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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百六十九話・気配の分からない友人


「ちょっとお願いがあってね」


僕とジョンは対等の立場の友人である。


ヤバいヤツなんで下手に執着されると困るんで、そういうことにしたんだよ。


「怪しい奴らの気配が分かるって言ってただろ?。 それを教えて欲しい」


ジョンは首を傾げる。


「よく、わかん、ない」


仕事仕様じゃないジョンは本当にポンコツだな。




「僕もソイツらの匂いが分かるようになるといいなって」


「悪いヤツら、おれと、おんなじ、匂い」


ジョンの顔が段々と暗くなる。


そして、それにつれてモリヒトの機嫌が悪くなっていく。


そうか。 モリヒトはこの不安定なジョンを警戒しているんだな。


あの貴族家で、ジョンは恩義があると言いながら、最後には女主人に刃を向けた。


モリヒトにすれば許せない行動だったのだろう。


「おれ、一緒に、行く。 探す?」


「ううむ」


小さな町とはいえ、一緒に行動するのは効率が悪い気がする。




 僕はふとジョンから預かっている荷物を思い出す。


異空間結界にある倉庫から取り出し、箱を開ける。


「おれの!」


そうだよ。 お前のだ。


「何か役に立つモノがあるかと思ってさ」


勝手に人の荷物を漁るのもどうかと思い、本人に渡す。


「例えば、怪しい者を見つけた場合、目印を付けるとか。 魔力とか気配を判別出来れば、僕でもジョンみたいに見つけられないかなーって」


「見つけ、たい?」


ジョンは目を瞬く。




「うん。 だって、ジョンしかソイツらのことが分からないとなると、危ないのはジョンだろ?」


邪魔された者やその仲間から、今度はジョンが狙われる。


見た目が抜けた感じの田舎者だし、強そうに見えないからね。


「おれが、危険?」


「まあ、僕は大丈夫だって分かってるけど。 それでも何かあってからじゃ遅いしさ」


「し、心配して、くれるんだ」


「当たり前だ、友達だからな」


危ないことをされた場合、加害者の方が危ない。




 ジョンは箱の中を覗き込む。


大切そうに手を入れ、何度か出し入れする。


「これ、使えると思う」


最後に小さな黒い玉が入った瓶を取り出し、蓋をした。 


「投げるか、相手にわざとぶつかったりして服とか肌に付ける」


そう言って、ジョンは要らない紙にそれを包んで、ギュッと握り潰す。


「絶対、自分に付けたらダメ」


「なんかヤバいの?、これ」


「すごく嫌な匂いがする。 なかなか取れない」


うわー、それは嫌だ。


紙の中で潰れた黒い染みをジョンが見せてくれたが、顔に近付けると確かに変な匂いがする。


「でも、そこまで強い匂いじゃないけど?」


「すぐには分からないようになってる。 時間が経つほど匂いが酷くなって、側にいられなくなるよ」


仕事仕様のジョンの顔が楽しそうに歪んでいた。




「モリヒト。 この匂いなら覚えられる?」


『ええ、まあ』


すごく嫌そう。


嫌いな匂いだった?、ごめんな。


僕はジョンから少量受け取り、結界の小箱に移す。


「これをどうするの?」


すっかり仕事仕様のジョンは小瓶を手の中で転がしている。


「怪しいヤツを見つけたら目印に付けてやろうと思う。 何かあって逃げられても見つけ易いだろ?」


「ふうん」と頷いて、ジョンは自分の分を上着のポケットに入れた。


 そして、ジョンは自分の宝箱を僕の方へ差し出す。


「アタトが持ってて」


「ん、いいのか?」


大切なモノらしいから、全部返してくれと言うのかと思っていた。


ジョンは頭を横に振る。


「必要になったらアタトからもらう」


なら、預かっておくか。


「分かった」


そして軽く打ち合わせをし、ジョンはまた町中へと戻って行く。


子供たちを見守るために。




 僕は黒い玉の入った小箱をモリヒトに渡す。


「これ、何で出来てるか、分かる?」


『成分的には間違いなく薬です』


薬だって?。


まがい物というか、薬としては効果が確実ではないものですね』


失敗作か。


『確か高価な内臓の薬です。 かなり独特の匂いが特徴ですが、偽物を販売していたのでしょう』


「その薬を改造して怪しい丸薬にした、ということか」


その匂いが段々強くなる、しかもなかなか落ちないという魔法を加えている。


魔方陣を書いた紙に一つ一つではなく、まとめて丸薬を乗せ、魔力を注いで発動すれば魔法が付与されるそうだ。


『嫌がらせのために作ったのでしょうか?』


「高い薬の評判を落とすため、かもな」


高級な薬の偽造。


買う側には多少の値引きをしても高値で売れる。


売る側には「偽薬を売るぞ」と言って脅迫する。


どこかで聞いた手口だと思ったら、エンディ領の商館で似たようなことをしていた。


教会と対立している高位貴族たちが客である。


そりゃあ儲かるわけだ。


ただの薬だから、持っているだけなら誰にも怪しまれないしな。


やはり同じ組織の連中かも知れない。




「さて、僕たちも見回りに行こうか」


階段を下りると、食堂はすでに営業時間を終え、片付けに入っていた。


「お疲れ様でした」


老夫婦に声を掛ける。


「アタト様もお疲れ様。 というか、わしらはまだこれから一仕事でしてな」


何か予定があるらしい。


「すみません。 私たちにお料理を教えて頂くことになってまして」


商人組合にいるお婆様を待つ間、ドワーフ母娘は料理を習うそうだ。


「それは良いことですね。 がんばって」


「ありがとうございます」


僕は母娘を応援して食堂を出た。




 町をただ歩いても仕方ない。


「この町で一番高い建物は」


領主館であるが、気軽には入れない。


「次は教会の目印になってる鐘楼か」


行ってみよう。


教会に入る前に、モリヒトに頼んで2人とも姿を消した。


 バタバタと警備隊が出入りしているのはティモシーさんたちから伝達があったのだろう。


教会の入り口の掲示板にも『不審者注意』と書かれた紙が貼られている。


だけど、この町ではあまり識字率は高くない。


その上、不審者といっても住民以外が多く入り込んでいる今の状態では警戒のしようがないだろう。


僕はため息を一つ吐き、人混みに紛れて中へと入った。


 この教会の鐘楼は中庭にある。


1日に3回の時間を知らせる時と、何か特別な行事がなければ誰も上がって来ない。


ガラスの無い窓から町を見た。



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― 新着の感想 ―
>僕はふとジョンから預かっている荷物を思い出す。 異空間結界にある倉庫から取り出し、箱を開ける。 ジョンから巻き上げた荷物は以前332話で住む所が決まった時に返していませんでしたっけ、その後使わない…
[一言] ある意味アタトが一番の不審人物
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