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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百三十六話・職人の護衛と尻尾


 2日ほど塔で過ごしたが、やはり僕は別荘に移ることにした。


タヌ子親子が来てくれたけど、ドワーフ女性たちの「触らせて!」攻撃にすっかり萎縮してしまって近寄らなくなってしまう。


それに。


「やっぱり、まだ手紙は来るんだね」


『……はい』


大旦那の館で手紙の整理をしていて気付いた。


エルフの村の奴らは、精霊を使って僕に手紙を送って来ていたのだ。


しかも、先日王都のエルフに頼まれた手紙をモリヒトに届けてもらったのだが、


「お前のせいで帰って来れないのだから、責任を取って連れ戻せ」


とか言い出した。


バカか。


モリヒトが届けた先は、僕の育ての親である長老の友人で、ネルさんという女性エルフだ。


彼女がそんなことを言うはずがないので、手紙を盗み見た誰かが居たのだろう。


勝手な憶測だけど、アイツらはそういうヤツらだからな。




 僕たちだけならモリヒトの結界の中に引きこもっていればいいけど、今はドワーフの職人たちがいる。


彼女たちをずっと閉じ込めておくわけにもいかない。


たまには外に出て休憩したり、休みの日は魚釣りに行ったりと息抜きも必要だ。


護衛は工房長であるガビーだが、休日も彼女たちに付き合っているのは、ちょっとかわいそうな気がするな。


「護衛を雇うか」


草原ならタヌ子たちが危険を知らせてくれるが、海からの敵は誰も警戒出来ない。


悩んでいたらスーに提案された。


「防御結界の魔道具でも持たせておけば?」


お、それいいな。


逃げる時間稼ぎくらいにはなる。


 ということで、スーが職人たちのお出かけ用に携帯出来る魔道具を作ってくれた。


「カワイイ!」


タヌ子の抜け毛を使い、小さな尻尾のような毛玉にリボンが付いている。


リボンは彼女たちの希望で、それぞれ違う色になっているのも人気の秘訣だ。


さすがスーだな。


小型尻尾の中には、僕が魔力を乗せて書いた文字の紙を入れ、悪意を感じたら自動で防御結界を発動するようにした。


ドワーフたちは人族と違って魔力自体は多いので、魔石を入れる必要がないのも助かるな。




「あの、アタト様」


そんな話をスーとしていたら、ガビーが話しかけて来た。


「私が護衛を雇ってもいいでしょうか」


「護衛?」


ガビーはコクコクと頷く。


どうやらドワーフの護衛を雇うつもりらしい。


「わたしの息子でして」


高齢の女性職人がひとりいるのだが、彼女を心配して息子が護衛を名乗り出てくれたらしい。


ガビーは自分で護衛代を支払うと言うが、僕が雇っても構わないので、それは止めさせる。


 ドワーフは本来、戦闘民族なので普通に体は鍛えている。


なにせ男性のドワーフは必ず得意武器を所持しているくらいだ。


「母は昔から苦労してオレを育ててくれました。 母の役に立てるなら、今の仕事は辞めるつもりです」


父親は典型的なドワーフの鍛治師だったが、体を壊して他界したそうだ。


そのため母親は、女性でも働けると聞いて工房にやって来たらしい。




「アナタのお仕事の妨げになりませんか?」


と、まだ若い息子に訊いてみた。


日頃は普通に鍛治師見習いをしているが、何かあれば駆け付けるドワーフ地下街の治安隊員でもあるらしい。


「優しい息子さんですね。 分かりました。 うちの工房の警備係として採用しましょう」


「えっ、よろしいんですか!」


母子おやこで喜んでくれた。


ただ、住む部屋がないので通いでお願いする。


ついでに、通いの職人たちの送り迎えもしてくれることになった。


僕は、またロタ氏に契約書を頼むことにする。




 さて、僕たちは別荘に向かうことにした。


準備しながらガビーに話をする。


「ガビー、僕の部屋は皆の共有にして良いよ」


「え、でも」


あの部屋は広いからベッドも人数分入る。


衝立を上手く利用して使ってくれ。


「申し訳ありません、アタト様」


「謝ることじゃないよ」


僕を追い出すようで気が引けるのだろう。


ガビーには話せないけど、一番の原因はエルフどもだからね。


本当に気にしなくていい。




 必要なものはモリヒトが結界の倉庫にしまう。


『食材や生活用品は残しておきます』


うん。 ガビーや職人たちにも使えるものは使ってもらえばいい。


別荘は町に近いから、いつでも買いに行けるし。


「あの、私、休みにはそちらに行ってもいいですか?」


ガビーが恐る恐る訊いてくる。


「あはは。 工房長、報告はまめにしてくれよ」


必要な物の買い出しや、商品の売れ行きも気になるだろう。


ガビーたちなら休みでなくても、いつ来ても構わない。


ドワーフの地下道は、あの別荘にも繋がっているからな。


「モリヒトの分身のランプも置いておく。 何かあれば連絡をくれ」

 

僕はモリヒトとキランを連れて塔を出た。




 早朝に出発し、魔獣の森には夕方遅く到着。


モリヒトが別荘の結界を解く。


ワルワ邸から、さらに森の奥に入った場所に、辺境伯邸を小さくしたような館が現れた。


キュキュ


クロが姿を見せる。


「やあ、久しぶり。 当分ここにいるから、タヌ子とポンタも連れておいで」

 

ナァーン


一声鳴いて姿を消した。




 モリヒトが先に入り、建物全体の清掃と浄化を行う。


『どうぞ』


門が開かれる。


「この門は日頃、閉まっています。猟師や、警備兵には建物は見えますが、中には入れません 」


キランに説明すると、キョロキョロと周りを見回している。


「大きいですね」


周囲を魔法柵に囲まれた地上2階、地下1階の建物。


両開きの大きな扉を開く。


「ひ、広い」


『ここは、馬車がそのまま収容出来ます』


キランは館の中を覚えるためにモリヒトに着いて歩く。


「じゃ、僕は自分の部屋にいるから」


『承知いたしました。 お食事はそちらにお運びいたします』


モリヒトとキランが頭を下げる。


1階の簡易厨房付き使用人部屋がキランの部屋になるんだろうな。




 さて、僕は地下にある自分の部屋に行く。


欲しいものを詰め込んだ、元の世界のような部屋。


「相変わらずヨシローには見せられないな」


夕食の前に風呂に浸かり、着替える。


「失礼いたします」


キランが食事を運んで来た。


今夜はこの部屋で一緒に食事を取る。


明日からまた忙しくなるぞ。

 


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