第三百六十一話・魔獣の儲けと魔力属性
翌日、お婆様一家は食堂の老夫婦と一緒に広場に出掛けて行った。
スーに案内を頼んだら意外にも喜ぶ。
「小さい頃からお世話になってるもの」
そっか。 親戚だったな。
小遣いを渡そうとしたら、
「あたいが自分で出すわ。 やっとお婆様に孝行出来る」
と、嬉しそうに出掛けて行った。
僕はクンに、こっそり護衛してくれるように頼んでおく。
さて、仕事するか。
ガビーに工房の仕入れ分の一覧をもらい、魔道具屋の銅板栞と漁師の爺さんに売る干し魚の分を確定する。
残りは食堂に卸すのと、自分たちの食事用。
最近、猟師さんががんばっているので、町では魔獣肉が過剰気味らしく、他領から買い付け業者が来ている。
うちの倉庫にもキランやバムくんが狩った魔獣の肉や素材がたぶついていた。
「そのままだと値段が下がる。 燻製にしてくれ」
保存食にしておくように頼んだ。
燻製は食堂でも酒の肴に人気がある。
『これだけ大量に在庫がございますと、町では売れない猟師が出ますね』
モリヒトの言葉に頷く。
普通の猟師は、ドワーフのように大容量の袋もなければ、モリヒトのような結界の倉庫もない。
このままだと魔獣を狩らずに放置する猟師が出てくるだろう。
んー。
「うちの商会で買い取るか」
僕なら倉庫に保管してても腐らせないし、王都や他の街へも飛んで行って売り捌ける。
キランを呼び、ガビーと共に領主のところに手紙を届けさせる。
ガビーならケイトリン嬢とは友人らしいので、直接話が出来るからな。
「魔獣買取の提案書だ。 領主から住民に公表してもらい、悪徳買取業者を駆逐させる」
無料同然で買い叩く業者がいるらしい。
領主が魔獣の討伐料として、一定の金額で買い取るようにする。
報奨金という名目なので買取業者も文句は言えない。
魔獣肉が欲しければ領主館から買い取れ、となるのでおかしな値段設定も出来なくなる。
「分かりました、行ってきます」
白馬の馬車は目立つせいか、2人は徒歩で町に向かった。
少し建物内が静かになったところで、僕はサンテを自室に呼ぶ。
「何か御用ですか?」
ハナもついて来ると思ったら、教会の司書さんから借りた本に夢中で部屋にこもっているそうだ。
おー、サンテはすっかり執事服が似合うようになったな。
「忙しいところ悪いが、ちょっと魔力を見せてくれ」
「は、はい」
まず、過剰な魔力を吸い取るスライム型魔物を体から離さなければならない。
執事服に仕込まれているため、上半身裸にした。
椅子に座らせ、モリヒトが確認。
『だいぶ安定して来ましたが、漏れは相変わらずです』
だろうな。
サンテが服を脱いだ途端に魔力を感じた。
次に僕は、サンテの執事服からスライム型魔物を取り出す。
ウゴウゴが珍しく体を伸ばして仲間に興味を示した。
「やっぱり無色か」
この魔力を吸う魔物は、多く吸い込んだ魔力の色に染まることが分かっている。
例えば、ドワーフたちなら鍛治で使う火系属性の魔力が多いため赤くなる。
風系なら緑色、水系なら青、土系なら黄色に近くなるらしい。
僕が魔力を与えて育てたウゴウゴは黒。
ワルワさんたちには「色んな魔力を与え過ぎて混ざった色」と言ってあるが、実は僕が闇属性だからだ。
『魔力があるのに無色ということは、そういう属性の魔力が存在するということでしょうか』
僕に訊かないでよ。
モリヒトが知らないことを僕が分かるわけない。
「無色の魔法属性かー」
僕はサンテに服を返す。
高位神官さんのところで色々と書き写したものを取り出す。
神職に関する古い資料である。
あまり持ち出せなかったので、後で覚えているものは自分で書き足した。
執務用の机でパラパラと読む。
「それ、何ですか?」
「ある高位神官が残した遺品だよ」
将来神職を目指しているサンテは、
「見せていただけませんか?」
と、頼んできた。
「どこの教会にもある古い教えを書き写したものだけど」
所々に神官の暗号と呼ばれる『日本語』でメモが書かれている。
なるべく、その暗号文の少ない部分を渡す。
「無色の魔法属性に関する記述がないか調べているんだ」
「分かりました」
2人で調べたほうが早い。
「これ、神官様の直筆ですか?」
「そうだよ」
最近、筆で文字を書く練習をさせているせいか、達筆さに驚いている。
モリヒトに苦いコーヒーを頼む。
「魔獣や精霊にも魔法属性があるんですね」
基本的にこの世界の生物は全て魔力を持っている。
「それぞれに特性があって、属性によって得意な魔法が違うらしいよ」
モリヒトなんかは魔力が高いので属性に関係なく、ほぼ何でも魔法は使える。
だが、やはり大地の精霊なので土属性。
他の属性よりも少ない魔力で、強力な土魔法が発動可能だ。
「……俺はなんで魔法が使えないのかな」
サンテの心配は結局、そこなのだ。
使えないわけではないが、魔力が異常なため発動するとどうなるか分からない。
だから、スライム型魔物を付けて魔法が発動しないように封じている。
「魔力が安定したら使えるようになるさ」
せめて属性が分かれば、無理なく使える魔法が確定するんだがな。
「魔物でも魔法が使えるのに」
肩を落とすサンテ少年。
そうだよな。
無色のスライム型魔物でも魔法というか、魔力を吸う特性がある。
「ウゴウゴは元は無色、だよな」
『ハーイ』
スリスリと撫でる。
魔力を吸うのは何の属性だ?。
ガタンッ
「サンテ、ちょっと付き合え」
「は、はい」
僕はサッと着替える。
『どちらに?』
「ワルワさんのところ」
皆が出掛けて不在になるので、ハナも仕事だと言って連れて行く。
「おや、いらっしゃい」
「こんにちは、ワルワさん。 ジョン」
「どうされました?」
ジョンはすっかり馴染んでいたが、サンテの執事服を見て複雑な顔をしていた。
自分の子供の頃に重なるのかも知れないな。
「ワルワさんのお話を聞きたくて」
「うん?」
「サンテの魔力なんですが」
僕はモリヒトに防音の結界を張らせる。
「無色という属性を考えてみたんですが」
王都の教会では光魔法ではなかったことは判明している。




