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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百七十二話・余暇のお出掛けをする


 秋になり収穫祭も終わって、僕たちの商会は軌道に乗り始めている。


事務関係はドワーフのお婆様が商人組合と相談しながら纏めてくれていた。


老夫婦の食堂は、ドワーフの母娘も含めて相変わらず人気だ。


ガビー工房は職人たちが張り切って新作を色々出してくれる。


まあ、まだガビーの合格を取れるものは少ない。


 食料品の仕入れのほうは、頻繁に他領から配達業者がやって来るようになった。


商会本部に泊めてやると、何故か喜ぶ。


「本物の魔獣だ!」


あー、そっちね。


平和な領地からやって来る彼らにすれば珍しいらしく、人慣れしているポンタが目当てなんだと。


狸だけど魔獣には違いない。


館内を歩き回っているポンタを捕まえては撫で回すのが流行っている。


一応、本物だから「気を付けろ」とは言ってあるけど。


ポンタ、オヤツもらえるからって甘え過ぎ。


太るぞ。




 あれから、僕は心に決めたことがある。


目の前で懸命に墨を磨り、ペンで文字を書くサンテに声を掛ける。


「サンテ」


「はい、なんでしょう」


落ち着いた姿も執事服に合ってきた。


「しばらくはお天気も良さそうだし、数日ふらっと出掛けようと思うんだが」


忙しい毎日でも余暇は必要だ。


「息抜きに着いてくるか」と、訊いてみる。


「はい」


何かあるのかと疑いながら、「ハナも一緒に」と言うと少し嬉しそうな顔になる。




 弁当を作ってもらおうと老夫婦に相談するため厨房へ。


弁当といっても、オニギリやパンと摘める程度のおかずを作ってもらい、皿ごと荷物に入れるだけだ。


 そこに、たまたま塔から納品に来たガビーが通り掛かった。


「どこ行くんですかー?。 たまには私も連れてってくださいー」


ヤケに迫ってくるけど、ガビーはなんか煮詰まってんの?。


「いいよ、じゃあ、もう一つ増やして」


「よろしければ、私もお願いします」


何故かキランまで顔を出す。


「休暇は自由に取ってもいいんですよね?」


最近、キランはサンテを意識し過ぎている。


子供相手に張り合うなよ。


「分かった、追加で」


サンテにはハナがついて来るし、ガビーとキランが増えて弁当は5個になった。




 うららかな日差しの中、僕たちは軽めの装備で魔獣の森に入った。


モリヒトが戻って来たせいか、段々と魔獣の数は落ち着いてきている。


他領から来た魔獣目当ての猟師や傭兵の姿もめっきり減った。


それでも、さすがに辺境地。


危険な獣や魔獣には警戒が必要だ。




 僕の懐にはウゴウゴが、サンテの服にもスライム型魔物が入っている。


のんびりと歩いて移動。


襲って来る魔獣はガビーやキランに任せる。


戦う姿を見てサンテが目を輝かせているが、あれを手本にしないほうが良いぞ。


ガビーは乱暴だし、キランは老兵が指導しているが、まだまだ危なっかしい。


どうせならティモシーさんを見習ってほしいもんだ。




「こんにちは」


「おや、アタト様。 今日はどうされました?」


国境警備の兵士たちである。


途中で1泊し、丸一日掛けて魔獣の森を抜け、国境の塀まで来た。


予め領主からもらっておいた許可証を見せる。


以前、国境の外の荒れ地にいた魔物により町に病害が出た。


今回はその跡地の調査に行くということになっている。


「その割にはお連れが」


双子と僕は子供だし、あとは護衛にしては、まあ弱そうだし。


「大丈夫です。 モリヒトがいますから」


「それもそうですな」


兵士たちは笑って通してくれた。




 魔獣の森の中では緊張して静かだったキランが口を開く。


「国境を出たのは初めてです」


「国境っていっても、ここは他国ではないけどね」


自国の外ではあるが。


「え、どうして?」


最近、蔵書室から本を借りまくっているハナが訊いてくる。


「ごらん、何も無いだろ?」


荒れ地が広がっている。


「昔々、周辺の国が集まって国の境を決める会議があったそうだが、ここは誰も欲しがらなかったんだって」


危険な魔獣でさえ国の資源になるが、荒れ地には魔力さえも無い。


「神に見捨てられた土地ですね」


神職になるための勉強をしているサンテが、教会ではそう言うのだと教えてくれた。




 野営用の簡易小屋を建て、中に入って休憩だ。


土地に魔力は無いが魔素は空気中に漂っているので、住むのは難しいが辛うじて滞在するくらいは出来る。


僕やモリヒト、サンテ、ドワーフであるガビーは体内魔力に問題は無い。


しかし、ハナとキランは普通の人間なので、長時間、魔力の少ない場所にいると魔素不足になる。


そのため、小屋の中は魔素を増やしておく。


「しばらくここで調査する。 お前たちは好きにしてて構わない」


「はい」


食器や寝具などをモリヒトとキランで準備する。


ハナも手伝っているのが微笑ましい。


ガビーも女同士ということでハナの面倒を見ている。




 一晩ゆっくりと過ごす。


「あのスライム魔物をやっつけたのを思い出しますね」


ガビーが懐かしそうに思い出を語り、双子は興味深そうに聞いていた。


「ウゴウゴの仲間がいるの?」


たぶん、まだいると思う。


「それを調査に来たんだよ」


でも地盤に穴を開け、かなり深くまで降りる。


「ハナとキラン、それとガビーは留守番な」


「ええー!」


ガビーが悲痛な声を上げる。


仕方ないだろ、何があるか分からないんだから。


「では、サンテくんも」


キラン、張り合うんじゃない。


「サンテの能力が必要になるかも知れないから連れて行く。 早朝、日の出と同時にな」


それを聞いた、朝に弱いサンテが顔を青くし、キランは溜飲を下げた。




「サンテ、起きろ」


「うぅ」


まだ外は薄暗い。


ボヤッとしたサンテを引きずって小屋から出る。


僕はモリヒトからキチッとした装備を身に付けさせられた。


『何があるか分かりませんから』


モリヒトも完璧ではない。


相手は魔力を吸収する魔物だ。


念には念を入れる。


その割にサンテは身軽な装備のままだが。


『底まで降りたら土の中に埋めておきます』


ヒドイ。


まあ、戦うわけじゃないからいいか。


「じゃあ、行こうか」


前回モリヒトが穴を埋めた場所に、再び地盤を改良し、人が通れる程度の穴を開ける。


蓋はせずに結界で囲んだ。



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