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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百七十六話・崖の上の緑


「ここかあ」


広過ぎて全体は見えないが、荒れ地のはずの土地に緑の草が生い茂っていた。


『土地を隆起させ、周りからは見えないようにして実験場を作りました』


荒れ地の一部を台地にしたのはモリヒトらしい。


 僕は振り返って崖の向こうを見る。


国境の壁、その向こうに塔のある草原、その両側にはエルフの森と魔獣の森、その先は海だ。


崖の下に広がる荒れ地に、朝まで居た場所に付けた目印が見えた。


思ったより近い。


かなり歩いたと感じたが、こうして見るとあまり国境から離れていないな。


「待てよ。 こんなに近いなら昨日からこの崖が見えてるはずだろう?」


ニヤリと口元を歪めた眷属精霊は、


『私は大地の精霊ですので』


と、答えにならない応えで返す。


どうやら見えない結界で隠しているな、コレは。




 先日、僕たちは王都への旅から戻って来た。


辺境地は元々、魔獣被害の多い土地だが、魔獣の出現が増えていた。


無理もない。


僕がこの世界に呼ばれ、精霊王とやらがモリヒトを眷属に寄越した頃から、この辺境地の魔獣は減っていた。


おそらく、強力な精霊であるモリヒトを魔獣たちが恐れて近寄らなくなったのではないかと思われる。


ここ3ヶ月ほど僕たちが留守にしたせいで、その魔獣たちがモリヒトの不在を嗅ぎつけ、戻って来たのだろう。


 僕が人里に来て魔獣の素材を流通させたせいもあって、町では魔獣対策が強化され、猟師も増えていた。


お蔭で町は無事。


全く被害がないわけではないが、魔獣素材の売買で辺境地は潤っている。




 海も魔魚が増えていたが、近距離でしか戦えない住民たちでは対応が出来ない。


僕とモリヒトで討伐することになった。


その時、大量の雑魚の処分に困ったモリヒトに僕が提案したのである。


『荒れ地に魔素を含んだ肥料を蒔いたらどうなるのか、やってみないか?』


大地の精霊は、魔力の無い荒れ地を見捨ててはいなかった。


 魔魚の死骸を乾燥させ、魔素を含んだ粉末にして蒔いた。


その結果がコレか。


「キレイですねー」


ハナが声を上げる。


「これをモリヒト様が?。 さすがです!」


モリヒト大好きキランが感激している。


いやまあ、大地の精霊だからな?。


『草が生えている場所は土を柔らかくして水を含んでいます。 泥に足を取られないようにしなさい』


駆け出したハナとガビーが危なっかしくてモリヒトが慌ててついて行く。


その後をキランが追いかけた。




「サンテ。 視てほしいものがある」


サンテは一瞬ギョッとした顔になる。


「いいの?」


「ああ」


目の前にはハナとガビーとキラン。


モリヒトについては魔力が高過ぎてサンテには無理だ。


「実は土地の情報を見てほしいんだ」


「あ、うん」


じっと地面を見る。


「……何も出ない。 土くれ、小石くらいだよ」


「ふうん。 じゃ、あっちの方、国境の壁を見てくれ」


確か、サンテの視力は良いはずだ。


「エテオール国辺境の町バイット、国境線の石壁」


ふむ、やはり便利な魔法だな。


ならば、この土地はどこの国にものでもないということだ。


だが、もう一押ししよう。




 モリヒトを呼ぶ。


「この実験場の周辺を石塀で囲ってくれ」


低くて簡単なもので構わない。


要は目安に成ればいいだけだ。


『承知いたしました』


一瞬で、崖に沿って低い石垣が現れた。


「今度は石碑だ。 これは目立つように頼む」


僕は1枚の紙を渡す。


『大地の精霊の実験場、許可なく侵入するべからず、ですか?』


「そうだよ」


そのままだろ?。 異議はないよな。


『分かりました』


不満そうだが、とりあえずはやってくれるみたいだ。




「何やってるんですかー」


ガビーたちが戻って来る。


「記念に石碑でも建てようと思ってさ」


ガビーはモリヒトが手に持つ紙に興味を示す。


「やっぱりアタト様の字は良いですね!。 コレは綺麗なだけじゃなくって、迫力というか、気合いが感じられます」


それはな、ガビー。


「侵入不可」の気持ちを込めてあるからだと思うよ。


『ガビーさん、石碑の材質は何が良いと思いますか?』


珍しくモリヒトがガビーに訊ねる。


「そーですねー。 アタト様の字が映えるように」


ガサゴソと自分の荷物を漁る。


ドワーフの袋は、主に鉱石などの鍛治材料を集めるために用いるものだ。


ガビーも歩きながら、あちこちで石や素材になりそうなものを拾っては放り込んでいた。


「これ、どうですか?。 真っ黒で超硬いし、これに白で文字が浮かんだら最高にカッコいいかなって」


黒い石の欠片をモリヒトに見せる。


『この辺りで拾いましたか?』


「はい、ここに登って来る途中で」


崖に足場を作った時に手に入れたそうだ。


僕はガビーがあの状態でも素材集めしてたことに驚く。


ドワーフの鍛治愛は半端ないな。


『いいでしょう』


モリヒトも納得したようだ。




 目を閉じて集中するモリヒトから、皆、離れる。


ゴゴゴ……


地面が揺れて、パカッと割れた。


そこからデカい真っ黒な岩が現れる。


「大っきい。 あれ、欲しいなー」


ガビーの欲望とヨダレが駄々漏れだ。


すぐに綺麗に削られ、高さはモリヒトの身長よりも高く、横幅も両手を広げたくらいの石碑になった。


「デカ過ぎる」


僕が文句を言うと、チラリとこっちを見た後、半分くらいの大きさに修正。


程なく、石碑が完成する。




「おー」「カッコいい!」


これ、黒曜石ってヤツか?。


立派だな。


モリヒトらしくて良い。


文字が僕が書いたそのままなのは、なんで?。


『アタト様の魔力が勿体ないと思いまして』


紙をそのまま取り込んだそうだ。


はあ、そういうことも出来るのか。


なんとも立派な『侵入不可の注意書き』が出来上がった。




「さて、サンテ。 もう一度、この辺りの土地を視てくれ」


「うん」


しばらく集中して地面を睨む。


「あ、『大地の精霊の実験場』って出た!」


「そか」


良かった良かった。


「あのー、どういうことです?」


ガビーが首を傾げる。


「この土地がモリヒトの実験場だと神様が認めたのさ」


『鑑定』に限らず魔法というのは、この世界の摂理。


それが発動し確認出来たということは、神が認めたという証。


人間ではなく神が、な。



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