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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百二十七話・田舎の町に到着


 ドワーフ組は町を通り抜け、草原の向こうの塔に向かった。


塔に荷馬車を一旦置いて、地下のドワーフ街に行くそうだ。


荷物の積み下ろしもあるけど、真っ先にスーの親とガビーの親方に無事を知らせるために。


あっちが落ち着いたら辺境伯家に荷馬車を返しに行くそうなので、その時はまた同行する予定だ。




 ティモシーさんと警備隊の若者は、ようやく任務を終えた。


「じゃ、私たちはここで」


「またね、皆」


領主館の前で別れる。


「はい、また」


同じ町にいるのだから、またすぐに会えるというのになんだか寂しい気がした。




 ヨシローは領主館の前でケイトリン嬢に帰郷の挨拶をしていたが、なにやらぎこちない。


「今日は汚れているから、明日の朝、正式に挨拶に行くよ。 領主様に伝えてくれる?」


「はい、承知いたしました」


そこはほら、口付けくらいしろよ。


「きゃっ」「わ、わわっ」


軽く風で後押しして2人を引っ付ける。


真っ赤になるふたりをニヤニヤと見守っていたが、抱き付くだけでキスには至らなかった。


ああいうのをヘタレというのか。


まあ、元日本人として気持ちは分かるがな。




 元辺境伯王都邸の使用人である老夫婦は、しばらくは領主館に滞在し報告書類の作成だそうだ。


ご苦労様である。




 暗くなり始めた頃に、町外れのワルワさんの家に到着した。


「ただいま戻りました!」


「お帰り、アタトくん」


ワルワさんにギュッと抱き締められ、心底安心しているアタトを感じる。


良かったな、本当に無事に帰って来れて。


 モリヒトとヨシロー、それにジョンも一緒だ。


「友達のジョンです」


簡単に紹介する。


「よ、よろし、く、おねが、いしま」


緊張して小さな声で話すジョンを、ワルワさんはニコニコしながら見ている。


「ジョンくん、ワシは魔獣や魔物を研究しているワルワという者だ。 しばらくここでゆっくりするといい」


「アタトくんがここに連れて来たということはそういうことだろう」と言われてしまう。


ヘヘヘッと笑いながら「お願いします」と頭を下げた。


ジョンには人里のほうがいい。




 バムくんが夕食を並べてくれる。


「町の皆からの差し入れですけどね」


「ありがとうございます」


僕はバムくんに皆にお礼を伝えてほしいと頼む。


「んー。 懐かしい味だ。 やっと帰って来たって感じがするよね」


ヨシロー、それ、辺境伯領都でも言ってなかった?。


ジョンは黙々と食事を腹に収めている。


「しかし、驚きました。 あんなに大勢で出迎えてもらえるなんて。 何かあったんですか?」


何か揉め事でもあって僕たちの到着を待っていたのだろうか。


僕は食事をしながらワルワさんに訊ねる。


「特に理由はないと思うがの。 ケイトリン様が辺境伯領にアタトくんたちが到着したら伝えてくれるように頼んでいたらしくてね。 昨日、早馬で伝令が来た」


その知らせはあっという間に町に広まり、今日の出迎えとなったそうだ。




「それだけ皆、待っていたんですよ」


バムくんが笑う。


「ウゴウゴもな」


僕の胸元で揺れる黒いスライムに微笑む。


「ありがとうな、ウゴウゴ」


『イーノ、アタト、チャントキタ』


うん、僕も会いたかったよ。


「タヌ子たちも毎日様子を見に来ているよ。 ポン太も大きく成ったしな」


そっか。 魔獣は成長が早いからな。


「それは楽しみです」


僕は窓の外の暗い森を見つめ、どこかにいる黒い狸魔獣を思う。


タヌ子たちと仲良くしてくれているかな。


食後はワルワさんに、


「今日は疲れているだろうから、旅の話は明日にでもゆっくりとな」


と、早めに寝るように促された。


「はい。 おやすみなさい」


ヨシローは3階の自分の部屋へ上がって行き、僕とジョンは地下の客間に下りた。




 モリヒトは周りの様子を見て来ると言って姿を消してしまう。


最強の精霊である大地の精霊モリヒトが不在だったせいか、少し魔獣の気配が多いそうだ。


そういえば、町中にも猟師の姿が多かったように思う。


ジョンと並んでベッドに入る。


「ここは、あったか、いね」


そうかな、地下だからかもね。


ジョンは微笑んだ。




 よく観察してみると、どうやらジョンは15歳前後らしい。


顔が老けてたから気付かず、背丈だけで大人だと判断していたけど、単純に思考が幼いのはそういいうことか。


7年前、路頭に迷っていたら、あの貴族家の誰かに孤児なら無給で雇えると拾われたようだ。


「でも、ちゃんと、食べもの、はもらえ、た」


そりゃそうだろう。 何も食わなかったら死んじまう。


それでも小さな子供には大変だったろうな。


「だんだん、いっぱいおこずかい、もらえるように、なった」


好きな物を買っていいと言われて暗器や毒を買う子供はどうかと思うが。


まあ、あの家にいたのはああいう連中が多かったから、子供を騙して不要なものを売りつけていたのかも知れないな。




「ちょっと待て。 5歳くらいであの家に?。 じゃあ、もしかして魔力開放とか才能調査もしていないんじゃ?」


ジョンは首を傾げる。


彼には暗殺者としての特性があるかも知れないってことだ。


あの身のこなしや反応速度が、あの館で働いているうちに身についたとは思えない。


元々才能があって、それでなんとかなってたんじゃないか。


「明日、教会へ行ってみてもらおう」


神官さんに頼んで魔力開放を、ってこいつの魔力を解放したらどうなるんだろう。


ちょっと怖くなってきた。


「もしかしたら、モリヒトはそれを警戒していたのかも」


うわぁ。


すごいの拾って来ちゃった。




 だとしたら、やはり僕には使いこなせない人材だ。


依存する相手のために才能を使うようになれば、かなりの人格者じゃないと無理だ。


世界が終わる。


そうなると、何が良くて何が悪いのかを自分で判断出来るようにしなけりゃならん。


付き合う相手を考えなきゃ。


まあそれも今すぐという話じゃない。


「とにかく、今日は休もう」


「う、うん」


ジョンはどう思ってるかな。


こんな田舎に連れて来られて、ガッカリしたかな。


「おやすみなさい」


幸せになってほしい。


ジョンにも、他の子供たちも、この世界の皆も。


アタトもな。



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