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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三十六話・薬草の採集の森


 結局、僕が書いた落書きは、ガビーの部屋の壁に飾られた。


「だって、これ、すごく綺麗です。 黒一色なのに、白い紙に映えて、とても」


「あー、はいはい。 気に入ってくれて嬉しいよ」


ガビーが手放しで褒めてくる。


 僕自身としては書くことが気持ちいいし、出来上がった文字に関しては自分の中で自画自賛くらいはする。


たまたまそれをガビーに見られて「欲しい」と強請られたから、あげてしまった。


でもそれは、作品として良いというのではなく、気持ち良く書けたことに納得したからだ。


例えるのは難しいが、スポーツで試合中に会心のプレーが出来ることと、その試合結果は別ものだという感じかな。


確かに勝てれば嬉しいが、負けたとしても全力でプレー出来たかというのが僕には大事なんだ。


ガビーにはうまく説明出来なかったが。


そして、それからガビーの部屋の額を思い出す度に、練習に力が入ってしまうのである。




 僕は新しい本を開いて、次に書く文字を探す。


司書さんから借りた本は、やはり子供向けではなかった。


子供に分かり易く説明するための解説本だな。


一つ一つの文字に対する意味や使用の例など、とても助かる。


これで見るとガビーにあげた文字は『火』だ。


ガビーが気に入るのも納得である。


 しかも、これには前の本にはなかった文字の組み合わせ、元の世界でいえば熟語に当たるものまで出てくる。


かなり古い使い方のようで、現在では使われていないようだ。


だけど、はあー、見てるだけでも楽しい。


 あの日、ガビーはちゃんと紙も買ってきてくれたが、普通の紙以外にかなり上質な真っ白い紙が少しだけ混ざっていた。


これは、また納得出来るものを書いたら飾りたいということか。


いやいやいや、僕は書道家でも画家でもないんだから、練習だけだよ?。


僕は上質紙をガビーに見えない場所にそっと隠しておいた。




 次の町行きの日に合わせて干し魚を作る毎日。


相変わらずモリヒトは匂いがダメみたいだ。


だから魚を干す作業は僕とガビーでやっている。


「なあ、モリヒト。 もしかして、エルフたちはこの匂いが苦手なのか?」


釣りをしながら聞いてみる。


 以前、エルフ族が海に近寄らないのは樹木が無いから、と聞いた。


でもモリヒトの様子を見ていると、潮の香りとか生臭さが苦手なんじゃないかと思い始める。


モリヒトは『ふむ』と頷いた。


『そうかも知れません』


でも、それなら僕が海の側に住んでいるのは理に適っている。


「ありがとう、モリヒト。 僕のためにここを選んでくれたことに感謝するよ」


モリヒトは驚いた顔をした。


それがおかしくて僕はクスクスと笑ってしまう。




「完璧に見える眷属精霊でも苦手なものはあるんだな」


モリヒトはコホンと一つ咳をして、


『そうですね。 エルフに対する牽制にはなるかも知れません』


と、真面目な顔をした。


「そうか。 じゃあ、僕がいつも生臭かったらアイツらは近寄って来ない?」


そう言ったらモリヒトは思いっきり嫌な顔をした。


『アタト様は完璧に気配を消すことを早く覚えてください』


あー、でも、そうか。 匂いでバレバレになるな。


「はい、すいませんでしたー」


モリヒト、冗談だから怒らないで。




 その日は朝からシトシトと小雨模様だった。


僕はモリヒトと二人でエルフの森で薬草を探しながら歩いていた。


「なあ、モリヒト。 干し魚以外で売れそうなものってないかな?」


次回から町の市場に店を出すにあたり、せっかくだから干し魚以外の売り物も出してみたい。


「魔獣肉、燻製、ガビーが作った刃物も出来が良いよな」


『そうですね。


エルフが作った、エルフが愛用している、と謳えば何でも売れるのではないでしょうか』


おおぅ、雑な返事。


だけど、まあ真理ではあるのか。


訳の分からないものを『芸術』といってありがたがる風潮はあるし。


例えば僕が書いた、あの文字だけの紙。


あれが異種族のエルフが書いたってだけで価値が上がるのなら商売になる。


でも、そんなものを量産して儲けようなんて、僕は思わない。




 それに、ヨシローを待たせているので、そろそろ薬草茶も完成させなければ。


薬草の種類はだいたい分かってきたが、組合せなのか乾燥具合などの処理方法が違うのか、なかなか思った味にはならない。


でも完成したら薬草茶を店で売るのはどうだろう?。


『供給が安定しないのではないですか?』


「そうだよなあ。 天気が悪い時ぐらいしか森に入れないし」


天候に左右されるようでは、いつ品切れになってしまうか分からない。


 いつでも森に入れれば良いんだけど、お天気が良いと他のエルフたちも歩き回っているので、出会ってしまう可能性がある。


どんなに気配を消してたって、同じエルフ同士だと何となく分かってしまうのだ。


「村を出たからといっても僕の容姿は変わらないし」


日に焼けた肌に真っ白な短髪。 弓矢はもう練習も放棄して、ナイフを使っている。


「村のエルフたち以外にまで『エルフの面汚し』とか言われるのも癪だし」


美男美女じゃないとエルフじゃないって、どういう感覚だよって思うけどさ。


『わたくしはアタト様も美しいと思いますけどね』


おお、モリヒトが僕を褒めるなんて。




『特に文字を書いている時のアタト様は、周りの音が消えるようなピンとした清浄な魔力に包まれております』


「え?、僕、そんなことに魔力を使ってるの?」


自分では分からなかったが、僕は文字を書く時、かなり集中しているそうだ。


書くという作業で出来上がった作品には、作った者自身の魔力が宿る。


その魔力量が集中することで高まっていくそうだ。


『あの集中力で魔法の訓練をされれば、すぐに上達されると思いますよ』


ああ、なるほど。


「魔法を使う時に、文字を書いているような集中力が発揮出来れば良いのか」


『魔法の威力は、どれだけ自身の魔力を高められるかで違ってまいりますので』


魔力だけ大量に持っていても、それをうまく使えないと意味がないってことね。


「ガ、ガンバリマス」


モリヒトがとても良い笑顔で僕を見ていた。



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