表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

377/667

第三百七十七話・実験用の畑の期待


 さて、今日はここに泊まる。


「モリヒト、野営用の小屋じゃなくて、常設の小屋にしたいんだが」


『承知いたしました。 ガビーさん、手伝っていただけますか?』


「ひゃっ、ひゃい!」


ガビー、声が裏返ってるぞ。


おそらく基礎部分に魔石の設置が必要なんだろう。


「ガビー、頼んだ」


「お任せください!」


モリヒトとガビーは建てる場所から検討を始める。


火属性のドワーフと土属性のモリヒトの相性は良さそうだ。




 その間に僕は生えている草を確認しよう。


なんか、見たことある草なんだけど何だっけ。


細い葉を引っ張ってみる。


「アタト様!。 足元に気を付けて」


キランが追いかけて来た。


 かなりグチャグチャした湿地帯になっていた。


「魔魚の粉だしなあ。 塩分とか含んでないんだろうか」


「塩分ですか?。 土に含まれていたら、ここまで育たないと思います」


「そうだな」


2人で並んで草を観察する。




「水はどこからだ?」


「地下水のようです。 モリヒト様がかなり遠い場所から引っ張って来られたみたいで」


あれ?。 魔物の抜け殻がいたのは地底湖じゃなかったか。


水が無いのはスライム型魔物たちに吸い尽くされた後だからか。


だとしたら、その地底湖に流れ込んでいた水源があるはず。


モリヒトはそこから引っ張って来たんだろう。




「エルフの森にも地下水は有ったな」


地下からの湧水があちこちにあって、その泉から小川となって海へと流れている。


森に点在するエルフの集落は、それぞれの泉の近くに形成されていた。


ドワーフの地下街でも地底湖から水を引いていると聞いたし。


かなり昔に、どこかで流れが変わったのかも知れない。


 ちゃんと地下水が流れていれば魔物たちも水に含まれる魔素で生き延びただろうか。


ある時から魔物の棲家だった地底湖に水が流れて来なくなる。


元々は水属性の魔物は魔素を補充出来なくなり、仕方なく土の魔力を吸収し始めた。


そのために、この土地は魔力を含まない荒れ地になったんじゃないか?。


そうして、やがて魔物たちは仲間の魔力も吸い尽くす。


もし、あのまま気付かずに放置していたら、魔素を求めて地上に出て来たかも知れない。


いや、それはさすがに考え過ぎか。




 僕は草をいくつか刈り取り、それを手にサンテの所に戻る。


双子は石垣からの景色を眺めていた。


小高い場所なので、いい風が吹き抜ける。


「サンテ、これを見てくれるか」


双子には、なるべく敬語は失くすように言い聞かせている。


仕事の時は仕方ないが、今は休暇中だからな。


「はい!。 あ、うん、いいよ」


妹のハナと何を話したのか、スッキリした顔で笑っている。


「この草を?」


「うん」


僕は頷く。


「何の植物なのか。 実がなるとか、家畜の餌とか。 何に使えるのかを知りたい」


サンテは真剣な顔で頷き、一つ一つ草を鑑定していく。




 まず、食べられるものと食べられないものに分けてもらう。


毒があると困る。


「えっと、牧草と野菜としか分からないです」


牧草が2種類。


これは、辺境の町周辺でもよく見かけるものだとキランが言う。


後は小さな花を付ける草花。


種子がこの辺りにも飛んで来るのだろう。


「この細い葉は野菜って出るけど。 麦に近いのに、なんか違う種類みたいで」


植物の名称が分からないのは、サンテ自身にその知識がないせいだ。


視界に情報が出ていても理解出来ないらしい。


「紙に書いてみてくれ」


僕は常に紙とペンは持ち歩いている。


それを渡して、浮かんだ文字を書かせた。




「えっと、なんか見たことある文字なんだけど」


サンテが一生懸命書いた字は『ライス』である。


やっぱり!。


僕は喜びで踊り出しそうになるのを我慢した。


サンテは、言葉でライスは知っていても文字を見たことがないし、僕以外は食材としてのライスしか見たことがなかった。


つまり誰も稲を知らない。


だから、サンテに分かるはずがないのだ。


この国ではライスの種子から芽が出たから、ライスという植物という認識なのだろう。




 実は肥料を蒔いた後、モリヒトにライスの種子を撒いてもらっていた。


モリヒトが荒れ地を湿地にして肥料を蒔くと聞いた時に、もしかしたらと頼んでみたら当たり!。


米を買った食料品店で籾殻が付いたままの未加工品を、頼み込んでもらったのである。


それをこっそり水に浸して、芽が出ないか調べていた。


数は少ないが、芽と根が出たものをモリヒトに託したのをすっかり忘れてたよ。


まだ栽培出来るかは分からないし、育て方も分からない。


でも今は、この土地でも育つ可能性があると分かっただけでも有難い。


このまま育ってくれるように祈る。


「モリヒト。 この草を重点的に育ててほしい」


『承知いたしました』


皆、上機嫌な僕を見て不思議そうな顔をしてるけど気にすんな。




 一泊して、翌日は実験場の広さを確認して回る。


「サンテ、石垣から他の国に名前が見えたら言って」


わけの分からない文字が出た場合も声を上げるように頼んだ。


「うん、分かった」


他国の情報は違う文字で出るかも知れないからな。


「ずっと視てるけど、他の情報は出て来ないよ」


「そか」


ならいい。




 一周して石碑の所まで戻って来た。


「よし、帰るか」


石垣から夕日が落ちるのを眺めながら、背伸びをする。


そろそろ帰らないと仕事が溜まっていそうだ。


「あの、アタト様。 もう夜になってしまいますよ?」


今日のガビーはモリヒトに頼んで、ずっと鉱石掘りをしていた。


そろそろ荷物もいっぱいだろ?。


「大丈夫。 魔法で一旦、国境門まで飛ぶ」


国境の出入りは確認されるから、顔は見せなきゃならん。


そこから森に入り、兵士たちの姿が見えなくなったところで本部まで飛ぶ。


「というわけだ」


無事に本部前に到着した。




「皆、付き合ってくれてありがとう。 でもしばらくはあの実験場のことは内緒で頼む」


「はい!」「分かってます」「うん」


それぞれ自分の部屋へ戻って行く。


「サンテ」


「うん?」


「何度も魔法を使わせて済まなかった」


僕は頭を下げた。


「えっ、イヤ、そんな」


サンテが慌てる。


でも、町中では使わないからな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ