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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百五十五話・ドワーフの要人の妹


 拳を握り締め、ワナワナと震える老齢のドワーフ。


「なんだと?」


ドスの効いた声で僕を睨む。


「いえ、別に何も」


真実をポロッと零しただけだ。


だが、今日はそんな用事で訪ねたわけではない。


サッサと終わらせて帰りたいんだが。


「ふんっ。 これだからエルフは」


ウンウン、そうですね。 すべてエルフが悪い。


僕には関係ない。




 すっかりビビって縮こまっているガビーに商会の焼印の登録書類を出させる。


「先に仕事の話をしたいんで、お願いします。 正式に商会を立ち上げましたので工房の印を登録させて頂きたい」


爺さんの傍にいた職員らしき男性ドワーフに書類を渡す。


「すでに人族の町で届けは済んでいます。 商会の本拠地も人里近くにありまして、僕はだいたいそちらにおります」


書類に不備はないはずだ。


親方にも確認してもらった。




 これを受理するかどうかは別問題。


ただ、受理されなくても問題はない。


出したという事実は揺るがないから、この爺さんが怒りで破り捨てても予備を用意してある。


それをこっそり職員の男性に渡す。


後は鍛治組合内部だけの問題。


「それでは僕はこれで」


立ち上がり、礼を取る。


「待て!。 妹たちを返してもらおう」


「どうぞ、ご勝手に。 子供じゃあるまいし、ご本人次第です」


ため息を吐き、僕はその場を離れた。




 そして、すぐに塔に戻る。


聞きたいことは山ほどあるが、今は彼女たちを守らなければならない。


「モリヒト」


『はい』


モリヒトの姿が消える。


塔を壊されては堪らないので、まずはモリヒトがドワーフたちが侵入出来ないように地下道を封鎖する。


僕はいつも野営用に使う小屋を地上に作り、妹一家をそちらに移動させ、事情を訊く。


まあ、だいたい予想はついてるがな。


「親方は何故、この一家を僕の工房に連れて来たんですか」


「そりゃあ、坊主のところなら安心だからに決まっとる」


話にならん。




 小屋で落ち着いたところで、あの頑固爺さんに似ている女性ドワーフが謝罪する。


「申し訳ございません。 私の兄はあの通り、頭の固いドワーフでございます」


妹御は旦那さんを亡くし、息子夫婦と暮らしていたが、その息子が居なくなった。


「兄は私の息子をかわいがっておりましたが、鍛治師としては気が弱く、優しい性格をしております」


あの爺さんが目を掛けていたそうだから腕は良かったのだろう。


だが、新しく作った自分の工房のために借金を背負い、期待の言葉も本人には急かしているようにしか聞こえなくなった。


「家族のために、と頑張り過ぎて疲れてしまったのでしょう」


居なくなる前は体調を崩し、塞いでいたという。




「それで、これからどうなさるのですか?」


あの爺さんの身内ならドワーフ族の中でも高貴な一族なのだろう。


「借金の返済がございますので働かなくてはなりません」


だが、あの爺さんのいるドワーフ街では無理だ。


「世間体を気にする兄は私共を保護して屋敷に閉じ込め、仲間の目から隔離するでしょう」


「そうなる前に連れ出して来た」


借金も勝手に返済するかも知れないと心配していたが、親方はそっちも話をつけてきたと言う。


工房と取引のある他所のドワーフ街の組合らしい。


「さすがに他の街では、あの爺さんも勝手は出来んからな」


親方は腕を組み、ニヤリと笑う。




 その時、ゴオンッという音と共に地面が揺れた。


「始まったか」


おそらく、鍛治組合の奴らがモリヒトの結界に攻撃を加えたのだろう。


ドワーフの攻撃など僕は見飽きている。


しかも、こちらには大地の精霊モリヒトがいるのだからドワーフには相性が良い。


「アタトさま!」


護衛のドワーフの青年が慌てた様子でやって来た。


「大丈夫ですよ。 すぐに静かになります」


「は、はい。 でもー」


心配症のガビーが大丈夫なのかと僕を見る。


「一つだけ懸念があるので、あの方とは話し合いが必要です。 絶対に守りますから同席をお願い出来ますか?」


僕は妹御に頼んだ。


「はい。 ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。 私に出来ることでしたら何なりと」


度胸の座った老婆さんである。


僕は微笑み、護衛には皆に心配いらないと伝えるように指示した。


護衛の青年とガビーに、皆のところに息子の嫁と孫娘を連れて行かせる。


あそこなら何があっても当分は生き残れるだろう。


妹御は孫娘に声を掛け、2人に手を振った。




「さて、こちらもやりますか」


小屋の中には僕と妹御と親方の3人。


個別に防御結界を施す。


「モリヒト、頑固爺さんだけをこの小屋に招待してくれ」


少しぐらい離れていても眷属に声は届く。


『承知いたしました』


「モリヒトはそのまま他のヤツらが馬鹿をやらないか見張ってて」


『……分かりました』


物凄く嫌そうな返事だな。


まあ仕方ない。 僕だって気乗りしない仕事だ。




 突然、モリヒトの結界の一部が室内に現れる。


やっぱり話し合いにお茶くらいは出さないと。


「ここは?」


「どうぞ、お座りください」


キョロキョロする爺さんに椅子を勧める。


「キサマ!」


僕に気付いて大声を上げた。


ハイハイ、怒るのはもういいでしょ。 疲れるだけだよ。


「エルフの精霊魔法師と眷属精霊に勝てるとでも?」


無限に近い魔力と魔法が使える相手に喧嘩を売って、どうしようっての?。


ぐぬぬ、と顔を真っ赤にするドワーフの老人。


「僕は他種族だし子供だし、口を出す気はなかったんですけどね」


本当になかったよ、さっきまでは。




 でも、妹御一家とはすでに雇用契約済なので、そうもいかない。


「本人の意思を優先します。 だから話し合ってください」


どうせ頭ごなしに怒鳴りつけたんでしょ。


そんなんでよく組合長が務まるな。


あ、違うの?。


職員だと思って書類を渡した男性ドワーフが組合長なの。


へえ、ドワーフ族の名家で鍛治師の重鎮っていうだけで組合に圧力掛けてたんだ。


そりゃあ、スーに嫌われて当然だね。


「黙れっ」


黙るのはそっちだよ。


テーブルを挟んで向かい合わせに座り、妹御を僕の隣に座らせる。


親方は椅子だけ持って、少し離れて座った。


僕はお茶を出しながら考える。



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