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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百五十七話・ドワーフ街の守りについて


 モリヒトに一足先に妹御一家を商会本部へ送らせることにした。


あの爺さんには冷却期間が必要だ。


妹御もどうやら息子の消息を知りたがっているし、町で情報を集めてもいいだろう。


『アタト様はどうされるのですか?』


出発の準備をする一家を見守りながらモリヒトが訊ねる。


「しばらく工房の様子を見てから、ガビーと戻るよ」


まだ気になることが残ってるんでな。


白馬で走れば、約半日で到着するのだから、僕のことは心配いらない。


貴賓客用の部屋に泊まってもらうように伝えて送り出した。




 塔の敷地内に建てた小屋で泊まる。


塔の中はドワーフの女性ばかりになったからな。


「ここ、見張りにいいですね。 オレも泊めてくだせー」


「いいけど」


新しい護衛の青年が希望してきたので、2人で使うことになった。


ドワーフ街への地下道は現在封鎖中。


しばらく工房は休みにし、戻りたい者は異空間転移で家に送り届けた。




 朝になり、いつも通り外に出て鍛錬を始めると青年も近寄って来て体を動かし始める。


荒いが、良い動きだ。


鍛治師には向かないというが、ドワーフ街の治安隊所属なのは間違いなさそう。


「ちょっとだけ手合わせする?」


僕から声を掛けてみる。


「いやいや、無理!。 動きを見てれば強さは分かりますって」


珍しく辞退されてしまう。


ドワーフは脳筋か職人しかいないと思ってたけど、彼は少し違うみたいだ。




 小屋に戻ると、モリヒトが朝食の準備をして待っていた。


『ちょうど食事のご用意が出来ました』


汗だらけの僕たちに清潔の魔法が降ってくる。


「ヒェッ、あ、ありがとうございます」


あたふたするドワーフの青年を座らせて朝食にする。


モリヒトがコーヒーを淹れてくれた。


甘いヤツだ。


「美味いしそうですね、それ」


同じものを出してやると青年も嬉しそうに飲んでいる。




『この後、アタト様は何かご予定があるのですか?』


モリヒトは、本部の皆から「早く帰って来い」と言われたらしい。


「ああ。 あの爺さんの他にドワーフ街の護衛について話が出来る者を探している」


通いの職人たちの安全のためにな。


「鍛治組合と僕の工房は元々あまり仲が良くないし」


まあ、仕事自体は認めてくれているようだが。


今回、あの爺さんの妹一家を匿っているから尚更である。


「僕たちはこっちに住んでいないから良いけど、この塔に通っている者の安全を保証してくれる者がほしい」


護衛の若者2人だけでは心配だ。


「それならオレが案内しますよ」


そっか。 彼は治安隊だったな。




 昨夜は職人のほとんどの者が塔に泊まっている。


「おはようございます」


母親が職人で護衛を兼ねている青年が小屋にやって来た。


中を見回して「良い小屋だなあ」と呟く。


そんなに欲しいなら見張り小屋にするか。


但し、僕の魔力で作ったから魔石を設置しないと長期間もたない。


「先日の魔魚狩りで得た魔石が大量に余ってるから設置してやってもいいぞ」


「え、本当ですか?。 オレ、ここに住む!」


鍛治師向きじゃないドワーフが嬉しそうに声を上げた。


はあ、好きにしろ。


「だが家族の許可は取って来てくれ」


「はい、と言ってもいませんけど」


青年はそう言って笑う。


話を聞くと、他所から流れてきた天涯孤独なドワーフらしい。




 体はずんぐりとした体型だが、ドワーフにしては明るい茶のクルクルの巻き毛は長く、一つに結えている。


同色の髭は、長いが邪魔にならないように整えられていた。


「オレ、ドンテキといいます。 改めて、よろしくお願いします」


「うん、よろしくな。 ドンキ」


「あははは、はい!。 で、ドワーフ街で最強の男を紹介すればいいんですよね?」


うん?。 そうなるのか。


「ご案内します!」


こいつもガビー並に元気がいいな。


「おい、ドンテキ。 お前の師匠のところに案内する気か」


先輩護衛が彼に訊ねた。


「組合の爺さんを黙らせるにはソレしかいないでしょ」


「そ、それはそうだが」


何の話?。


僕が首を傾げていると、2人がドワーフ街のある場所に連れて行くと言う。


「じゃ、広場まで空間移動するから、その先は頼む」


ドワーフの若者2人が頷いた。




 どこの街にも裏通りはある。


鍛治工房が並ぶ表通りのその裏に案内された。


さっそく鍛治組合にチクリに行く奴らの姿がチラリと見えたけど、別に構わない。


こっちには治安隊の青年2人に、モリヒトもいるし。


捕まえられるものなら捕まえてみろってな。




 歩きながらドンキの話を聞く。


彼は気が付いたら孤児だったという。


種族としてのドワーフは多産系で親兄弟、一族の絆が強い。


つまり、その血筋から外れると生活が出来ない。


「オレは子供の頃から毎日、生きるのに必死で」


どこのドワーフ街か分からないが、裏路地で寝起きし、地上に出て狩りや木ノ実を採取して飢えを凌いでいたらしい。


そんな中でロタ氏と知り合い、行商人も面白そうだと勝手に辺境地まで着いて来てしまった。




「ドワーフは鍛治やらないと死ぬんすかね」


辺境に来たはいいが、あの爺さんに鍛治師じゃないと住人にはなれないと言われた。


なので、ロタ氏の紹介で親方の工房に入り、見習いを始めたそうだ。


「春の前、飲み屋で愚痴っていたら喧嘩になったんですわ。 そこで3人ほどしたら、変な男に止められましてね」


それが治安隊を作った男性だった。


「強いな、お前。 うちに入らねえか」


ドンキは「鍛治をしなくて良いなら」と、誘いに乗ったそうだ。


 その治安隊で母子家庭の青年と友達になり、僕の工房の話を聞いて羨ましくなったと言う。


「親方に相談したらエルフ様に聞いてくれるってんで、昨日は見学に」


ほお。 ちょっとタイミングが悪かったな。


巻き込んですまん。




「師匠、お客さんですよー」


酒の匂いがする、裏路地の店。


「あー?」


酒場らしい店の奥から出て来たのは、ドワーフにしては背の高い、大柄な中年男性だった。


「なんだ、エルフの小僧じゃねえか」


どことなく誰かに似てると思ったら。


「弟のキツロタが世話になっとる」


あー、ロタ氏のお兄さんか。


世間は広いようでドワーフ街は狭い。



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