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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三十二話・タヌ子の成長と風呂


 季節が良かったのだろう。


好天が続いて魚も豊漁のため、干し魚が溜まってきた。


そろそろ町に売りに行くことにする。


モリヒトの分身の情報で、ヨシローはどうでもよいが、ワルワさんが在宅の日を確認しておく。


「タヌ子、ガビー、行くぞ」


「はいっ、アタト様」


キャニャー


今日の荷物は鮮魚ではないので、普通に森を抜ける陸路である。


早朝に出発し、向こうには夕方までに到着予定だ。




「いらっしゃーい、久しぶりだね」


三十日ほどぶりである。


「お久しぶりです、ヨシローさん。 お元気でしたか?」


扉を開けたら目の前にいたので挨拶しないわけにはいかなかった。


荷物ごと姿を消していたモリヒトは、家の中に入ってから姿を現す。


『ワルワ様、本日もよろしくお願いします』


「ああ、モリヒトさん、こちらこそよろしく」


年長者の二人は挨拶を交わして荷物の整理に入る。


「ガビーちゃんだっけ、こんばんは。 俺はヨシロー、覚えてる?」


「は、はい」


ガビーはグイグイくるヨシローを怖がり、僕の後ろに逃げて来る。


てか、ヨシロー。 いつからガビーをちゃん付け?。


「先日はお世話になりました。 これ、お土産です」


僕は魔魚の干し魚ではなく、燻製にしたものを差し出す。


鮭のような魔魚が獲れたので燻製にしてみたら美味かったのだ。


「お、これは酒が合いそうじゃな。 アタトくん、ありがとう」


「一応味見も兼ねているので遠慮なくどうぞ」


ワルワさんに手渡し。


ヨシローには燻製代わりにタヌ子を渡してみると、大人しく受け取る。


大人しいタヌ子は空気が読める良い子だ。




「お、タヌキ。 ずいぶん重くなったな」


「ていうか、大きくなったんですよ」


幼獣だったタヌ子も、今では普通の成獣の大きさになっている。


「おそらく良い食事をさせてもらっておるんじゃろう」


ワルワさんがタヌ子を見て微笑む。


『餌といいますか、アタト様の魔力を吸収しているせいでしょう』


ほお、そうだったのか?。


「魔力かあ。 そうだよなあ、エルフだし」


ヨシローは羨ましそうに僕を見る。


「さあさあ、お腹が空いたじゃろう。 夕食にしよう」


ワルワさんが声を掛けて、皆で食卓に着いた。




 食後は地下にある客用の部屋へ向かう。


地下の部屋は何もないが、結構広い。


魔獣など災害にあった場合に長期間避難する部屋だから、お手洗いや水浴び用の部屋も地下には完備されている。


「すごいですねえ」


ドワーフであるガビーは人族の地下室に興味があったらしい。


「この町の家には全て避難用の地下室があるそうだよ」


「へえ」


思ったよりしっかりした造りをしている。


 モリヒトは、頼んでおいたベッドが搬入されているのを確認してシーツを掛ける。


三台用意してあったということはモリヒトも寝るんだな。


『いえ、わたくしは必要ありません』


と言って、大きくなったタヌ子をベッドに乗せる。


いやいやいや、タヌ子こそベッドは必要ないだろ。


だってタヌ子はほら、僕のところに潜り込んでくるから。


今までエルフの姿で寝たことがなかったモリヒトは、しばらく考え込んでいた。


『真似してみますか』


と恐る恐るベッドに横になる。


プッ、幼い子供の初めてのお泊りみたいでカワイイ。




 クスクス笑っていたら、ゴンゴンと部屋の扉が叩かれた。


凄い音だが、たぶんこの地下室自体が頑丈に出来ているせいだろう。


扉を開くとヨシローが立っていた。


「遅くにごめん!。 実は風呂に入らないかなーって誘いに来たんだ。


風呂は広いけど一つしかないから、女性のガビーちゃんが先かな?」


「はい、ありがとうございます」


と、僕がガビーのベッドを見るとすでにグースカと寝ていた。


いつの間に。


「すみません」


僕は頭を掻く。


「あははは、疲れてたんだね。 じゃ、アタトくんだけでもどうぞ。


ちょっと特殊な仕組みになってるから説明するよ」


「そうですね。 一度見せていただいてもいいですか?」


僕は、この世界の風呂に興味が湧いた。


ヨシローがウンウンと頷いて歩き出したのでついて行く。


モリヒトは僕のタオル用の布と着替えを持ってついて来た。




 この世界でも湯船に浸かる風呂はあるらしい。


一般的ではなく、人族の家では上流階級の家にしかないそうだ。


「高い魔道具の給湯設備が必要だからね」


水浴び用の浴室はあるが、そこで生活魔法と呼ばれる水魔法を使う家がほとんどだ。


地下の廊下を歩き、突き当たりの扉を開く。


「だが、ここにはある!」


ジャーン!、という擬音が聞こえそうなくらいヨシローがドヤ顔をした。




 湯気が上がる湯船が見えた。


天上は吹き抜けなのか、高い位置に窓がある。


たぶん異世界の知識でヨシローが作ったのだろう。


本当に銭湯みたいなタイル張りの風呂場だ。


「地下室を増築する時に、こっそり領主様に頼んでみたら作ってくれてさ」


ヨシローが自慢げに説明する。


どれだけ無茶を言ったのやら。 僕はご領主が気の毒になった。


「変わった浴室だろ?。 あ、エルフは違うのかな?」


「エルフは基本的に風呂には入らないので」


だいたい洗浄魔法で済ませるので、エルフの村には無かった。


僕もたまに川で行水するくらいだ。




 とにかく入ってみたい。


「ここに魔石を起動するボタンがあって、温度の調節はこれ」


モリヒトと二人で説明を聞く。


基本的に浴槽の中だけで、体を洗うのも髪を洗うのも湯船に浸かったままやるそうだ。


でも、ここの風呂場は洗い場もあり、上から小さな滝のようにお湯が流れ落ちてくるシャワーぽいものもある。


石鹸も高級そうな良い匂いがした。


「へへっ、それ、ケイトリン嬢にもらった!」


嬉しそうなヨシローだが、もしかしたら臭いから洗って出直せって言われたんじゃないのか。


「ありがとうございます。 初めてですので入ってみます」


僕がそう言うと、ヨシローの目がキラキラした。


「えっ、不安?。 一緒に入ったほうが良い?」


は?、嘘だろ。


「モリヒト」


『はい』


モリヒトがヨシローの首根っこを掴んで、浴室を出て行った。


久々の風呂は結構な湯加減だった。


ご領主には感謝しないとなあ。


はー、極楽極楽。



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