第三百七十四話・制約の魔法を掛ける
サンテはグッと手を握り込み、口元を引き締める。
まるでこれから裁判を受ける罪人のようだ。
ある意味、そうかも知れない。
僕はため息を吐く。
だけど、今はこれしかないんだ。
「それと、制約魔法で不利益を被るのはサンテ自身ではダメだ」
「えっ、なんで?」
例えばサンテは、大切な者の命が狙われたら、きっと自分など捨てて助けようとするだろう。
その引き換えが僕の秘密の暴露だったとしたら?。
きっと僕は切り捨てられる。
「うっ」
当たり前だ。
サンテにとって僕の秘密なんて、その程度のモノなんだから。
だから魔法で縛る必要がある。
「不利益を被る者をハナに設定する」
「えっ」
僕は荷物から紙を一枚、取り出す。
『サンテリーがアタトの極秘情報を第三者に漏洩させた場合、妹であるハーナに不幸が訪れる』
予め内容を書いた紙には、すでに魔力が込められていた。
これは一方的過ぎる内容だ。
申し訳ないので、サンテ側にも約束を守る間は何らかの利益が必要だと考えた。
「サンテが僕の秘密を守るなら、僕はハナを守る」
不幸になどさせない。
「は?」
「当たり前だろ。 僕のせいでハナやサンテが不幸になったら困る」
サンテのせいなら仕方ないけど。
だから、2人のことは僕が全力で守っていく。
だとしたら、今までとあまり変わらないな。
ただ僕たちの間に契約が生じるだけ。
ニコリと笑うとサンテがポカンとする。
「あ、あの、アタトはそれで良いの?」
僕は「ああ」と頷く。
「で、これを承諾するか?」
紙を渡し、内容を確認させる。
実際には抜け穴だらけの制約だけど、サンテにはこれで十分だろ。
要はうっかりを防ぐための気持ちの問題なのだ。
「あ、ありがとう」
なんでお礼を言われたんだ?。
『では、始めてもよろしいですか?』
「うん。 頼む」
上質な紙に魔力を含んだ墨により書かれた文言には、僕の魔力が込められている。
魔石など必要ない。
『アタトは、この制約を行使するか?』
「ああ」
『サンテリーは、これを受け入れるか?』
「はい!」
モリヒトが精霊魔法を使い、制約の文言が紙を離れてサンテの体に吸い込まれた。
『これより制約は、サンテリーの体内に魔力がある限り効力を発生します。 以後、気を付けるように』
「はいっ!」
サンテはハッキリと答えた。
「じゃあ、実験してみるか」
「えっ、実験って?」
僕は笑って頷く。
大丈夫だよ、サンテの今の魔力では僕の本当の秘密など分かりはしない。
だからハナも無事だ。
ま、軽く嫌なことくらいは起きるかも知れないけど。
「サンテ、僕を見ろ」
一瞬、迷っていたが「はい」と言って、じっと僕を見た。
「えーっと、なんにも出ない」
サンテは困った顔になる。
ああ、僕の魔力の方が高いからか。
「ちょっと待ってな」
僕はウゴウゴと仲間たちの傍に移動する。
「サンテ。 これから僕の魔力をかなり減らしてみるから、一瞬だけでも見えたら言ってくれ」
「あ、ああ」
「ウゴウゴ、僕の魔力をソイツらに分けてやるから、危なくなったら教えてくれ」
何があるか分からないけど、ここは地下だからモリヒトの体内みたいなものだ。
サンテは顔だけを残し、体をスッポリ土に埋めて防御された。
「いくぞ」
一旦、僕との魔力の繋がりを切ったモリヒトが頷く。
巨大なスライム型魔物の抜け殻に好きなだけ魔力を喰わせてやる。
「美味そうに喰ってやがる」
僕はブヨブヨの体に手を突っ込み、魔力を吸われていた。
魔物は喜びを表現するように、ユラユラと体全体を揺らす。
なんかイラッとして、こっちから魔力をぶち込んでやった。
『キャッ!』
何故かウゴウゴが悲鳴を上げる。
「なんだ?」
ブワッと抜け殻が急激に膨れ上がり、穴の天井まで届いた。
ポカンと見上げていたら、ウゴウゴが僕を包み込む。
ボフンッ!
なんだか、情けない音と共に、抜け殻は針で刺された風船のように爆散した。
「へ?」
『アブナイノ ダメ』
おおう、ウゴウゴに怒られた。
『まったく、困った方ですね』
モリヒト、お前は文句言う前に止めろ。
僕は前回同様に、小さな魔石を地面に置き、その周りに小さな結界を張る。
物理的な物ではなく、悪意の無いモノならば出入り出来る結界だ。
自意識の無い、爆散した魔物の抜け殻たちがズルズルと集まり始めた。
また少しずつ魔力を吸ってスライム型になり、お互いに魔力を奪い合って、また抜け殻になる未来が見える。
で、サンテは無事か。
土に埋もれてるから大丈夫だろうけど。
「どうだ?、視えたか?」
多少、土埃は舞っているが視界は悪くない。
口をあんぐりと開けたまま固まっていた。
「サンテ?」
モリヒトが、土に埋まっていた体を解放してやる。
僕はサンテの目の前で、片手をヒラヒラと振った。
「あ、わっ、うわわ」
今さら驚いたように、ペタンと地面に座り込んだ。
何やってんの?。
「立てるか?。 ほら、手を出せ」
僕はサンテを立たせた。
「で、視たんだろ?」
じっと顔を見る。
「は、はいっ。 でも、信じられないというか、ほ、本当に?」
はあ?。 いったい何のことだ。
「何が視えたんだ?」
僕はコーヒーのポットがある焚き火の傍に戻り、岩に腰掛ける。
サンテは立ったまま、僕を見下ろした。
「種族ダークエルフ」
ああ、それが視えたんだ。
「職業は商人」
ウンウン。
「魔法属性『闇』」
おおーっと、コーヒー吹き出しそうになった。
「ふふふ。 さっそく秘密を知られてしまったな。 サンテ、気を付けろよ」
漏らしたら、ハナがどうなるか分からないぞ。
「わ、分かった」
サンテの顔色が悪い。
「あまり気に病むな。 要は誰にも話さなければいいだけだ」
サンテのカップに薬草茶を入れる。
これは最近、キランに持たされている水筒に入っているものだ。
体調管理の一環だそうで。
カップを手渡し、カツンとカップ同士を打ち付ける。
「僕たちは珍しい魔法属性持ちの仲間だな」
あはは、と笑いながらコーヒーを飲む。
「あ、あの。 これってハナにも話したらいけないの?」
「うん。 ハナが誰かに話したらどうなるか分からないからね」
我慢だ、お兄ちゃん。




