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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百八十六話・剣術の天才と友人

誤字報告、ありがとうございます!


 メリーの剣技を初めて見たが、やはり天才だった。


ただ「もう少し落ち着け」とは思う。


僕たちはゆっくり体を解していたのだが、メリーは最初から剣を振り回している。


動きが粗過ぎて美しくない。


「お嬢様、アレをどう思います?。 姉弟子として」


「キレは良いけど、突っ込み過ぎかしら」


夢中で剣を振るメリーを、お嬢様と僕は庭のベンチに座り、並んで眺めている。


あんな予想出来ない剣が来たら、いくら木剣でも危なくて近寄れない。


「ええ。 確かに強そうですが、あれでは騎士としては使いづらいですね」


戦闘狂かよ。


あまりにも剣筋がメチャクチャで、僕は相手にしたくない。




 突然、メリーの動きがピタッと止まる。


「プハーッ、すっきりしたー」


天を見上げて剣を下ろし、汗を拭う。


ただのストレス発散だったらしい。


「あれ?、お二人はー」


メリーはこっちを見て戸惑う。


「危なくて近寄れませんでしたから」


僕は立ち上がる。


「メリーは少し休憩しててください」


「う、うん」


ベンチの横には使用人が汗拭きを持って待機している。


メリーを任せると、お嬢様もベンチから立ち上がった。


 僕たちはニコリと顔を見合わせ、2人で素振りから始める。


僕は愛用の双剣ではなく普通の木剣を借りた。


お嬢様と息を合わせ、近くで剣を振っても危なくない距離を保つ。


『アタト様』


ふいにモリヒトが近寄って来る。


「ん?、どうした」


お嬢様には続けてもらい、僕は部屋に戻ることにした。




 ぶっちゃけると、あの少女たちを2人きりにさせるための口実である。


軽く水で汗を流し、着替える。


部屋担当の使用人には、朝食は部屋へ運んでほしいと伝えておいた。


 モリヒトがミルクを入れたコーヒーをテーブルに置き、僕が一息で飲み終わったところで話し出す。


『本部から至急の連絡が来ております』


なんだ、本当に連絡が来たのか。


目の前に魔石が入った箱が置かれた。


んん?、こんな物、いつの間に作ったの。


『録音機という魔道具です』


モリヒトは僕の元の世界の記憶から、何かと便利なものを作ってくれる。


未知の道具を創るというのはかなり難しく、どんな魔法でも使いこなすモリヒトでも苦労しているようだ。


本当の主である精霊王の依頼で、僕が快適に過ごせるように努力しているのは知っているが、あまり他人に見せられないモノは作らないほうがいいと思う。


段々と精巧になってきてるのも怖い。


しかし、僕が寝ている間に記憶を抜くのは止めてほしいなあ。


なんか減りそうだしさ。




 ともあれ、聞いてみるか。


「どれどれ」


それに触れると、モリヒトの分身が入っているランプに訴える者の声が再生される。


『アタトー、見てー』


『オラの方が上手く書けたー』


サンテとトスの修行の成果の披露である。


残念ながら画像は見えない。


そんなのは帰ったらいくらでも見るし、褒めてやるよ。


そう思いながらニヤニヤしてしまう。


子供はかわいい。


 ハナもスーと一緒に読み書きの練習をしているそうだ。


『この本も読んだの』と本の題名を読み上げる。


ゲッ、教会の暗号(日本語)解読用の教本じゃねえか。


あんまり子供が見るものじゃない気がするけど、司書さんが渡したのかな。


本部内で暗号が使えなくなるので止めてくれ。




 さて、今まではちゃんと作動しているかの確認で、ここからが本番らしい。


『アタト様にお願いがございます』


ドワーフのお婆様の声だ。


『兄が、わたくしの息子を連れ戻す計画であることが分かりました』


「うーむ」


あの頑固ジジイめ。 またいらんことを。


お婆様の息子は、辺境地のドワーフ街を出て、現在はエンディ領で新たなドワーフ地区を作る仕事をしている。


 ドワーフ街の治安隊が噂を聞き付け、鍛治組合の知り合いから裏も取ったという。


『自分で追い詰めておきながら、立ち直ったばかりの甥をまた連れ戻そうとするなど許せません』


お婆様の声は冷静になろうとすればするほど、恨みが駄々漏れの恐ろしい声になっていた。


『アタト様。 お近くに寄ることがありましたら、息子に気を付けるよう、お伝えください』


実質、これは僕になんとかしてくれって話だよな。




「エンディ領に戻るぞ」


『承知いたしました』


どうせ、ここにいてもやる事はない。


クロレンシア嬢も来るし、しばらくの間、メリーを預けるには良い環境だろう。


僕はサラサラと1通の手紙を書く。


キランが、朝食を運んできた使用人から受け取り、テーブルに並べていた。


「キラン、食事が終わったらエンディ領に戻る」


一瞬、手が止まったが、すぐに立ち直り礼を取る。


「はい、承知いたしました」


並べ終えるとすぐに着替え始める。


「モリヒト。 これを極秘でメリーに渡してくれ。 誰にも見せないように約束させろ」


『承知いたしました』


そう言って光の玉になり、姿を消す。


僕は手早く朝食を口に運んだ。




 キランが馬車の準備している間に、僕はお嬢様の部屋に向かう。


お嬢様は朝食中のため部屋には入らず、眼鏡の側近の青年に言付けを頼む。


「申し訳ありません。 緊急の用事が出来てしまいまして、エンディ様の領地に戻らなければならなくなりました」


青年の眉が下がり、悲しそうな顔になる。


「お嬢様はアタト様にお会いするのを本当に楽しみにされておりました」


なんだか家令と同じ話をしているな。


「問題が片付きましたら、辺境地に戻る前に必ずお寄りますとお伝えください」


僕は知っている。


お嬢様の想い人が、この青年であることを。


「その間、お穣様を慰めて上げてくださいね」


「は、はあ」


鈍感は時には罪だよ。


「あー、クロレンシア様がこちらにおいでになりますので、メリーは置いていきます」


お嬢様と2人で師匠から指導を受けられるように手筈を頼んだ。


どうせ大旦那は不在だし、融通は利くだろう。


「承知いたしました。 お嬢様と相談させて頂きます」


相変わらず冷静な若者である。


「それでは、よろしくお願いします」


僕たちはお互いに礼を取り別れた。


 正面ではなく裏口から出る。


白馬は目立つので、メリーに騒がれないうちに出発した。



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