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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百四十五話・商会の目印に使う


 体の調整を終わらせて建物に入る。


サッと汗を流した後、1階使用人控室にある食堂に向かう。


「すまん、待たせた」


「大丈夫よ。 先に食事はしたから」


僕はスーと話しながら朝食を食べることにした。


モリヒトの手伝いはキランがするため、手持ち無沙汰なガビーがスーの隣に座る。


足元にタヌ子が寝そべり、クンはポンタを追いかけていた。




「おはよー」「おはようございます!」


トスと双子が身なりを整えてから、食堂に入って来た。


キランを手伝い始める。


「あら、この子たちも雇ったの?」


スーは双子をジロジロと見る。


「ああ。 他にも王都から一緒だった老夫婦も後日、こちらに来てもらうことになった」


ここもあっという間に賑やかになったなあ。




 とりあえず、スーから図案を見せてもらう。


「なんだよ、これ」


「何って。 一目でアンタの工房だって分かるじゃない」


はあ、これは僕なのか?。


 スーの描いた絵にはエルフの顔があった。


円の中に、褐色の肌と特徴的な耳をしたエルフの顔を簡単な絵にしたものだ。


耳には魔法石の耳飾りがぶら下がっている。


これ、意匠じゃなくて目印トレードマークだな。




 王都のドワーフたちの間では、工房により独自の意匠が存在し、それを工房の目印にしていた。


他の工房が真似ることは出来ない。


それを親方に話し、この辺境地のドワーフ工房でもやってみることにしたのである。


「アタトが関係するもの全部に付けるなら、小さくても一目で分かるものが良いわよ」


そりゃそうだが。


「ガビーの銅板だけのために意匠を作るのは勿体無いって言ってるの」


そうなのか。


 モリヒトもスーの意見には賛成らしい。


気に入ったのか、ウンウンと頷いている。


僕はガビーの工房で作った物が、他のドワーフの工房の物とは違うと分かれば良いと思っていた。


ガビーが納得したものだけに独特の柄を施し、意匠にするつもりだった。


「僕じゃなくていいんだよ」


「ダメよ。 ガビーじゃ弱いわ」


ドワーフは伝統的に男性が強く、女性の鍛治師はほとんどいない。


鍛治組合が認めないからだ。


「王都に行って分かったけど、あっちでも女ってだけで甘く見られたわ。 でもエルフなら、ううん、アタトならイケると思う」


なにがイケるんだ?。


わけが分からん。


そりゃあ、王都の職人地区や教会で色々とやらかしたとは思うが。




 キランが発言の許可を求める。


「申し訳ありませんが、私もアタト様の姿を目印に使うのはとても良いと思います」


だけど、伝説的に語られるエルフは、透き通る白い肌に宝石のような緑の目をしている。


そんなエルフではなく、アタトという変わったエルフの容姿を目印にするという。


それは工房の目印にしては、ちょっと変じゃないか?。




 それに紙に描いた絵と違い、銅板や小物に付ける目印には色は一色しかない。


「銅板にこれを描いても色は着かないから意味ないだろ」


「だから耳飾りを強調したいのよ」


肌の色は分からなくても魔宝石の耳飾りはかなり珍しいから、僕だと分かるそうだ。


「あたいはね。 エルフ姿のアタトが好きよ。 あの耳飾りをした姿がとても綺麗だと思う」


お世辞でも、僕の顔が少し熱くなる。


モリヒトから与えられた、人間に擬態するために付けた耳飾り。


正しく魔力を使うための戒めなんだが、そんなことはスーは知らない。




 それに。


「どうして、これは目を閉じてるんだ?」


絵の僕には瞳が描かれていない。


スーに訊ねると、


「んー。 アタトの本気を見たことがないから、かな」


と、言う。


僕の目は普段は黒に見えるが、よく見ると赤が混ざっている。


「ガビーによると本気で戦ってる時は紅く光ってるって」


「へえ」


自分では分からないが、きっと不気味なんだろうな。


でも、それを知る者は少ない。


「アタトの絵に目を描いたら、どうしても耳飾りが弱くなっちゃうのよね」


なんだか芸術家っぽいことを言う。




 とにかく、ドワーフの工房の女性たちにも賛同は得られているらしい。


「悪いけど、ガビー、一度親方に見てもらってくれ」


「はい!。 そのまま登録して来て良いですかー」


もう了解を取り付けた気でいる。


「ちゃんと確認してもらえよ」


親方は一人娘のガビーに甘いからな。


「大丈夫ですよ、アタトさん。 こんな意匠は王都にだってありませんから」


クンがポンタを餌付けに成功して、抱っこしている。


「しかもスーの作品ですから、組合のお爺さんたちが反対するわけありません!」


ガビーがニコリと笑った。




 その日は一日中、ガビーは作業部屋でトスに墨の作り方を教え、夜には地下道を通ってドワーフ街に出掛けて行った。


スーは何故かハナに付きっきりで礼儀作法を教え始め、キランはサンテに執事の仕事を教えている。


お前ら、自由過ぎない?。


僕は何も言ってないんだけど。


『アタト様は、こちらの手紙に目を通してくださいね』


「あ、はい」


僕は何故か、モリヒトに見張られながら手紙の整理をしていた。


地下の部屋は静かなはずなのに、キランやサンテが度々モリヒトに質問に来るせいで落ち着かない状態になっている。




 その翌日には老夫婦が引っ越して来た。


「よく、いらっしゃいました。 これからお世話になります」


「いやいや、世話になるのはわしらのほうですからな」


さっそくキランに厨房や地下の貯蔵庫を案内させ、足りないものや必要なものを書き出してもらう。


持ち帰った『ライス』の試食会も近々、計画している。


今は夏の盛りだが、夏が終わればすぐに収穫祭だ。


それには間に合わせたい。




「あ、そうだ。 あたいもここを作業場にするわ」


は?。


僕は、スーの宣言に首を傾げる。


「塔じゃだめなのか?」


「あたいはガビーの工房の職人じゃないもの」


この別荘の地下には、良く泊まりに来る者には個室を自由に使ってもらっている。


スーも寝るだけでなく、小物を作成するための部屋にしたいそうだ。


「……家賃は取るぞ」


スーはムッとした顔をしながら、


「代わりに、あのハナって女の子の面倒は見てあげるわ」


と、応える。


何故か、スーの家賃は淑女教育係り代と相殺になりそうだ。



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