表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

332/667

第三百三十二話・塔への帰り道を行く


 一旦、塔に帰る準備をする。


「ワルワさん、本当にありがとうございました」


留守の間も、いっぱいお世話になってしまった。


ワルワさんがいたから安心して王都に行けたし、帰って来られたと思う。


「いやいや、友人として当然のことをしたまでじゃ。 双子にしても、魔力の研究に色々と力を貸してもらったよ」


確かにサンテの魔力は特殊だし、研究するためにかなり仲良くなったようだ。


「実に興味深いよ」


と、ワルワさんは嬉しそうにニコニコしている。


結果的に双方の役に立てたのなら良かった。


 サンテの魔力を吸収したスライム型魔物は、なんと色は表れず、まだ透明のままらしい。


同じ魔力を吸収し続けると、スライムたちはその魔力の色に変わるというのに。


ちなみに僕のウゴウゴは真っ黒である。


サンテが光属性なら光を帯びるのかなと楽しみにしていたんだけどな。


ホタルみたいに光るスライムが見たかった。




 早めの夕食を取り、町を出ることにした。


「ではまた、ワルワさん、ジョン」


「ああ、またいつでもおいで」「うん」


ワルワ邸にはモリヒトの分身が入ったランプが置いてある。


何かあれば、それに話し掛けてもらうことになっていた。


それを教えるとジョンは少しホッとした顔になる。




「あ、そうだ」


僕は木箱に見せかけた結界の箱を取り出す。


蓋の一部分に魔石が嵌めてあり、僕がいなくても形を維持する。


そして、誰かが開くと僕にも分かるようになっていた。


「こ、これ」


「うん。 ジョンの全財産」


暗器やヤバめの薬は抜いてある。


「なるべくなら使わせたくないから、危ない物は抜いてある」


ワルワさんには聞こえないよう小さな声で言うと、ジョンは頷いた。


「暇を潰すものなら町にいくらでもある。 魔物を飼ったり、魚を釣ったり。 魔獣狩りも出来るから、誰かに連れて行ってもらうといいよ」


箱を受け取り、ジョンは複雑そうな顔をした。




 やはり、自分がしてきたことがあまり良いことではないのは理解しているんだろう。


ジョンにはもう命令する主人はいない。


好きなことをして過ごして良いのだ。


「彼の生活費です」


ワルワさんにお金を預けようとしたが断られた。


「金ならワシが貸そう」


本人には、


「いつか稼いで返してくれれば良いから」


と、ワルワさんは言った。


僕としては、ヤバい仕事はしてほしくない。


だから、働くならワルワさんに間に入ってもらい、町の人々からのみ給金を受け取ることを約束させた。


「それじゃあ」


ようやく僕とモリヒトは塔に向かって歩き出す。




 夕闇の中を歩くのは久しぶりだな。


王都への旅では移動は昼間だけにしていた。


旅の仲間には戦えない女性もいたし、人数が多いと闇の中でははぐれる者も出るかも知れない。


モリヒトや、エルフである僕は気配や魔力で相手を把握出来ても、全員の面倒を見るのは負担が大きい。


正直、そんなことをするくらいなら、ゆっくりの移動でいいさ。


帰りは、いざとなれば魔法で移動するつもりだったし、結局はそうなった。


 僕たちは森を抜け、月夜の草原に出る。


その向こうに真っ暗な森が浮かんでいた。


心地よい夏の夜の風が吹き抜けていく。


だが、余計な気配が混ざっていた。


「キラン」


「アタト様、お帰りなさいませ。 ご無事で何よりでございます」


子供相手に恭しく礼を取る。


「で、こんなとこで何してるの」


なんで夜の草原で執事服?。


しかもなんか怒ってるみたいだし。




「私はずっとアタト様をお待ちしておりました」


うん、勝手にな。


「ですが!、また誰かをお連れになったとか?」


あー、ジョンのことか。


彼を連れているのを、町で見たのか、聞いたのか。


自分の立場が悪くなったと思ったようだ。


「キランには関係ないでしょ。 それより、狩りの腕は上がったの?」


僕は再び歩き出し、カンテラを下げたキランは何か喚きながら着いて来る。


「あれは、辺境地で生きる知識を学んでいるだけです」


ほお、そうなんだ。


「護衛のための訓練とは違い、なんというか、自分自身も相手も生きるため戦っているという気がしますね」


ウンウン。 相変わらず、よく喋るな。


キランって、辺境伯領都の本邸で何年か働いていたはずだけど、ここは本当に何も無い田舎だ。


僕たちの王都からの戻り日数は足止めも多少あったけど約ひと月。


微妙な期間だったけど、キランが先に辺境地に入った意味はあったかもな。




「それで、まだ僕のところで働くつもり?」


「勿論です!」


食い気味に答えてきた。


「辺境伯様からもアタト様の傍で学ぶことが多いだろうと喜んで送り出して頂きました」


ここで辺境伯を持ち出したのは、僕に断らせないためだろう。


キランはこういう交渉事には強い。


「分かったよ。 とりあえず、僕の家で話そう」


喋りながら歩くのは結構疲れる。


キランはゼェゼェ言いながら着いて来た。


やっぱり体力ないなあ、こいつ。




 途中で1度休憩を取り、後はサクサク歩き続けた。


夜明けには波の音も懐かしい塔に到着。


しかし。


「なんだ、これは」


敷地の中に何やら建物が出来ていた。


『ドワーフたちのようですね』


モリヒトは、旅に出る前に塔には誰も入れないように結界を張っている。


勿論、地下道にもだ。


今まで留守にする度に、散々ドワーフたちが勝手に出入りして酒盛りしてたからな。


つまり、僕の塔に入れなかったドワーフたちが近くに家を建てたらしい。


ナンテコッタ。




 モリヒトが塔の結界を解除すると、今まで何も無かった空間に見窄らしい外観の元灯台が現れる。


「これが僕の家だよ」


キランはちょっとポカンとしている。


境界が分かるように周りを低い石塀で囲った敷地の中。


地上二階建てくらいの何もない吹き抜けの建物で、その上に昔は明かりが入っていたらしい展望台があるだけ。


外壁はわざとそのままにして目立たないようにしている。


「どうぞ」


「は、はい。 失礼いたします」


キランが恐る恐る中に入ると、その広さに驚く。


魔獣の解体処理や魚を干すためにガランとしているが、外からの見た目より広い。


「ここがアタト様の家」


キランが呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここを中心に集落が出来る勢い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ