第三百五十一話・女性の見方と大繁盛
しかし、数日後、今度は馬が届いた。
立派な馬だ。 辺境領主家の資金が心配になる。
「いや、実はこの馬は辺境伯閣下から届けるように頼まれまして」
どうやら辺境伯が僕の店の開店祝いという名目で贈ってきたらしい。
遅れて辺境伯から開店祝いの手紙が届く。
領都の収穫祭のため、こちらには来られないという詫びの文も入っていた。
いや、別に招待していないし、来てほしいとは言ってない。
お祝いはありがたく頂くけどさ。
今度の馬は、芦毛と呼ばれる銀に近い灰色である。
やっぱり、エルフってこういう馬が好きだという偏見があるようだ。
「アタトに似合うー!」
僕は、またスーに大笑いされた。
秋の気配が強くなり、収穫祭の噂がチラホラ聞こえ始めた。
これは国全体で行われる祭りであり、各領地によって行われる日程が異なるが、内容は全て収穫を神に感謝するというものだ。
この近隣で一番賑やかなのは当然ながら辺境伯領都。
去年、僕がケイトリン嬢と引き摺り出されたヤツだ。
あの功労者を発表し、褒美が与えるという式典がある。
今年はケイトリン嬢の父親である領主本人が領都に行くことになっていた。
この辺境の町での収穫祭は、ささやかにいつもの市場が賑わう程度だ。
辺境伯の領都で大きな収穫祭があるため、毎年、この期間は人が減る。
なのに、今年は例年より人出は多いらしい。
「町の住民全体が魔獣や魔魚で収入が増えているからな」
ヨシローがホクホク顔で言う。
領地も店も順調で何よりだ。
さて、当日。
主な商人や金持ちは領都に出掛けて不在。
その間に羽根を伸ばす使用人や、連れて行ってもらえない子供たちで、普段より広場の屋台が賑わっていた。
老夫婦の店も大繁盛。
「今日は大盤振る舞いだ。 営業時間に関係なく、食材がある限り注文を受けるぞ」
元兵士の爺さんが叫ぶ。
「おー」「いいぞ、爺さん!」
いつもは時間制限があって、並んでも食べられないこともある常連たちが喜びの声を上げた。
普段は地元食材を使った日替わり定食のみだが、本日は『ライス』や『ウドン』など変わった料理も用意している。
とはいえ食材には限りがあるので、切れたらそこで終了。
僕は店の喧騒を聞きながら1階の隅でお茶を飲む。
食材切れで、明日は食堂は休みだな。
今年は領主が辺境伯領都に出掛けているので、ケイトリン嬢も留守番である。
確か、今日はガビーやスーと一緒に、女性だけでお茶会らしい。
なんだか寒気がするのは気のせいかな。
◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇
「スー、ちょっと聞きたいんだけど」
「ガビー。 何よ、改まって」
「どうしてアタト様を馬のことで笑ったの?」
「いやーねー、ガビーったら。 本当にアタトのことが好きなんだから」
「す、好きって、そんな、お、畏れ多い」
「でもあの馬は領主様が選んだのよね。 ケイトリン様、あれはやっぱりエルフには白馬が似合うと思ったんでしょ?」
「あの白馬も、芦毛も、王族や高貴な方々専用と言われた毛並みですよ。 だから辺境伯様も父も、アタト様にと選んだと思うんです」
「高貴な方って。 今はキランが王子様って言われてるけどね」
「王子様はアタト様なのにー」
「うふふ。 ガビーさんは本当にアタト様を崇拝されてますね」
「でもあたいは、アタトには特別な馬が合うっていうのは分かる気がするの」
「あの、実は、あの白馬は異常に魔力が高くて、他の馬から怖がられてたみたいでして」
「やっぱりね。 ガビーも気付いてたんじゃない?。 アタトの周りにはそういう『らしくない』モノが集まるのよ」
「スーったら、やめなさいよ」
「それはアタト様がエルフの村を追い出されたという生い立ちが関係しているのでしょうか」
「だから『アタトらしい』なって。 あたいたちも同じなんだもの。 笑えるわ」
「スーは、アタト様を笑ったのではなくて、あの馬もご自分たちと同じ仲間だと、笑って受け入れてくださったのですね」
「も、もちろん、ケイトリン様は違いますよー」
「ケイトリン様じゃなくて、ヨシローのほうかもね」
「もうっ、スーったら!」
「良いのです、ガビーさん。 そんなヨシローさんの婚約者になった私も仲間に入れてくださいね」
「もちろんです!」
「えっ、領主のお嬢様があたいたちの仲間なんて、大丈夫なの?」
「だ、だって、私もお二人と同じで、ちょっと困ることもありますけどアタト様のことはヨシローさんよりも頼りにしています」
「ええっ」「そうなんだー」
「ふふっ、ヨシローさんには内緒ですよ?」
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僕はその日、キランに直訴されていた。
「厩舎担当を誰か雇えって?」
「はい。 ご老人は食堂がお忙しいですし、サンテや子供たちには少し荷が重いかと」
はあ。
どうやら、あの2頭は普通の馬より魔力が高いらしい。
辺境伯やご領主には悪気はなかったかも知れないが、僕への贈り物として寄越したんだから、なんらかの意図はあるとは思っていた。
エルフ族が好きそうな見映えだけで選んだわけではなかったということだ。
魔力異常の子供を引き取る僕なら、普通ではない家畜も飼えると思われたのかね。
「分かった。 ワルワさんにでも相談してみる」
僕には町の住民の誰を雇えば良いか分からない。
「それなら適任がおるぞ」
ワルワさんが紹介してくれたのはバムくんだった。
「アタト様、住み込みで雇ってくれるっすか?」
バムくんは兄弟の多い末っ子で、そろそろ独り立ちを考えているらしい。
「ワルワさんの手伝いはどうするの?」
「ジョンさんがいるんで」
あー、ワルワ邸の下宿人に元暗殺者のジョンを紹介したのは僕だった。
元々貴族家で下働きしていたので、家事も力仕事もこなす。
「スライムモドキの扱い方も教えてみたら、すぐに覚えやしたよ」
すまん、バムくんの仕事を奪ってしまうことになったみたいだ。
そんなわけで、バムくんが住み込みの馬丁ということになった。
「よろしくお願いするっす」
「仲間が増えたー」「よろしくお願いします」
双子もすぐに懐いていた。




