第三百三十八話・商会の構想を話す
「それでは、アタト様の工房と正式にお取り引きさせて頂けるのですか?」
店主の顔が紅潮してるけど、そんなに嬉しいの?。
「はい、勿論です」
この町で貴族と渡り合える店は、ここしかない。
「で、ではアタト様、契約書をお作りしますのでお待ちください!」
早くも契約手続きの準備に入った。
僕は、キツロタというドワーフの行商人にも卸している話もする。
「なるほどなるほど。 町の外へは行商人を使い、この町では私共の店に任せて頂けると」
「売れ行きが良ければ、ということになりますけど」
話がドンドン進んでいく。
『アタト様、一つ伺ってもよろしいでしょうか?』
珍しくモリヒトが商売に口を挟む。
「うん、なに?」
『アタト様が直接、お店を出されるのではないのですか?』
モリヒトは僕が商人組合に顔を出したり、不動産物件を見てたりしたから、そう思ったんだろう。
老店主がそれを聞いて驚いている。
「アタト様がこの町で出店されるのですか?」
老店主は商売敵になってしまうと慌てているが、僕には一般客相手の小売は無理だと思うよ。
評判の良くないエルフ族だし、愛想がない子供だし。
今は知り合いが取引相手だからこそ、売買が出来ている。
色々恩を売ってるお蔭で成り立つ関係だと思う。
「まだ先の話になるけど、この町で商売はする予定だよ」
僕の店、といっても小売店を出すわけではない。
別荘を本拠地として小さな商会を作ろうと思っている。
『ドワーフ工房とアタト様の店は別、ということでしょうか?』
すでにドワーフの工房を立ち上げて職人を雇い、作った物をこの店に卸す予定だし、干し魚は以前から代理販売を頼んでいる。
それと同じように今後、僕は他の領地から欲しい食料品を大量に仕入れ、領主家や飲食店などに売るわけだ。
「うん。珍しい食料品に関しては、他の街の商会との取引が中心になるね」
『ライス』などの食料品は仕入れても、この町で売れるのかは分からない。
ヨシローは喜ぶだろうが、『ライス』という形では領主館には売れないだろう。
それを使って料理を作ってくれる飲食店が必要だ。
「その店を誰かに作ってもらおうと思ってる」
すでに候補はいるので近々打診するつもりだ。
とりあえず、この店での話を進めていると、双子がいつの間にか戻って来ていた。
僕たちをじっと見ている。
「何か欲しいものはあったかい?」
2人に訊いてみた。
「お菓子、無い」
ハナはお菓子が良かったのか。
じゃあ、後でヨシローの喫茶店に寄ろう。
「サンテは?」
「えっと、紙とかペンとか。 でもあんな高いのじゃなくていいんだけど」
あー、普通の雑貨屋へ行けばもう少し安いのがあるって知ってるのか。
「いや、僕からの贈り物にするよ。 高価な物を一つ持っていれば大事に使うから失くさないだろ?」
サンテは少し驚き、そして嬉しそうにコクッと頷いた。
「王都のセンセーや知り合いに手紙を書きたいんだ」
そっか。 なら紙も手紙用が必要だな。
僕は双子に付き添っていた店員さんに頼んで、上質な紙と魔道具のペンを購入する。
ついでに、いつもの黒インクと習字用の筆も何本か買っておいた。
老店主に、今は森の別荘に居ることを伝える。
これからはワルワ邸ではなく、別荘に直接連絡してもらう。
何度か配達してもらっているので、有能な店員さんなら場所は知っているはずだ。
「はい、分かります。 承知いたしました」
と、店員さんは頷く。
一応建物は、森にある魔獣警戒用の探知魔道具のギリギリ外にあるが、護衛や猟師が一緒なら安全に来ることは出来るだろう。
「では、よろしくお願いします」
店の外まで見送られ、僕たちは魔道具店を後にした。
次は、ハナの希望でヨシローの喫茶店に行く。
昼は過ぎたが店は混んでいた。
入り口には入れない客が数組、並んでいる。
「いらっしゃいませ!、アタト様」
店員の1人が僕を見つけて挨拶に来る。
「こんにちは。 混んでますねー」
どうしようか悩んでいたら、手招きされた。
「奥に個室が出来たんです。 そちらでもよろしければ」
小さな声で囁かれる。
「じゃあ、そっちでお願いします」
並んでいる客には見られないように、こっそりと裏口に回る。
入ってみると、個室と言っても10名は座れるテーブル席が一つ。
たぶん秘密の打ち合わせとか、貴族の逢引きなんかで使う部屋だろう。
僕たちが王都に行ってる間に出来たということは、ご領主が作ったようだ。
これからはヨシローもこういう部屋が必要になるかも知れない、ということだろうな。
「ご注文は何になさいますか?」
僕はハナに選ばせる。
「好きなものを頼んで良いからね」
「う、うん」
「気になるものを全部頼んでもいいよ」
僕は軽食とコーヒーを、モリヒトはいつものケーキだ。
食後のデザートに悩む妹に兄であるサンテは、
「二つくらいなら食べるのを手伝うよ」
と、話す。
「ありがとう、お兄ちゃん」
2人は食後に違う味のケーキを頼んでいた。
ここは必ず飲み物が付いてくる。
それも別々に頼んで分け合うみたいだ。
本当に仲が良い兄妹だな。
「お腹いっぱい!」
昼食とケーキを平らげた双子を連れて、森の別荘に戻る。
腹ごなしに少し歩く。
「アタト」
「ん?」
並んで歩くと、同じ歳だが若干、僕の方が背が高い。
「本当におれたちを引き取っていいの?」
今さら?。
「王都の教会の神官さんにも頼まれたし。 僕もサンテの魔力に興味があるからね」
それに辺境地では子供も立派な働き手だ。
「ちゃんと働いてもらうつもりだから。 その合間に神官の勉強や戦闘訓練も受けてもらうよ」
ある意味、この町は王都より過酷で忙しい。
「おれたちはアタトに着いて来たから、ちゃんとアタトのために働く」
いやいや、そこまで恩に着せたつもりはなかったけど。
「まあ、適度に働いて、いっぱい遊んで、大人になったら返してくれればいいさ」
それが子供の仕事だろ?。
森の別荘に到着。
「なにこれ」
「これから君たちが住む家だよ」
領主館より小さいが、立派な家に双子は驚いてポカンとしていた。




