊くの?。




「そうですね」


まずは「そう言って近づいてくる者がいること」を周知すべきだ。


それでもドワーフ族は家族の絆が強い種族なので「もしかしたら」と気にする者も出るかも知れない。


「そうなると仕事に支障が出るな」


ロタ氏兄は顔を顰める。


ドワーフの職人は鍛治を中心に危ない仕事が多い。


特に今は、普段は地下に街を形成するドワーフ族には珍しく地上に工房街を作っていた。


地下とは作り方が異なる。


集中を欠いて怪我などされても困るので注意が必要だ。




 ロタ氏兄は唸る。


「すでに故郷の家族が気になっている者もいるかも知れんな」


あー、ホームシックか。


その場合はどうするか。


「そこで治安隊の出番ですよ」


「あー?」


治安隊の長にギロリと睨まれる。


訊いてきたのはそっちでしょうに。


「家族をこちらに呼ぶんです」


治安隊から家族に打診してもらい、こちらの領地に来てもらえばいい。


「そんなに簡単に行くか?」


「実際には、この町に呼べるのは何年か先の話になりますが」


今すぐ、なんて難しいのは分かっている。


「家族の心配を煽って連れ戻そうとする話に対抗して、こういう対応も出来るという話ですよ」


でも、この地に残ったドワーフの職人たちは、そういうつもりだったはず。


それを思い出してもらいたい。




 辺境のドワーフ街を出た職人たちは、何のために違う土地へ向かったのか。


「鍛治組合の横暴で自分が作りたいものが作れなかったからだろ」


ロタ氏兄は太い腕を組んで答える。


確かにな。


「それは何のためでしょうか」


「あ?、何が言いたい」


僕は薄く微笑む。


「工房の上司や仲間に、家族に、認めてもらいたかったのではないですか?」


誰も作ったことのないもの、誰かが作ったものより、もっと素晴らしいものを作りたい。


職人は皆、誰かに認めてもらいたいという自己顕示欲の塊だ。


「だからこそ家族や知人の傍から離れ、故郷である地下街も離れて、ここまで来た」


結局、騙されて酷い目に遭ったが、自業自得だといってしまうには惜しい気がする。


「僕は、そういう思いっ切りの良さも職人には必要だと思ってるんですよ」


うまく言えないけど、ハングリー精神というか、逆境に耐えて見返す気概というか。


「つまり?」


ロタ氏兄は眉を寄せる。


「つまり、僕はそんな彼らを応援したいんです」


家族に会いたいなら早く一人前になればいい。


あんな頑固ジジイに負けるな。




 そのためには。


「まずは手紙のやり取りからでしょうかね」


それなら手伝ってやってもいい。


直接、ドワーフ街の家族に届けるのは難しいだろう。


でも、モリヒトに頼んで塔の見張り小屋に届けるくらいなら出来る。


「それで、もし家族がこちらに来たいという話になれば、治安隊の護衛と一緒に来てもらえばいいと思いますよ」


身内に鍛治組合に不満を持つ者が出た時点で、今のドワーフ街に残っている家族は肩身の狭い思いをしているかも知れない。


案外、連れ戻すより、こちらに来たいという家族はいそうなんだよな。


「なるほどな。 とにかく、まずはこっちの受け入れ体制を整えろということか」


「そういうことです」


と、僕は頷いた。




 ロタ氏には「領主に援助を頼んでみろ」と伝えたけど、たぶん僕にも一緒に来いって言ってくるだろうな。


エンディなら大丈夫だとは思うが。


「僕はしばらくの間、この領地に滞在していますので」


不在でも宿の主人に伝えてもらえばいい。


「分かった。 責任者のアヤツに話しておく」


ロタ氏兄は納得してくれたようで、建築中のドワーフ工房街へと戻って行った。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「クロレンシア様、ようこそいらっしゃいました」


「お久しぶりですね、お嬢様。さっそくですが、アタト様とメリーが来ているはずですが」


「はい、メリーさんはこちらに」


「師匠。 こちらでお嬢様と一緒に訓練させて頂くことになりました!」


「それは良かったですね、メリー。 それで、アタト様は?」


「そ、それがー」


「クロレンシア様と入れ違いでエンディ様領にお戻りになられました」


「えっ、どういうことですか?」


「分かりませんが、朝の鍛錬中に知らせが入って。 それですぐにお立ちになりましたが、どこかでお会いになりませんでしたか?」


「1日程度の距離しかないが、もしかしたら魔法で逃げたのかも……」


「は?、逃げたって」


「あはは、いや、こちらの話ですわ。 とにかく、お嬢様とメリーが一緒に訓練するのは良いことだと思います。 よろしくお願い申し上げます」


「こちらこそ、よい訓練相手が出来て喜んでおりますわ」




「あの、師匠。 2人だけで話があるんですが」


「なんだ?、メリー」


「実は、アタトから預かった手紙があるんです」


「お嬢様。 失礼ですが、少し2人で話をしてもよろしいでしょうか?」


「はい、アタト様がわざわざ手紙を渡すくらいですから大切なことでしょう。 どうぞ、あちらの部屋をお使いください」


「ありがとうございます、お言葉に甘えさせて頂きます」




「読んでも良いの?」


「はい!。 ちょっとあたしには難しくて」


「……これは」


「師匠。 これって、何のことでしょうか」


「メリー、お前は今回の任務の鍵になるかも知れません。 むー、魔道具や魔力を使わない判別か」


 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



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