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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百十九話・出発の予定と打ち合わせ


「こちらこそ、副長さんにはお世話になっております」


子供らしく笑ってみせると、疲れたシワだらけの顔が崩れた。


「良い子だ。 ワシもまだまだがんばらんとなあ」


と、ポツリと呟いた。


え?、そんな顔でまだがんばるの?。


僕は息子である副長の顔を見る。


眉を寄せ、唇を噛み締めていた。


「あまり無理なさらないでくださいね」


手を差し出し、握手をするついでに回復魔法を掛ける。


「おや、ありがとうございます。 エルフ殿」


隊長は胸に片手を置き、ニコリと微笑んだ。




 僕の作業は終わったので、夫人たちの馬車で一緒に領主館に戻ることになった。


「明日は楽しみですね」


お嬢様はワクワクした顔で僕に微笑む。


「そーですねー」


僕は「ハハハ」と笑い返すが、明日は会場に行くつもりなんてない。


ちょっとやることがあるので。


 館に到着すると、すぐに部屋に戻る。


館でも夫人とクロレンシア嬢の歓迎の夕食会に呼ばれたが、僕は体調を理由に欠席を決め込む。


大旦那は僕には強く言えず、了承された。




 夕食の時間。


僕は、大旦那の夕食会に呼ばれたヨシローとティモシーさん以外を部屋に呼んだ。


今の部屋は使用人部屋で狭いため、仕方なく襲撃された部屋を使う。


「祭りに行きたい者はこの後、適当に出掛けてください」


今夜、この街は前夜祭のような状態で賑わうらしい。


その前に出発の打ち合わせだ。




 揃った顔ぶれを見る。


ドワーフのロタ氏、クン、ガビーにスー。 そして久しぶりに職人見習いのおねえさん。


辺境の町の教会警備隊の若者。


御者をしてくれている元辺境伯領兵の爺さんとその奥さん。 2人は領兵隊宿舎の仕事を今日で終わらせて来た。


 モリヒトと老侍女が夕食の準備してくれている。


次期領主候補のお嬢様の専属だった老侍女は、あの一件で自ら暇乞いとまごいを申し出た。


しかし、今は事件そのものを無かったことにしたため、僕が預かっている状態である。




「明日、この街を出ます」


「何時に出ますか?」


御者を務める老夫妻が訊ねる。


「剣術大会が終わるのは午後早めとしても、祝賀会やお披露目の宴には出られますよね?」


警備隊の若者が発言する。


次の領地は、新しい領主がまだ赴任していないため危険地帯になっている。


その領地を迂回する街道は無い。


「なので、魔法で一気に辺境伯領へ飛ぼうかと思います」


寂れた隣領に用は無い。


「ああ。 王都で見たアレですかい」


僕は老兵に頷く。




 先日、王都の辺境伯邸から辺境伯領都本邸に、夫人や荷物をモリヒトに運んでもらった。


結界に取り込み、そのままモリヒトが移動。


目的地で結界から取り出すだけ。


簡単に見えるが、移動した上で取り出すのは量や距離によっては時間が掛かる。


魔力だけで出来ている精霊と違って、魔力の少ない物質や人間が、結界の中で空間を移動した場合、再構築するのが難しいらしい。


とにかく精霊以外の移動は大量の魔力を消費するため、モリヒトでも僕のようなエルフの精霊魔法士の助けが必要になる。


精霊魔法って、精霊とエルフ両方の魔力が使えるから本当に最強なんだよ。




「午前のうちに僕とモリヒトが一旦、辺境伯の本邸に行き、打ち合わせを済ませます」


その後は用事が終わった人から送り出す。


「用事って、アタトさんは大会を見に行かないの?」


クンの言葉に「興味がない」と答える。


「え?。 発案者はアタト様だと聞いてますけど」


ガビーの言葉に頷く。


「確かに僕が言い出したことだけど、責任者は僕じゃない」


そりゃそうだろ。


僕はこの領地の者でもなく、領主に意見が言えるだけの子供だからね。




「ワシらは構いませんよ」


老夫婦は了承してくれた。


「おれたちもアタト様にお任せするよ。 明日はこの館にいればいいのかな」


ロタ氏の言葉に頷く。


「はい。 荷物を全部乗せた荷馬車で待機しててください。 祭り気分の住民たちの目が離れた隙に移動します」


ドワーフたちは荷馬車ごと厩舎に集合してもらう。


「ティモシーさんは大会に出場するし、終わるまで街を出られませんよ?」


警備隊の若者の言葉に頷く。


「ティモシーさんたちは騎馬ですし、ご自分で移動が出来ます。 ヨシローに関しては僕が話します」


2日後に王都から辺境伯がこちらに来る。


そちらと合流して、辺境地に帰る夫妻と一緒に帰ってもいい。


「別れの挨拶をしたい方はお早めに。 出来れば、明日の大会が終わるまでには街を出ていたいですから」


大会の勝利者が決まり、街中の混乱に巻き込まれないうちに移動を完了させたい。




 モリヒトに合図を送り、夕食が配膳される。


本当にここの食材と別れるのは寂しいな。 


「ロタさん。 ここの食材も仕入れてください」


「ああ、美味いよな。 酒も良い果実酒が多い」


モリヒトの目が輝いている。 


これから買い込みに行きそうだな。


和やかに食事が進み、帰りぎわに警備隊の若者に手紙を渡す。


「これはティモシーさんたちへの手紙です。 大会が終わったら開くように魔法が掛かっています」


明日の出場者は早朝から会場入りする。


どうせ警備隊仲間である若者はティモシーさんの試合は見たいだろうから、終わったら渡してもらえばいい。


試合前に余計な雑音を入れてはいけないしさ。


「分かりました。必ず。 私はティモシーさんと一緒に馬で後を追いますので」


「ありがとうございます。 もしヨシローが最後まで残るようでしたら、その時は一緒に魔法移動でも構いません」


どうせ、モリヒトは最後に会場を消す仕事がある。


その時に会場にいてくれれば良い。


ヨシローたちも、夜に催される貴族や有力者ばかりの宴に出たいとは思っていないだろう。




「それなら、アタト様も最後まで一緒に観戦されたらいいのではないですか?」


ガビーが不思議そうに訊ねる。


「そうよ。 予告もしないで帰るのは失礼じゃないかしら?」


スーはお嬢様がかわいそうだと言う。


「悪いけど僕にも色々と事情があるんだよ」


ニコリと笑っていない笑顔で微笑み、あとは黙らせた。


大旦那には明日の朝、手紙で伝える予定だ。


最後だから色々と詰め込んだ内容になるだろうな。



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