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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百七十五話・荒れ地の次の目的地


 穴と魔物の調査を終えて、僕たちは地上へと戻る。


「お帰りなさい!」


駆け寄って来たハナが、兄のサンテに抱き付く。


サンテはハナを抱き止めながら、チラリと僕を見た。


なんでこっち見るんだよ。


僕は手振りで気にしないように伝えて、先に小屋に入る。


 思っていたより時間が掛かったせいで、もう夕食の支度の時間になっていた。


「あ、アタト様。 ご無事で」


「お帰りー」


キランとガビーが食事の準備をしていた。


「うん。 戻ったよ。 地下は異常ナシ」


「良かったです!」


ガビーは前回、あの半液状の生物を気持ち悪がっていたから、心からホッとした様子だった。


 ワルワさんのお土産代わりに、僕は地下にいた魔物の抜け殻の一部を持ち帰って来た。


全く同じ個体なのか、また違う個体や種類なのかを調べてもらう予定である。


夕食を待つ間、それをウゴウゴと一緒に観察した。




 野営用の小屋はしっかりとした台所がある。


キランは老夫婦から料理も習っているらしい。


食材はモリヒトが結界倉庫に入れて持ち歩いているし、日持ちするものならガビーのドワーフの素材用袋にも入っていた。


「パスタにサラダにスープか!」


荒れ地の中とは思えない普通の夕食を頂く。


 食べながら、やけにおとなしいサンテをハナが心配していた。


「何かありましたか?」


キランもこっそり訊いてくるが、僕は「問題ないよ」と返す。


他の者がいる場所で制約の話は口に出来ない。


サンテもしばらくすれば慣れるだろう。


「これで任務は終わりですか?」


おいおい、キラン。


僕たちは休暇を楽しむために来たはずだが。


地下の調査はそのついでだ。




「明日は、もう一箇所行く所がある」


「どこですか?」


ガビーは心配そうに訊ねた。


「それは着いてからのお楽しみだ」


危ない場所ではないから安心しな。


 今日は魔力を大量に消費したので、なんとなく疲れた。


簡易浴槽を作り、モリヒトにお湯を張ってもらう。


順番に入って荒れ地の埃を洗い流す。


ウゴウゴもプカプカ浮かんで遊ぶ。


それを見たサンテが装備に挟まっているスライム型魔物を取り出す。


「お前も入りたいか?」


ウゴウゴよりも小さな体で触手を伸ばして揺れる。


「なんだ、サンテはまだ名前も付けてないのか?」


僕が訊ねるとサンテは少し困った顔になる。


「うん、時々入れ替えてるし、見分けがつかないから」


ワルワさんが実験のため、何度かサンテの服に違う魔物を入れることがあった。


今はもう落ち着いたから入れ替えないと思うぞ。




 ウゴウゴの体色は真っ黒。


光属性のトスが育てているスライム型魔物は、薄っすら光るという特徴がある。


だが、サンテのスライム型魔物は無属性のお蔭で無色だ。


確かに他のスライム型魔物と並べると見分けはつかないかもな。


「でも、名前を付けてやると反応が違ってくるから識別出来るようになるかも知れないよ」


「そ、そうかな」


サンテはそう言いながら、自分のスライム型魔物と一緒に湯船に浮かんでいた。


 小屋の中では、ガビーとハナは仕切りの向こう側で、残りの男たちは毛布を被って床に雑魚寝である。


「名前、ウゴウゴの真似してもいい?」


並んで寝転んでいたら、サンテの声が聞こえてきた。


「ああ、構わないよ」


「じゃあ、おれのスライムはスルスルにしようと思う」


服や装備の隙間にスルッと入っていくからだそうだ。


「良いんじゃないか」


サンテも名付けのセンスは無いようで安心した。




 翌朝には魔力全快。


どうやら、僕の魔力はほぼ空っぽに近かったらしい。


すぐにモリヒトが魔力共有に戻したので倒れるようなことはなかった。


ただ、魔力が急激に減少し、その後に精霊の魔力が大量に雪崩れ込んだために体が追い付かず、疲労感が強くなってしまったようだ。


魔力を使い切るなんて、前回、穴に闇魔法ぶっ放して以来だな。


あの時も寝込んだけど、今回はそこまでじゃなくて良かった。




 朝食後、モリヒトが昨日の穴を確認してから埋め戻す。


さて、出発だ。


「えっと、どっちに?」


ガビーが見渡す限りの荒れ地を見回す。


「実は僕にも分からない」


「えっ」「はい?」


サンテとキランが同時に僕を見る。


ここからの先はモリヒトが案内するんだよ。


ほら、サッサと歩け。


『こちらです』


僕たちはモリヒトの後ろをついて行く。




 不毛の大地は、国境と国境の間に小高い山々が続く山岳地帯である。


多少は低木や草が生えている場所もあるが、ほぼ岩山。


風が吹くと土埃が舞い上がり、枯れ草や小枝が飛ばされて来る。


ゆるゆるとした登り坂。


たまに休憩を取りながら恨めしそうに快晴の空を見上げた。


「あっちぃ」


気温自体は秋も終わりに近いので、そんなに高くはない。


乾燥した風や、だだっ広い荒れ地の景色が疲れを呼ぶ。


「まだかー」


この一行の中でモリヒトに文句を言えるのは僕だけだ。


『もう少しですよ』


僕とモリヒトだけなら魔法で飛べる。


だけど今回、無理矢理歩いて移動しているのは、自分の体で移動しないと空間移動するための記憶に残らないからだ。


見ただけでは、その土地の情報を体に刻めない。


苦労して辿り着くから身につく魔法らしい。


ハアハア、いやしかしキツイ。




 急な崖の下に到着。


『この上です』


上かあ。


モリヒトが光の玉になり、一度上に上がって行く。


その間に僕たちは休憩を取る。


パラリと崖の上からロープが垂れ下がった。


「これで上がれって?」


『はい』


「わ、私が先に行きます!」


何故かガビーが先陣を切る。


まあ、いいけど。




 そんなに高い崖ではない。


見上げれば、ちゃんと頂上も見えるし。


せいぜい建物の3階程度の高さではないかな。


「では、お先に」


ロープは1本しかないので1人ずつ上がって行く。


ゆっくり上がるガビーは、流石にドワーフだけあって岩山には慣れている。


あちこちをハンマーで叩きながら足場を作っているみたいだ。


「だから最初に行くと言い出したのか」


お蔭で後の4人はガビーの足場を頼りに、楽に登れた。


「助かったよ」


無事に到着してガビーに礼を言う。


「そんなことより」


崖の上には緑が広がっていた。



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