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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百五十六話・交渉の決裂と責任


 結局のところ、話し合いは決裂した。


当たり前だ。 ずっと平行線だったのだから。


一族の恥だと、保護して閉じ込めようとする兄。


自分の息子の問題だから、自分でなんとかしようとする妹。


「双方の言い分は分かりました」


「子供の分際で何が分かる!」


僕はチラリとドワーフ名家当主の顔を見る。


あんまり直視したくはないが。


「その子供でも分かることが分からないから、こうなるんでしょ?」


益々いきり立つドワーフの爺さんに、僕は大袈裟に肩をすくめてみせた。




 ドワーフ族もエルフ族とあまり変わらない。


自分たちだけの狭い社会の中で、とても古い因習に縛られている。


ドワーフ族に関しては、男性は働いていればいいだろうが、女性は家庭内にいるだけなので、何かあった場合に全てを失う。


今まで働いていないのだから家事以外に手に職もない。


普段の家事や工房の世話など、一つの場所にひとりいれば十分なほどドワーフの女性たちは優秀だ。


つまり、新しい仕事がない。


「無理もないです。 こんな辺境地の限られた土地で何百年も同じ生活を繰り返しているだけなんですから」


他の街を知っているのは、ごく僅かな行商人や工房の責任者のみ。


だから、この爺さんの言う通りにしていれば、誰も責任を取らずに済むと知っている。


怒鳴られても我慢し、誰も反論せずにやり過ごしてきた。


ドワーフは我慢強いからな。




 だけど、新しい世代は生まれてくる。


鍛治や工芸に才能がありながら、女だという理由だけで嫌がらせに遭ったガビー。


不器用で家事が出来ないという理由で家を追い出されたスー。


彼女たちは、今では生き生きと作品を作り出している。


「やりたいこともさせず、他人を自分の思い通りにするのも限界があるのでは?」


「そんなことはない。 妹一家はわしが守る。 それが一番幸せなんじゃ」


僕はため息を吐く。


「本当にそうでしょうか?」


僕には、ウジウジといつまでも逃げた甥の悪口を言い、借金の肩代わりをしたことを恩に着せて、好き勝に当たり散らす爺さんの姿しか見えない。


「大声で怒鳴り散らすあなたの言うことが通るのは、このドワーフ街の中だけですよ」


事実、僕はこの爺さんを怖いとは思わない。


面倒だとは思うが、それだけだ。




「我々は長命ですが、不死ではない。 いつかあなたが亡くなった時、あなたに従った妹御一家はどうなりますかね」


爺さんの後継はずっと言いつけに従い、彼女たち一家を生涯養ってくれる保証はあるのか。


「ドワーフの男は家族を守る!」


「逃げ出した甥は誰の身内でしたっけね?」


爺さんは目を逸らす。


「子供には分からんのだ」


ええ、ええ、そうでしょうよ。


「では子供はおとなしく引き揚げます。 交渉はここまでですね」


僕は妹御を立たせ、背中を押して出口へと促す。


「妹はわしが連れて帰る!」


はあ?、何言ってんの。




「僕は彼女の雇用主で、彼女は僕の工房で働くことを望んでいます」


「わしは身内だぞ!」


「ええ、知ってますよ。 でも彼女はあなたの保護を望んではいない」


「実の兄だぞ、わしに責任がある!」


「ならば何故、こうなる前に助けなかったんです?」


「それは!」


「その上、解決策が『閉じ込めて軟禁』ですか」


彼女自身の気持ちを一切無視。


しかも彼女の家族も一緒くただ。


「ご自分の家族である孫娘のスーリナーさんは家の恥だと追い出しておいて、甥の家族は軟禁なのは何故です?」


言葉が出ない爺さんの代わりに言ってやるよ。




「あなたは、スーリナーさんはまだ子供だから、すぐに自分を頼ってくると思って突き放したんだ」


家から出たといっても顔見知りの工房、友人である親方の家にいるのは分かっている。


だから甘く見て放置していたが、そのうちスーは僕の工房に出入りし、ドワーフ街には戻らなくなった。


しかも社会勉強だと言って、人間の王都にまで足を延ばしている。


 旅の許可を求められて認めざるを得なかったのは、行商人ロタ氏が仲介者だったからだ。


彼は他の地域のドワーフの組合に出入りしている上に、腕が立つ。


元傭兵で人族の兵士や狩人たちとも交流があるため、何かあれば助力を受けられるだろう。


そんな彼の進言を無下にするわけにはいかなかったと聞いている。




「今回の妹御はすでに大人であり、あなたの指示には従わない恐れがある。 勝手なことをしないうちに閉じ込めておかないと、スーのように居なくなってからでは遅いと考えたのでしょう」


「違いますか?」と、下から顔を覗き込む。


工房経営に失敗した気の弱い甥は一族の恥だ。


そんな男が身内にいると知れ渡るのは避けねばならない。


なんとしても真実を広めさせるわけにはいかない。


「焦ったあなたは、まことしやかに嘘の噂を流したんですってね」


あの男は、工房の金を使い込んだ上に女を作って出て行った、と爺さんが話すのを孫娘が見ていた。


それが男らしい、爺さんにとって都合が良い噂。


一族の男は皆、強くなければならないから。


それが妹の逆鱗に触れたとも知らずに保護を申し出たが、当然、妹一家は拒否した。




「う、煩いっ。 子供のくせに!」


子供子供って煩せえんだよ。


これでも中身はジイサンなんでな。


「僕は、あなただけが責任を負う必要はないと思うんです」


一族に対しても、この街に対しても。


失敗の反省は必要だが、それは本人だけの問題か?。


そうさせてしまったのは何かを考えたことはないのか。


「もちろん、最後に責任を取るのはあなただ。 一族の長なんだから」


だけどその前に。


もしも周りの誰かが、異変に気付いて金や力を貸していたら、甥は逃げ出さずにいたかも知れない。


「もしも」論は僕もあまり好きじゃないが。


周りに迷惑を掛けたのは甥だけど、むしろ彼の異変に気付けなかった自分も悪かったと考えないのかな。


「失敗を責めるなと?」


「誰かが失敗したら、それを補い、次の教訓にする。 それが年長者の責任の取り方ではないですか?」


怒鳴るだけでは何も解決しないぞ。


恐怖では誰も心を許したり出来ない。


そんなの当たり前だろう。



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