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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百五話・剣術大会の会場の周辺


 今日は出掛ける予定。


その前に、お嬢様の侍女に会いに行く。


「少しだけお時間を頂けませんか」


「あ、はい」


家令さんに許可を得て二人っきりで図書室に入る。


あ、モリヒトがいるから二人っきりではないな。


お嬢様は昼まで帰って来ない。




「お嬢様の教育の件ですが」


昨夜、大旦那をちょっと怒らせたみたいなんで、あちらとは話し辛いんだ。


「現在、指導されている方はどなたですか?」


外部から家庭教師が来ているはずだが。


「それが、まだ決まっておりませんで」


孫の騒動があったのは僕たちが王都に向かった初春の頃。


すぐに孫を廃嫡して、大旦那が領主に返り咲いた。


僅か2ヶ月前の話だ。


王都の親戚筋から令嬢を迎えたが、次期領主候補だと伝えたのは、つい最近のことらしい。


そうか。 まだバタバタしてて、彼女のことも慣れるまで放置してる感じか。


大旦那は領主だし忙しいのは分かるが、教育担当くらい付けろや。


とりあえず「お茶会を淑女教育の時間にしましょう」と提案。


出席者はスーとヨシローになるが、今日は『異世界の記憶を持つ者』に関する教師をティモシーさんにお願いしようと思っている。


勉強を含むため庭ではなく、お嬢様の自習室での開催をお願いした。




 大旦那にはまた「余計なお世話」だと言われそうだが、僕には危機感がある。


直系の孫で、領主の地位にあった若者に入れ知恵する者がいた。


それだけでもこの館は危険な匂いがする。


そして『異世界人』が滞在している今、ソイツが再び動き出す可能性が捨て切れない。


僕は、お嬢様には早めに次期領主として自覚をしてもらいたい、『異世界人』のいる危険性を認識してほしいんだ。


「承知いたしました。 午後からの準備はお任せください」


「よろしくお願いします」


家令さんにも話し、許可はもらった。




 それから、僕は館の外に出る。


教会に行くと言ったらティモシーさんも着いて来た。


まずは教会で参拝者に紛れて辺境地の教会警備隊の若者と会う。


教会内にある子供たちを預かる施設の近くで落ち合い、中庭にあるテーブル席に勝手に座る。


「噂は届いていますか?」


若者は頷く。


「剣術大会のことですよね。 聞いてます」


施設の子供たちや、街で働く施設出身の者たちも期待しているそうだ。


「剣術は兵士たちの中でも騎士の習う武術ですよね。 何故、平民の皆さんが期待するのでしょう」


「だって、見たいじゃないですか」


魔獣や戦争のない平和な領地。


大人の男性が真剣に戦う姿なんて、街中に住む住民が間近で見ることなんて滅多にない。


「観戦する楽しみ、か」


お嬢様と一緒だな。


「大会の場所の確認をしたいんですが、案内をお願い出来ますか?」


「勿論です」


僕たちは一緒に教会を出た。




 大会が行われる場所は、郊外にある領兵隊が日頃の訓練に使っている荒れ地である。


その荒れ地を視察に行く。


「こっちです」


警備隊の若者はすっかり街に馴染んでいた。


スイスイと進んで行く。


近道なのか、大通りではなく路地に入る。


胡散臭い連中がいるな。


「隣領からの移民です。 ここの領主様は同情されてるみたいですけど、身元の確認が甘いというか。 色々と心配なことがありまして」


教会警備隊としては警戒を強めているそうだ。




 領地が一つ潰れて領主が新しく赴任するということは、思っていたより大事おおごとなのだなと思う。


そりゃそうだよな。


住民にすれば頭が代わるのだから、政策も変わるだろうし。


「いや、普通はここまでひどい状態にはならないよ」


ティモシーさんは顔を顰めながら歩く。


 領主に問題があって交代させる場合、多くはその家族や縁戚の者に継がせる。


そうすると、家系に対し忠誠を誓う騎士や使用人をそのまま雇用し易い。


順調に交代が行われれば、住民も極端に減ることはないはずだった。


「だけど、今回はそれが出来なくてね」


ティモシーさんが聞いた話では、あの領主一族、縁者の全てが貴族管理部から不適格判定をされたらしい。


「私たちがあの町で迷惑をこおむるだいぶ前から王宮の調査が入っていたようだ」


「それで対応が早かったんですね」


それだけ長い間、領民は苦しめられていたということだ。


ずいぶんすさんだ町だったもんな。




 領都を囲む石塀が見え、急に石畳が途切れた。


この場所は領都の外れで住民の住む地域から少し離れている。


荒れ地に到着。


今日は訓練は休みだと聞いていたので誰もいない。


木の柵に囲まれた土地の隅に、細長い休憩所が一つ。


柵に沿って、かなり強力な魔法結界が施されている。


「広いな」


野球場にも使えそうだ。


そんなスポーツはこの世界にはないが。


「ここで魔法や弓といった長距離攻撃の練習もするみたいですね」


警備隊の若者が石塀の側にある標的を指差す。


街中の警備にそんなものが必要なのかはおいといて。


「中央に土魔法で闘技場を作って周りにすり鉢状の座席を設置すれば良いか」


人間の魔術師なら数日は掛かるが、モリヒトならすぐに終わる。


大会は1日だけだし邪魔にはならんだろう。


 


 どこからか鐘の音が聞こえてきた。


「昼ですね」


領主館内にいる時は気付かなかったが、朝昼夕方の3回、時を告げる鐘が鳴るそうだ。


「昼食を食べて帰ろうか」


「そうですね」


ティモシーさんの提案に乗り、若者が案内してくれた食堂で食べる。


この街で館以外で食べたのは初めてかも。


「どうですか?」


警備隊の若者は僕が食べるのをじっと見ていた。


「美味しいです」


「気に入ってもらえて良かった」


そんなにホッとしなくていいんじゃない?。


僕が気に入らないと暴れるとでも思ってるのかな。




 しかし、ここでも食材の質が良い。


後は、もう少し味付けが薄いほうが好みだけどな。


「モリヒト。 この街で野菜や肉を少し多めに買っていこう」


『承知いたしました』


調味料を変えたらもっと美味くなる気がする。


辺境地に帰ったら、この領地から農産物の仕入れが出来ないか考えよう。


そして修行中の老夫婦に味の改善をお願いしようかな。


「美味しいものは正義!」だ。


なんだか辺境地に帰るのが楽しみになってきた。



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