第三百五十四話・ドワーフの工房との連携
とりあえず、初顔合わせのドワーフさんたちに商会の話をする。
「商会長は僕です。 エルフの子供が苦手なら再考してください」
嫌なら来るな。
そんな話をしていたら、腹が鳴った。
朝早かったからなあ。
よし、飯にするか。
「よければ、皆で食べませんか」
まだ僕に慣れないドワーフたちは顔を見合わせて戸惑っている。
外に出て簡単に横長のコンロを作って、親方に火を入れてもらう。
ガビーは、僕がよくやるバーベキューだと気付いて網を取り出して準備を始める。
僕は食事担当の女性ドワーフに肉を渡す。
「これを使ってください」
鯨魔獣の肉だと言うと驚いていた。
一応、土魔法でテーブルや椅子も用意したが、立食パーティみたいな感じになった。
何故か、皿を片手に僕の周りに集まって来る。
「人里の近くの森に本拠地が出来ましたのでお知らせに来ました。 希望者がいれば見学も可能です」
食べながら話す。
「ドワーフの地下街とは地下道が繋がっていますから、移動は安全に出来ます」
「周りは魔獣のいる森だけど、静かで良い所よ」
僕の説明にガビーは雑な解説をしているが、最近は人が増えて賑やかだぞ。
「いやいや、ドワーフ街は地下で狭い上に煩いんです!」
と、抗議された。
僕もあまり行ったことはないけど、確かに鍛治の音や指示している親方の声が喧しかったな。
「私たちが作った物が人族に売れているのは本当なのでしょうか」
未亡人のドワーフさんはそれが気になっていたらしい。
「もちろんですよ。 僕の商会は魔道具店に卸していますが、注文は入っています」
むしろ「もっと欲しい」と言われている。
「ガビーが作る繊細な作品は高値で取り引きされますが、買う人は貴族や金持ちです。 まだ慣れない皆さんの作った物は、普通の人でも手に入るドワーフ作品として売れるのです」
「そ、それなら、いつか私が作る物が高値になることもありますか?」
王都から来た見習いのおねえさんが鼻息荒く訊ねる。
「もちろんよ!」
ガビーが食い気味に答えた。
「未熟な者の作でも売れるか」
親方がボソリと呟く。
「ちゃんと検査して、普通に売れると判断したものだけですよ。 何せ、僕の商会の印を付けて販売するんですから」
塔の入り口に掲げた看板を指差す。
あの印があるものは商会の長である僕が保証することになる。
「僕に恥をかかせないようなものをお願いしますね」
職人たちには切磋琢磨してもらい、まずはガビーに作品を見てもらう。
それに合格したものだけが僕のところに来る。
どこに売り込むか、いくらにするかは僕が決めるのだ。
代金のうち、商会に収める分を差し引いた残りを給金に含めて渡すことになる。
「今はまだガビー以外に個人の売上はありませんので、給金は一律ですけど」
契約書に明記してある。
職人たちは熱心に話を聞いていた。
『工房の売上に関しては、魔道具店からの売上、ガビーからの皆さんの勤怠表と塔の経費を参考にして確定しています。 そのうち特別給与として支払えると思いますよ』
簡単に商会の会計を商人組合で習ったんだけど、いつの間にかモリヒトのほうが詳しくなってたよ。
休憩が終わり職人たちは工房に、護衛役は釣りに向かう。
この塔自体には結界が張られているので、特に見張りの心配はいらない。
ドワーフの青年2人は、職人の女性たちの送迎と休日に地上での護衛。
ドワーフ街での他からの圧力についての抑止力になるようお願いしている。
自分たちでなんとかならないようならガビーか親方に連絡をするようにと。
親方は今のところ僕の身元保証人みたいな立場だ。
娘が工房長なので面倒は引き受けてくれている。
「干し魚と燻製も立派な商品だからな」
護衛たちには獲物は自分たちで食べる物と、売り物は分けるように指導している。
ガビーが広場の出店の売れ筋商品を教え、
「しばらく魔獣の素材は売れないので倉庫に保管しておいて。 傷み易いものは保存袋に入れて連絡をお願い」
と頼んでいた。
今は辺境地でも魔獣が増えて、狩りが盛んに行われている。
しばらくは人里でも魔獣には困らないだろう。
暇になったので、僕は皆の作った品物を検品。
「誰が作ったのか、分かるか?」
ガビーに訊いてみる。
「はい。 職人には必ず癖がありますから」
同じ銅板が並んでいたが、僕には分からない。
職人たちは、作業をしながらチラチラとガビーを見る。
その辺りは他のドワーフの鍛冶工房とあまり変わらない光景らしい。
僕は今日、親方に鍛冶組合にも挨拶に行きたいと繋ぎをお願いしていた。
午後から一旦、ドワーフ街に帰っていた親方が、また戻って来る。
「面会出来るそうだぞ。 今から行くか」
「はい」
今日は人間に擬態する必要がないので、ずっとエルフのままである。
シャランと耳飾りが揺れた。
僕とモリヒト、そして親方とガビーで向かう。
久しぶりのドワーフ街。
相変わらずエルフを見るドワーフたちの目が怖い。
長命種同士だから、どうしても喧嘩が長引くんだよな。
短命の人族なら「もうそんなヤツおらん」で済むことも、こいつらは現役である。
そりゃあ、何十年、何百年前のことも昨日のことのように覚えてるわな。
「来たか」
「ご無沙汰いたしました。 アタトです」
無骨なドワーフの建物が多い中、鍛治組合だけは豪勢は造りになっている。
その応接室に案内されたが、どうやら警戒されているようだ。
最初から防音結界が張られていた。
「お前ら、どういうつもりだ!」
スーのお祖父さんは第一声からお怒りである。
「なんのことでしょう?」
僕は訳が分からず首を傾げた。
「我が妹を連れ去っただろうが!」
僕はチラリと親方を見る。
「ああ、妹御はわしがご案内した」
「キサマ!」
どうやら今日やって来たドワーフの一家は、スーの身内らしい。
くそっ、巻き込みやがって。
「あの一家は我が一族の中でも問題の多い奴らだ。 わしが保護して矯正しなければならん!」
女性ばかりのあの一家を?。
この爺さんが?。
「スーも矯正出来なかったのに?」
思わず僕の心の声が漏れた。




