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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百七十話・犯人の話と信用


 これだけ町中が騒がしくなれば、普通の悪党なら早くずらかろうとするだろう。


つまり、焦ってるはずだ。


 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇


「なんだ、まだここにいたのか。 おい、見習い。 早いとこガキ拐って逃げるぞ」


「あ、あの、やっぱり僕はー」


「うん?。 こんな辺境の教会で見習いは嫌だって言い出したのはそっちだろ」


「そ、そうですけど、アレは酒に酔って」


「アッハハハ。 今頃そんなこと言っても無駄だよ。 支度金を受け取ったお前は俺たちの仲間だ」


「か、返しま」


「返そうが返すまいが、そんなことは関係ない。 お前は俺たちの計画を知ってしまったんだからな」


「そんな」


「サッサと子供を連れて来い。 ここならいるだろ、教会の中庭なんだから」


「待ってください!。 ああ、ハナ、逃げて!」


「見習い神官さん、お兄ちゃん知らない?。 キャアアー」


「おっと、静かにな。 田舎にゃ勿体ないくらい可愛い子だな」


「うぐぐ」


「まあ、これでうちの統領も満足してくれるだろ。 さあ、行くぞ」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「行くぜ、モリヒト」


『はい』


僕は手のひらに結界を纏わせ、丸薬を二つ取り出す。


それを飛ばすとモリヒトが風で方向を修正し、見知らぬ男と見習い神官の若者の顔にぶち当てる。


「いってぇ」「ひぃぃ」


鐘楼から飛び降りる間に、見知らぬ男がハナを抱えて逃げる。


「クソッ」


「バカだな、逃げられるわけないのに」


アイツらは広場を避けて逃げるだろう。


裏通りにはきっとジョンがいる。


『私が仕留めてもいいのですが?』


「モリヒトは町中で動くのは苦手だろ」


自然の中なら力を発揮出来る精霊でも、町中の人が多い場所で建物を壊さないように攻撃するのは難しい。




 僕たちは町の出口近くに先回りする。


男の足音、そして追っている複数の声や足音。


『匂いがキツくなりました』


「ああ」


聞こえて来たのは子供の声。


「待てー」


「サンテか」


僕たちも急いで移動。


町の石垣を背に、ハナを抱えた男がいる。


「ハアハア」


かなり疲れている様子が見えた。




「あ、アタトさん!」


サンテが振り向く。


「アタト様、モリヒトさんも。 お疲れ様です」


一緒に教会警備隊の若者がいた。


「例の不審者ですね」


「はい」


ハナを抱えた男と向き合っていると、人が集まり始める。


「だ、誰か助けてくれ!。 俺はこの子供を怪しいヤツから押し付けられたんだ。 俺は被害者だー!」


男が哀れそうな声で訴える。


子供を抱えていては逃げられないと判断したのか、ハナを地面に降ろす。


だが、ハナはぐったりとその場に倒れ込んだ。




 サンテが前に出て叫ぶ。


「そいつの言ってることはデタラメです!」


「なんでそんなことを。 皆!、子供の言うことを聞くのか」


グッと唇を噛んだサンテが男を睨みつけた。


「おれには視えるんだ。 アンタの職業は『詐欺師』だ!」


そして、後ろから一陣の風が追いかけて来る。


「ハナを頼むぞ、ジョン」


僕は、呟く。


風に乗って飛んだ黒い影が、男の足元からハナを掬い上げて離れて行くのを見た。


「結界!」


男だけを強固な結界で囲む。


「グェッ」


真空の結界に。




 僕は肩をポンッと叩かれて振り向く。


「アタトくん、そこまでだ」


ティモシーさんが僕に結界の解除を求める。


「はい」


仕方なく結界を解除した。


このまま、息の根を止めてやっても良かったんだがな。


教会警備隊が駆け寄り、男を拘束する。


見物人たちを引き連れて、警備隊は教会へ引き上げて行った。




 気配もなく、背後からジョンの声が聞こえる。


「ごめん、アタト。 他のヤツを追ってたから出遅れた」


仕事仕様のジョンだ。


「ハナ!」


サンテがぐったりしているハナに駆け寄って揺する。


『大丈夫ですよ。 少しびっくりして意識が飛んでいるだけです』


モリヒトがサンテを宥めた。


『一度商会本部に戻りますか?』


立ち話もなんだしな。


僕は頷く。


「サンテ、ジョン、ティモシーさん。 一緒に来てください」


「ああ、分かった」


全員が頷いたのを確認して、空間移動した。




 本部地下の僕の部屋だ。


「適当に座って」

 

モリヒトが全員に清潔の魔法を掛け、ハナを僕のベッドに寝かせた。


「ジョン。 追ってた奴は片付けたのか」


「ああ」


モリヒトがお茶を配る。


「すみません。 これから話すことを内緒にしてほしいんですが、よろしいですか?」


僕はティモシーさんを見て言う。


「分かった。 神に誓って誰にも話さない」


「ありがとうございます」


さて、何から話すかな。




「まず、今回の件、犯人が捕まって良かったです。 ご協力、ありがとうございました」


ハナも無事で良かった。


他に仲間がいたとしても、これ以上は騒ぎを起こさず逃げてくれると思う。


「お願いは二つです」


僕は指を2本立てる。


「一つはサンテです。 魔法の修行中でして、それが少し珍しい魔法なので広めたくないんです」


「視える」と言ってしまったが、まあ、子供の言葉なので、まだ誤魔化せる。


「なるほど。 あの場所にいた者たちに勘違いだったということにしたいと」


「はい」


教会は日々多くの住民が出入りする。


だから、そこで噂を撒いてもらうのだ。


 教会の高位神官が使う魔道具。


それを魔法として使える子供がいるのを知られるのは拙い。


サンテには魔法を人前で使わないようにさせている。


「特に教会には知られたくない、と。 それは私が何とかしよう」


「お願いします」




 もう一つはジョンである。


ティモシーさんの目がすでに警戒していた。


「ジョンのことは、見なかったことにしてください」


ティモシーさんが珍しくムッとする。


「やはり、あの黒い影はお前だったのか」


ジョンに向かって声を掛ける。


ティモシーさんも確証はなかったのかも知れない。


だけどバレるのは時間の問題だと思う。


なら、こちらから告白したほうが良い。


「ティモシーさんならご存知でしょう。 幼少期に特殊な環境や衝撃を受けるとかかる心の病を」


「特殊人格、か」


元の世界でいうところの『多重人格症』である。


「ジョンは貧民でした。 以前、勤めていた貴族家に気に入られようと必死だったんです」



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