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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三十八話・薬草茶の完成と治験


 後日、長老とネルさんのお蔭で僕は薬草茶を完成させた。 

 

いやあ、もう、長老の字の難解さは凄かったけど、何とか解読。


二歳から七歳までの五年間、お世話になった長老の字の癖は何とか覚えていたようだ。


まるで、側にいて指導されているような、村を出てから初めて、懐かしくて暖かい気持ちになれた。


 それと、薬草はモリヒトが探し出し、僕が採集することになった。


魔力の塊である精霊が薬草に触れると影響が出てしまうそうだ。


僕は改めて薬草用のノートを作成し、ガビーも一緒に森の薬草分布図を作った。


こうしておけば、急ぎの時はガビーでも採集出来るから、僕が森に入れなくなってしまっても大丈夫だろう。


よろしく頼む。



 

「モリヒト」


『はい。 承知いたしました』


乾燥させ適度に解した葉に、最後はモリヒトが効果を高める魔法を掛けて終了。


長老の眷属とは属性が違うため、同じ魔法を掛けても全く同じ味にはならないが、これはこれで美味しい。


「ふう。 何とか薬草茶にはなったな」


試飲したが問題ない。


「おめでとうございます、アタト様、モリヒトさん」


ガビーも喜んでくれた。


「ありがとう、苦労した甲斐があったよ」


後は町に行って、人族でも問題がないか試飲してもらうだけだ。




 というか、今回、薬草茶が完成して気付いた。


これはただのお茶じゃない。


「モリヒトは気付いてたの?」


『いえ。 精霊には効果はございませんので』


長老が作っていたのは、滋養薬だった。


体が弱い者や病気療養者のための薬草茶。


そうだよ、薬草なんだから薬に決まってる。


何で今までそんな簡単なことに気づかなかったのか。


「長老を訪ねて来ていた客は病人もいたのかな」

 

『そうかも知れませんね』


長老は医者も兼ねていたのか。


『アタト様のためのお茶だったのかも知れませんよ』


モリヒトがそんなことを言う。


「僕のため?」


『二歳の幼子が倒れていたのです。 病気でなくても体が弱っていたのは間違いありません』


あ、そうか。


元の世界の僕が健康だったとしても、この世界での体は病んでいたのかも知れない。


この滋養のお茶をずっと飲んでいたお蔭で僕は無事に育った。


『ネル様に紙を届けさせたのも、必要な薬だからではないでしょうか』


「美味しくて体にも良いなんて」


今さらながら長老は偉大だったなと思う。


いや、本当にまだ亡くなってはいないけど。




 町へ向かう準備にかかる。


今回の荷物は干し魚に加えて、魔獣と魔魚の素材。


教会警備隊用に差し入れの燻製。


そしてヨシローに試飲してもらうための薬草茶である。


「ヨシローさん、きっと喜んでくれますね」


今日はガビーも同行する。


「そうだな」


ニャーニャー


タヌ子も一回り大きくなり、僕たちの速度に遅れなくなってきた。




 早朝出発、夕食前にワルワ邸到着予定は変わらない。


「ガビー、確認だけど」


そろそろ森の端が見えて来た頃、最後の休憩地点で僕はガビーを睨む。


「は、はいっ」


前回、僕の文字を書いた紙を勝手に持ち出した。


それを咎めるつもりはないが、問題はそれを他の者に見られたことだ。


恥ずかしいったらない。


「でも本当に素敵だったから」


「うるさい」


「ヒッ」


ガビーは子供の僕より二回りも大きな身体を縮こませる。


『アタト様、それくらいで』


珍しくモリヒトがガビーを庇った。


『そもそもアタト様が書いたものを放置していたのが悪いのでしょう?』


モリヒト、お前は僕の母親か。


「分かった、もう言わないけど。 ガビーは今後注意な」


「はい!」


『アタト様、もですね』


うう。 分かったってば。




「こんばんは」


ワルワ邸に到着すると、何故かティモシーさんが居た。


「いらっしゃい」


今日は休みだったらしい。


「こんばんは、今回もよろしくお願いします」


いつものように歓迎され、モリヒトとワルワさんが荷物の確認を始める。


ヨシローがお茶を淹れてくれて、ガビーが地下の部屋の整理に向かう。


「ヨシローさん、お願いがあるのですが」


僕は試飲用の茶葉の袋を出した。


「ん?」


ヨシローとティモシーさんが僕の手元に注目する。


「遅くなりましたが、薬草茶の見本です」


「おー、エルフ茶!」


ヨシローが嬉しそうに茶葉の袋を手に取った。




 ヨシローとティモシーさんは、二人で袋の上から匂いを嗅いだり、そっと手触りを確かめたりしている。


「実は、僕がお世話になった村の長老の知り合いが尋ねて来て、その方から詳しい作り方を教わりました」


紙があると言うと絶対「見せて」って言われるから内緒だ。


「一応、僕たちは大丈夫だと判断しましたが、ヨシローさんたちに試飲をお願いしたいんです」


「おお、了解だ。 すぐ飲んでみてもいい?」


我慢出来ないと立ち上がるヨシローに僕は一言声を掛ける。


「でも、実はこのお茶、普通の嗜好品のお茶じゃなくて」


ティモシーさんが顔を上げて僕を見る。


「薬草茶。 つまり【薬】だったんです」


ティモシーさんが「へえ」と言って、改めて匂いを嗅ぐ。


「それで、エルフには体調を良くする薬でも、人間にはどういった効果があるのか分からなくて」


「ふむ。 じゃ、試験的に私たちが飲んで様子を見たほうが良いということだね」


「はい」


僕はティモシーさんに頷き、「お願いします」と頭を下げる。




「それじゃあ、俺たちだけじゃなくて、体調が悪い人とか女性とか、色々治験してみないといけないな」


ヨシローがとりあえず一杯目を入れたカップを持って来る。


【治験】とは医薬品を開発するときに安全性や有効性を確認するためのものだ。


「はい。 でもそんなに都合の良い協力者はいるでしょうか」


だって、危険かも知れない。


「どういった効果があるの?」


ヨシローはいきなりグイッと飲み、ティモシーさんはチビッと飲む。


「美味しい!、ナニコレ」


ヨシローの目が輝いている。


「ワシにもくれ」とワルワさんがやって来て、ヨシローが新しく淹れたカップを渡す。


少しずつ口に入れて味を確かめていたワルワさんも、


「うむ。 不味くはないぞ」


と、ウンウンと頷くが、ティモシーさんは首を傾げていた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 癒しの効果があるお茶、とても高価になるんじゃない。
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