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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百十八話・会場の耐久試験と副長


 まずは、闘技場内にご挨拶程度の風を巻き起こす。


そして段々とそれを強くしていく。


「うっ」


副長さんは防御結界で無傷なはずだが、舞い上がる砂煙に顔を顰めた。


「剣術で巻き起こせる風ってどれくらいだろ?」


とりあえず、客席の結界にビシバシ当たる音がしているから、この程度で良いか。




 次に、風の中に暴風雨のように水滴を混ぜる。


水だけだとあまり脅威にはならんか。


その水を徐々に凍らせ、氷の塊にしていく。


バリバリッと氷が結界に当たって砕ける。


ふむ。 床や壁が凍らないのであれば問題は無し。




 闘技場の床一面が泥濘ぬかるみ始めたので、今度は地を這うように炎を走らせる。


「は?、火まで使うのか」


副長が呟く。


まあね。


モリヒトは大地の精霊だから、僕は土魔法が一番無理なく使える。


だけど「土魔法しか使えない」とは言ってない。


 闘技場を縦横無尽に炎が走る。


ふむ。 壁や床の耐熱は問題無し。




 だが、水分が蒸発したため水蒸気で視界が悪くなった。


僕はそれに紛れて副長の傍に移動。


「まだやります?」


下から見上げて声を掛ける。


「え、アタト様はこちらが見えるのですか?」


副長がキョロキョロしながら僕を探す。


当たり前じゃないか。


自分の魔法で不利になるようなことはしないよ。




「エルフですから、魔力で敵の場所を把握しています」


パチンッと指を鳴らすと、周りの土を壁に変えて副長を囲う。


「わっ!」


いくら防御していたって、結界ごと閉じ込めたら終わり、でしょ。


ドンドン ドンドン


「こ、降参です!、出してください」


そんなに叩かなくてもいいのに、暗闇で不安になる子供かよ。


土の壁を壊し、風で水蒸気を飛ばす。


モリヒトも会場の結界を消したらしく、観客席から「ワアッ」と声が沸き起こるのが聞こえた。




 魔法とは、直接攻撃するだけではない。


魔術兵の力をそんなことにしか使わないのは勿体ない。


脳筋思考の領兵たちが、そう思ってくれれば良い。


「お疲れ様でした」


「アタト様も」


2人で笑って観客代わりの領兵たちに手を振る。


「すごいぞ、小さいの!」


「副長!、お疲れ様でした」


色々聞こえるな。


「アタトくんじゃあね。 相手が悪いよー」


ヨシロー、なんか言ったか?。




 闘技場を出て観客席に向かう。


副長と共に貴賓席の辺境伯夫人の前に並び、低く頭を垂れて礼を取る。


「大変お見事でした、アタト様」


ニコニコしながら夫人は僕を讃えた。


「ありがとうございます」


副長にも労いの言葉があり、僕たちは顔を上げる。


「しかし、そなたが副長になっていたとは」


眼鏡の青年は辺境伯夫人とは顔見知りらしい。


そうだよな。


夫人は嫁ぐまではここの領主の娘だったわけだし、副長の家系は代々領主家に仕えている。


幼馴染ってやつか。


「いくつになりましたの?」


「18歳になりました」


若い!。 副長ってそんなに若かったのかー。


副長の顔が赤いな。


コレはアレか。


幼い男児が美しいオネエサンに憧れてたー、とか?。


お嬢様の顔色が悪い。




「では、王都の騎士学校から戻ったばかりですの?」


「はい。 父に強制的に連れ戻されまして」


あの事件で起こった領主交代は、色々なところで被害者を出してしまったようだ。


すまんかった。


ん?、騎士学校。


「あら、後輩でしたか」


クロレンシア嬢も会話に入ってきた。




「しかし、この領の領兵隊は大変ご立派ですね」


貴族らしい言葉で褒めているように聞こえるが、公爵家であるクロレンシア嬢から見ると立派過ぎると揶揄している。


夫人も理解していて、扇子で顰めた顔を隠す。


「まったく。 父は何を考えているのか」


副長がクロレンシア嬢に、街の警備隊が領兵隊に吸収された話をする。


大旦那の息子夫婦が亡くなった時に、暗殺者から領主一族を守ることを強化するために領兵を増やしたそうだ。


「ご自身が守れなかったことを大変悔しがっておられたようです」


そんなことで変わるとは思えないけどな。




 僕が子供だからつまらなさそうにしていると思ったのだろう。


一番年齢が近い赤髪のお嬢様が僕に話し掛ける。


「ごめんなさいね、色々と」


僕は苦笑で応えた。


「あー。 大旦那様は仕方ありません」


ご老人だし、他の家の兵士にも口出しするほどの心配症のようだし。


「でも、それを諌める者がいないのが問題でしょうね」


元々は息子がその役目をしていたのだろう。


そうすると、口煩い息子より孫を可愛がるようになり、甘やかす。


「そうですわね。 使用人のほとんどが輿入れしたお祖母様が実家から連れて来た者たちばかりですから」


夫人がため息を吐いた。




 大旦那は婿養子でもないのに、思ったより領主館に居場所がなかったらしい。


若い頃からあまり領地に居なかった可能性もある。


「そのご実家は、まだこの街にあるのですよね?」


僕は何も知らないふりをして確認する。


「ええ、勿論よ。 使用人たちも自由に行き来しているはずです」


領主家の使用人でもない者たちが自由に出入り出来るって、なかなかヤバいな。


許可をもらっているとしても、平民の僕たちが自由に出入りしていることをおかしいと気付くべきだった。


 僕はクロレンシア嬢に近付き、小声で訊ねる。


「辺境伯様は、いつ頃こちらに到着されますか?」


「明後日辺りかと」


「ありがとうございます」


間に合えばいいな。




「お久しぶりでございます、お嬢様」


大旦那と同じくらいの年齢の細身の領兵が声を掛けてきた。


夫人と親そうに言葉を交わす。


そして副長にも、


「なんだ。 もう終わったのか?」


と訊ねた。


「はい、父上」


副長の父親ということは、現在の領兵隊隊長である。


そういえば、どことなく似ている。


「そっちは終わったのですか?」


「ああ。 誘導路に看板を立てたし、お前の希望通り御手洗や救護所も増やしておいたぞ」


副長は「ありがとうございます」と頷いた。


ほー。 こちらの親は煩い子供の話は聞くようだ。


領兵隊の規模が大きくなり過ぎたせいで、かなり忙しいらしく、兵舎でも不在が多い。


 その隊長が僕を見下ろしている。


「あなたがアタト殿か。 主と息子が世話になります」


疲れた顔だ。



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