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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百六十八話・闇の動きの気配


 僕はジョンから話を聞いた。


真夜中にこっそり本部にやって来たんだ。


あいつには常識がない。


建物の結界にわざと細工してモリヒトを呼び出し、僕に直接会って懸念を伝えてきた。


「教会の子供たちの中に怪しい連中に声を掛けられたという者がいます」


声掛けだけでなく、実際に町の外に連れ出そうとしたという。


ジョンはそれを阻止した。


そいつをどうしたのかは聞かなかったが、他にも同様の者はいると言う。


「私と同じ連中は雰囲気で分かりますから」


僕には分からないけどな。


ジョンは警戒を強めていた。


そいつらを見つけたら子供たちから離しているというが、ひとりでがんばるには限界がある。


ただ、相手が何もしないうちに手を出すことはしない。


そこは偉いと褒めておく。




「領主様にお話するべきだと説得したんですけど」


ジョンは自分が元暗殺者であることを知られたくないみたいなんだ。


だから僕が代わりに来た。


「町を上げて警戒する必要がある、ということだね」


僕はヨシローに頷く。


 エンディ領の闇組織は潰した。


だけど、その末端まで全て知ってるわけじゃない。


それ以外の者が彼らを真似て同じような犯罪を起こしている可能性もある。




「分かった。 領主様にお伝えして、町の警備兵だけでなく、教会の警備隊にも協力を依頼しておく」


怪しい者、甘い言葉で弱い相手を連れ出そうとする者がいないか。


「最近、姿を見せなくなっている者がいないかも調べよう」


僕は頷き、2人にお願いする。


「僕も警戒しておきます」


今、この町には魔獣狩りのために他の町から猟師や傭兵が入り込んでいた。


しかし、魔獣肉や素材が暴落。


儲からなくなった彼らの多くは、この町を去ることになる。


ジョンが言うには、


「最後に儲けようとしたんだと思う」


ということだ。




 領主館から出た僕は食堂に向かう。


まだ少ないが、もう並んでいた。


僕はその最後尾につく。


『アタト様?』


モリヒトは不満気に僕を見下ろす。


並ぶには早過ぎるって言いたそうだな。


「ちょっと考え事があってな」


どうせしばらく列は動かない。


僕は椅子を作って座る。


黙り込む僕をモリヒトの結界が包み込んだ。




 ジョンが見分けがつくなら、何か違いがあるはずだ。


「それが何か、分からないとな」


町全体に魔力を伸ばして異質な気配を弾きたい。


だけど、この町にどれだけの他所者がいるか。


それを全部弾くわけにはいかない。


「せめて、ひとりくらい本当の犯罪者を捕まえてー」


本当の犯罪者?。 ひとりいるな。


「モリヒト。 ジョンの気配を掴んで、同等のヤツを探せるか?」


『そうですね。 もう少しジョンの情報を取り込みたいところです』


ジョンは『忍者』の才能がある。


故意か、そうでないのかは分からないが、ジョンはその才能で周りから認知されずに生きてきた。


剣の腕は訓練次第でなんとでもなるが、モリヒトさえ誤魔化せるジョンの才能は異常だ。


だから暗殺者になった。




 食堂でドワーフのお婆様家族の様子を見ながら昼食を食べる。


本日の定食は魔獣肉と地元野菜の炒め物、パンとスープ付き。


炒め物の味付けには少量の魚醤が隠し味として使われている。


この世界の食事の味付けは、塩や香辛料、バターが多いが、僕はこっちの方が好み。


客の顔を見れば、この味が受け入れられているのが分かる。


しかし、ドワーフ娘は人気があるなあ。


食堂が華やかになった気がする。




 さて、ジョンを探すか。


今日も子供たちを守るため、町中にいるはずだ。


『わたくしが探してまいります。 アタト様はこちらでお待ちください』


2階の貴賓席で待つように言われた。


いいけど。 どうしたの?、急に。


 モリヒトは、あまりジョンが好きではない。


それはジョンが元暗殺者だということもあるだろう。


しかし、眷属精霊にしては感情が丸出しだ。


「分かった」


老夫婦に声を掛けて2階に上がる。


モリヒトはいつの間にか姿を消していた。




 ドワーフ娘がお茶とお菓子を運んで来る。


「気を遣わせてすみません」


「い、いえ、旦那さんが持って行けと」


老夫婦はほとんど厨房から出ない。


客の対応は代金の受け渡しに顔を出すくらいである。


食堂で働く給仕係は近所の主婦が多く、皆、老夫婦を「旦那さん」と「奥さん」と呼んでいる。


店員の給金は1日分が決まっている日払いなので、日によって人数が変わる。


この町の住民はたいてい仕事を掛け持ちしていて、主婦だって立派な仕事だからな。


そんな中、毎日可愛いドワーフ娘に会えると評判が広がっていた。




「お仕事、忙しいでしょう。 大丈夫ですか?」


僕は、さりげなく訊ねる。


「はい。 毎日楽しいです」


ドワーフ街では工房ごとに食堂があり、その工房の経営者や職人の身内の女性が担当することが多い。


身内なので、給金など小遣い程度だという。


彼女もまた父親が工房長だったため、工房の食事や掃除など、職人たちの世話をしていたらしい。


「あの、アタト様」


「はい?」


僕はお茶のカップを持ち上げながら彼女を見る。


モジモジと何か言いたげである。


「その、父に会われたんでしょうか」


そうか。 行方不明になっていた父親が見つかったという話はした。


「はい。 ご無事でしたし、今は違う街でドワーフ街を造るお仕事をされています」


その話はしたよな?。


「そ、そちらには、あの、私や母は必要ないのでしょうか」


あー、父親の傍で働きたいのか。


そうだよな。 ドワーフ族は家族の絆が強い。


「そうですね。 すぐには無理かも知れませんが、いずれは一緒に住みたいと思っているでしょう」


「本当に?」


あの気弱そうなドワーフの甥の顔を思い出す。


家族を裏切った代償は娘の信用の失墜。


デカいな。




「なら、手紙を書いたらどうですか?。 居場所は分かっていますから届くと思いますよ」


様子見がてら、僕が届けてもいい。


「はい!。 ありがとうございます」


母親や祖母と相談すると言って下へ降りて行った。




「アタト、何か、よ、用?」


入れ替わりにジョンがやって来た。


素朴な田舎の若者として、すっかり馴染んでいるように見える忍者が。



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