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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三十三話・朝の市場でのこと


 翌朝、早めに起き出して市場に偵察に向かう。


せっかく商売の許可は得ているので、あわよくば露店も出したいが無理だろうな。


何せ準備が足りない。


組合に場所取りをお願いしなくてはならないみたいだし、今からでは間に合わないだろう。


しかも、フードを深く被った僕とモリヒトの二人で、客商売が出来る気がしない。


ガビーは地下室が気になるらしく、ワルワさんと話がしたいと残り、タヌ子は今日は定期健診なので置いて来た。


ヨシローは、まあいつも通り寝坊である。




 町の中心広場の一画にある市場。


前回は祭りだったが、今日はそこまでの人出ではない。


この状態が普通なのだろう。 通常通りの営業らしいテントが固まって並んでいた。


一通り見て回っていると声を掛けられる。


「おや、坊ちゃん。 久しぶりだねえ」


魚醤を頼んでいる漁師のお爺さんだ。


「おはようございます。 お店、出してらしたんですね」


「いやあ、あはは」


何故か、笑って目を逸らされた。


「すまんね。 あれから干し魚の注文が増えちまってよ」


お爺さんの店は干し魚を売っている。


「それは良かったですね」


僕は微笑む。


何故、謝られたのかな。


「もしかしたら僕の商売に支障が出るとお考えですか?」


子供らしく首を傾げる。


「あはは、まあ、そうだ」


「それは大丈夫だと思いますよ」


僕にとってお爺さんは商売敵というよりお世話になっている同業者である。


しかも、お爺さんの店に並ぶ干し魚はどうみても数が足りない。


「何だったら代わりに販売していただけると嬉しいのですが」


モリヒトに預けてある袋を見せる。


お爺さんはその量に目を丸くした。




 代理販売は届けが必要だというので、店番を隣の店に頼んでお爺さんと組合に足を運び、手続きをした。


ついでに、今後、市場に出店する注意点などを聞いておく。


テントなど備品を自前で用意出来るなら、固定の場所を予め取っておくことも可能だそうだ。


「でも、三十日に一回しか来られないです」


と話すと、受付のお姉さんから、


「あ、あの、間違っていたらすみません。 えっと、エルフ様でいらっしゃいますか?」


と、訊ねられた。


「ええ、そうですが」


否定するのもおかしい気がして俯いていた顔を上げ、一瞬だけフードをずらす。


「それでしたら、領主様から指示がありまして」


僕が来たら店の場所を固定するように言われているそうだ。


一枚の地図を渡される。 市場の配置図だ。


「印の無い場所が空いている所です」


何ヶ所か空白になっている。


「ご希望の位置が決まりましたら、ご連絡くださいませ。


たまにいらっしゃる日だけでも大丈夫ですわ。 必ず空けておきます」


祭りなど特別な日以外は割と自由らしいが、僕たちの場合は領主様が把握したいので固定の場所にして欲しいという。


「それは構いませんが」


ご領主には恩もある。 ここは素直に従っておくか。




「連絡先はワルワ様のお宅でよろしいでしょうか」


何やら細かく世話を焼いてくれるが、受付嬢の目は僕の後ろに立っているモリヒトに向いていた。


そっかー、イケメンに限るかあ。


 とりあえず手続きも終わったので僕たちは建物から外に出る。


何故か建物の窓から女性たちがチラホラ顔を出していた。


「モリヒト、ちょっとだけ振り返って手でも振ってあげたらどうだ」


からかい半分にそう言ったら、モリヒトが言われた通り振り返る。


それだけで黄色い声が降ってきた。


女性たちは元気だな。 結構結構。




 市場に戻り、お爺さんに大量の干し魚を押し付ける。


祭りの時はワルワさんとバムくんを売り子として雇い、僕たちは店の奥にいた。

 

今回は、販売自体をお任せして僕たちは店を離れるため、お爺さんの代理販売となる。


「先日の祭りでワルワさんに店番をお願いした時に作ってもらった価格表です。


よかったら参考にしてください」


ワルワさんが作ってくれた価格表は、売り値と卸し値、利益まで計算済みである。


おまけに祭りで売れ行きが良い魚も分かったので、今回多めに用意した。


「おお、こりゃあ至れり尽くせりだのお」


お爺さんは喜んで請け負ってくれた。


これで僕たちが来る度にワルワさんの手を煩わすことがなくなる。


あの方は研究者だから、あまり手を煩わすわけにはいかないと思っていたので、こちらも助かった。




「ごめんごめん、遅くなったー」


ヨシローが慌ててやって来た。


いや、ヨシローとは何も約束はしていないはずだが。


「サナリ様、お疲れさんですな」


漁師のお爺さんが声を掛けるとヨシローが驚いている。


「え?、なんでお爺ちゃんが」


「干し魚の代理販売をお願いしました」


僕は事情を説明する。


「はえ?、いつの間にそんな仲良しに」


魚醤の件でお爺さんを紹介してくれたのはヨシローである。


「ヨシローさんのお蔭です。 ありがとうございます」


ニッコリ微笑むとヨシローは益々首を傾げた。


「申し訳ありませんが、他にもご相談したいことがありまして」


僕はヨシローを引きずるようにして、その場を離れる。


市場に買い出しに来た女性たちに囲まれる前に脱出だ。



 

 いつもの喫茶店に入る。


表から入っても、いつものヨシローの席に案内された。


ヨシローは何でも好きなものを頼むようにと言ってくれる。


僕はコーヒーを頼み、モリヒトは紅茶とケーキを頼んだ。


「で、アタトくんの相談って?」


僕は組合でもらった地図を広げる。


「次回から市場で出店する場所を決めて欲しいと言われたんです」


町には詳しくない僕では決められない。


事情を話してヨシローに決めてもらったほうが良いだろう。


「へぇ、領主様がねー」


色々と先回りで手配されているようだ。


そんなにエルフが心配かなあ。


「んーー、俺ならこの辺りかな」


ヨシローは異世界人なので自分では商売はしない。


働かずとも十分に生活支援を受けているからだ。


「ここなら、いざとなれば裏通りに出られるし、宿屋が近いから観光客の目にも留まり易い」


「なるほど」


漁師のお爺さんに販売してもらう場所を決め、地図はヨシローに届けてもらうことにした。


「おう、任せとけ」


じゃ、よろしく。



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