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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百二十一話・大会の裏で動く


 剣術大会が始まる。


街の大通りを、沿道に集まった領民たちに見せつけるように、優雅にゆっくりと馬車が移動して行く。


乗っているのは領主である大旦那と、その娘である辺境伯夫人、その2人に付き添われた次期領主候補の令嬢である。


 領主の妹の嫁ぎ先、王都にある中位貴族家からの養女だ。


本人には貴族の血は入っていないそうだが、母親の実家は豪商で高位貴族との繋がりも太い。


彼女自身も幼い頃から淑女教育は受けていた。


ただ残念なことに、ここの領主が筋力第一主義の脳筋の元国軍騎士。


後継は「剣術を愛する者」を求めた。


結果、幼い頃にそんな大旦那に出会った少女は「剣術好き」に育ち、無事にこの領地に迎え入れられたということである。




 ほとんどの住民が大通りに、そして剣術大会の行われる会場に向かっていた。


「すごい騒ぎだな。 まあ、その方がやり易い」


僕は仲間たちの移動をモリヒトに任せ、領主館の庭を歩く。


気配は消しているが、忙しいため誰もこちらを気にしていない。


「ほら、サッサと歩けよ」


「ヒッ」


あの日、老侍女を脅して僕を捕えようとした使用人たち。


5人とも予想通り、大旦那の亡くなった奥方の実家の使用人だった。


見捨てられたのか、誰も彼らを探しに来なかったけどな。


今、僕は彼らと一緒に、その中位貴族家に向かっている。




 この街は中心部に領主館があり、周辺は貴族街と教会。


問題の中位貴族家は領主館の裏にある。


「なるほど、裏口から自由に入れるわけだ」


長い年月を掛けて作られたであろう庭。


昔は仲の良い子供たちが駆け回り、行き来していたのかも知れない。


よく手入れされた庭園の、魔獣騒ぎのあった誰も入れない場所。


そこから雑木に紛れ、中位貴族家からの見えない出入口が存在した。


「ほら、行けよ」


厳つい男たちの背中を風魔法で押す。


顔を見合わせて駆け出した。


逃げられるとでも思ったのか、草木を掻き分け、すごい勢いで走って行く。


ガシャンッ


鉄製の柵にぶち当たる。


「な、なんで?。 いつもなら開いてるのに」


大男が情けない声を出す。


「今日は剣術大会だし、館の使用人たちも少ない。 無用心だから開いてないのかもねー」


そんなわけないのは分かってる。


こいつらが帰って来ないから用心のために閉めたんだろ。


僕が前に出て、魔力で柵を壊す。


男たちを通らせた後、誰かが勝手に直さないように結界で隠しておいた。


おそらく今日はそんな暇なんてないだろうけどね。




 柵を潜ると、そこも庭。


「あんまり手入れされてないなあ」


すぐに庭が終わり、建物が見えてくる。


「これが中位貴族の館ねえ?」


領主の元奥方の実家にしては古臭い匂いがする。


庭といい、柵、建物の外壁に扉や窓。


良くいえば伝統的、正直にいえば古い。


「領主館だって建物自体は古いけど、これは壁が剥がれても修理されていないのか」


「ぎゃあ!」「た、助けてくれー」


僕はゆっくりと声の方に顔を向けた。


先に行ったはずの男たちが、建物の裏口で倒れている。


ひとりだけ立っているのは若い執事服の男性。


「いらっしゃいませ。 お客様でしたら正面にお回りください」


まるで感情のない声が僕に向けられる。


暗殺者特有の。




「こんにちは」


僕は両手を上げ、敵意が無いことを示す。


少なくとも今の彼とは争う意味はない。


「僕はアタトといいます。 こちらの家の方にお会いしたいのですが、取り次ぎをお願いします」


客かどうかは向こうが決めるだろう。


執事は、僕をじっと見た後、


「しばらくお待ちください」


と言って建物の中に消えた。


本当に消えた、足音一つしなかった。




 すぐにバタバタと足音がして、乱暴に扉が開く。


中年の家令らしき男性が出て来た。


「ほ、本当だ。 あの小僧だ」


どの小僧か知らんが、そんなに怯えてどうした。


ああ、そこに転がってる男たちは僕がやったんじゃないよ。


あんたのとこの若い執事のせいだから。


「は、入れ!。 奥様がお会いになるそうだ」


「ありがとうございます」


中年男性の後ろをついて行く。


僕の後ろには、さっきの若い執事。


気配が無いのが逆に怖い。




 重厚な扉がギシギシ音を立てて開く。


古い埃の匂いがする部屋の中。


年老いた女性が中央に座り、娘らしい良く似た中年の女性がいる。


家人が女性しかいないの?。


「夫と婿は野蛮な大会とやらに出掛けておるが、何か御用かね」

 

最低限の使用人と護衛しかいないようだ。


 僕は向かいのソファを勧められて座ったが、どうも落ち着かない。


「すみません、奥様。 窓を開けても?」


「何をする気じゃ?」


「ちょっとだけ空気を入れ替えます」


そう言って僕は振り向き、若い執事に頼む。


執事は頷き、手近な窓を開けてくれる。


ギギギィ


小さいのに重そうだな、おい。




 どうやら掃除にも気合いを入れないといけないようだ。


「では風を動かします。 転ばないように気を付けてくださいね」

 

立ち上がり、目を閉じて室内の隅々を意識する。


風よ、埃を除去し、空気の入れ替えを頼む。


ゴウッと室内を風が吹き抜ける。


「キャーッ」


ガタガタッと家具まで揺れたのは、そこまで埃が溜まってたってことだ。


呆れたな。




 あー、スッキリした。


窓を閉じてもらい、僕はソファに座り直して防音結界を張る。


「モリヒト、お茶を頼む」


『はい、アタト様』


いつの間にか戻って来たモリヒトが、僕の前にお茶のカップを置いた。


「ヒャッ」


中年の家令が部屋の隅に逃げ出す。


僕はニコリと微笑む。


「さて、領主家とのことでお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?」


目の前の老女を見る。


「な、何を勝手に!」


娘が金切り声を上げるが、母親はそれを遮る。


「エルフ殿、何を訊きたい?」


僕を襲った後ろめたさもあるのか、エルフを怒らせると怖いって知ってるのか。




「貴女がこの家の女主人で、領主様の亡くなった奥様の姉上ですね」


「そうじゃ」


僕は不思議に思っていたことを訊ねる。


「何故、貴女方は領主家を恨んでいらっしゃるのですか?」


女主人はギロリと僕を睨む。


「あの男は妻を、私の妹を見殺しにしたんじゃ」


へえ。



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