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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百二十八話・帰還の報告をする


 翌朝、僕はきちんとした服装に着替える。


領主館に帰還の挨拶に行くためだ。


ヨシローも王都用に作った高級な服にした。


だけど、ジョンは綻びのある執事服か、辺境伯家で用意してもらった綺麗めの普段着しかない。


「ふむ。 ちょっと待っておれ」


ワルワさんが、どこからか豪華な服を持って来た。


「息子の若い頃の服だ。 ヨシローには少し小さいからジョンくんに差し上げよう」


「……あ、ありが」


戸惑いながらジョンはその服に袖を通す。


「へえ。 似合うね」


ヨシローの言葉に僕も頷く。


痩せ過ぎだけど、背が高くて体幹がしっかりしてるからシュッとした服が良く似合う。


迎えに来たティモシーさんも「見違えた」と微笑む。




 先にヨシローたちを馬車に乗せ、僕はティモシーさんに話し掛ける。


「すみません。 後で神官様にお願いがあるので教会に寄ってもいいですか?」


「あ、ああ。 構わないよ。 伝えておく」


僕とモリヒトが乗り込み、馬車が動き出す。


ティモシーさんがバムくんに教会への伝言を頼んでいるのが見えた。




 馬車が領主館の正面玄関に到着。


家令や侍女、使用人たちの出迎えを受けた。


昨日も、町中の沿道で手を振ってくれた住民たちがいたな。


まるで英雄にでもなったみたいだ。


本物は見たことがないけど。


「お帰りなさいませ、アタト様。 ヨシロー様」


ケイトリン嬢がきちんと礼を取る。


「無事に戻りました。 これも辺境伯様、領主様のお蔭です。 ありがとうございました」


ヨシローの口上が終わると応接用の部屋に案内される。




 メイドたちがお茶とお菓子を置いて出て行く。


「楽にしてくれたまえ」


「ありがとうございます」


領主の隣にいるはずの娘のケイトリン嬢は、今はヨシローの隣に座る。


今回の王都行きで正式に婚約が認められたからな。


ヨシローは父親の手前、あまりダラシない顔も出来なくて苦笑いしている。


「アタト様、モリヒト様。 この度は、娘とサナリ殿、他の者たちも含め、無事に連れ戻って頂けたこと、心より感謝申し上げる」


僕の正面に座る領主が簡易ながら感謝の礼を取った。


隣に座るジョンが不思議そうに僕たちを見る。


「こちらこそ、王都の教会からの双子の兄妹を受け入れて頂き、ありがとうございました。 申し訳ありませんが、もうひとり。 こちらのジョンも、しばらくこの町でお世話になります」


使用人だった時の癖なのか、ジョンはすくっと立ち上がる。


「ジョンと申します。 しばらくご厄介になります。 よろしくお願い申し上げます」


低く頭を下げて礼を取る。


おー、仕事モードだとビシッとするなあ。


ヨシローと、部屋の入り口で警護していたティモシーさんが驚いてる。


どちらかというと気の抜けた、ぼんやりとした青年だと思っていたはずだからな。


僕みたいに、あの貴族家でのヤバい姿を見ていないと分からないよね。




 さて、今日は帰還の挨拶とジョンの紹介だけだ。


「では」と立ちあがろうとすると、ご領主に引き止められる。


「一つお願いがございます。 サナリ殿に」


「えっ、おれ、私ですか?」


ヨシローがキョトンとする。


「正式に我が娘の婚約者となられた『異世界人』のサナリ様には、是非、この館に居を移して頂きたい」


この世界で拾われてから、ヨシローはずっとワルワ邸の居候である。


次期領主であるケイトリン嬢の夫になるのだから、いつまでもそのままではいられない。


「ああ、こちらで正式な文官教育が始まるのですね」


僕は頷いた。


 つまり、この世界の貴族となるための教育である。


「辺境伯の王都邸で少しやったアレですね」


ケイトリン嬢も頷く。


王都でも、王宮の貴族管理部での許可が降りてすぐに辺境伯夫人によるケイトリン嬢の領主教育が始まった。


ヨシローも結婚に向けた指導を受けているはずだ。


 次期領主であるケイトリン嬢を補佐する伴侶は、専属の護衛になるか、領主家の事務方になるかのどちらかである。


ヨシローは商人だ。


それなら、領地の商売に関して知識を使うことが出来る文官に成ればいい。


そのための泊まり込み教育。


そして、それを建前として、同居生活をしながら貴族の生活を学んでもらうつもりのようだ。




「領主の伴侶なら『異世界の記憶』を使うことは可能なのですか?」


僕は教会警備隊のティモシーさんに訊ねる。


「過度でなければ大丈夫ですよ。 領主家の一族として身元は保証されますから。 ただ、その知識で他国や他領を攻めることは禁じられております」


そりゃそうだ。


『異世界人の知識』がなくても、そんなことをすれば国軍が出てくる。


「では、ヨシローさんの教育には教会からも内容の確認が必要になりますね」


僕の言葉に、ご領主とティモシーさんが頷く。


いくら辺境地とはいえ、今、この国で『異世界人』と周知されているのはヨシローだけだ。


あまり表に出ると争奪戦が始まってしまう。


適度に抜けたところがあるヨシローは、あまり警戒されてはいない。


今は、領主の娘が経営する喫茶店の指導者的な立場にある。


美味しいお茶の作り方くらいは許容範囲という話だ。


「領地経営となると、国からの監視は付くでしょうな」


ご領主もそう言って頷く。




 はあ、監視ねえ。


「あのー。 話は変わりますが、隣領の領主が変わるのはご存知ですよね?」


「勿論だ」


領主が近隣の領地のことを知らないはずはない。


「では、新しい領主がどなたかはご存知でしょうか?」


ご領主はケイトリン嬢やティモシーさんを見る。


「アタトくんは知ってるの?」


ヨシローが訊いてくる。


「おそらくですが」


発表まで他言は出来ない。


「王族の中にひとり、文官になる方がいらっしゃいます」


王族から高位貴族になる予定の若者。


「その方かも知れません」


「まさか!。 私たちがよく知っている方でしょうか」


ケイトリン嬢が気付き、思わず声を上げた。


「その方に決まれば、この領地での産業は上手くいくと思いますよ」


エンデリゲン王子ならば既知である。


僕としても相談出来る相手が増えるのは有難い。


監視役に目を付けられ、難癖をつけられることもなくなるだろう。



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