表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

301/667

第三百一話・対戦の相手を選ぶ


「そこまで!」


予想通り、ガビーが僅差で勝った。


「ハアハア。 もうちょっとだったのに」


悔しがりながら、クンは地面に寝転がる。


「ハアーッ。 危なかったー。 メチャクチャ怖かったー」


ガビーが涙目になっている。


「なんだよ。 魔獣をバリバリやっつけてたくせに」


僕はガビーに水筒を渡しながら笑う。


「魔獣と同族相手は勝手が違いますよー」


「あはは、まあ、そうだろうな」


でも僕なら同族相手でも容赦しないけどな。




 二人のドワーフを連れて大旦那と赤毛の少女の傍に戻る。


「つ、次は私ですね!。 アタト様、お願いします」


少女がやる気満々だが、僕は相手をする気はない。


「いや、僕にその気はありません。 貴女の相手はガビーですので、少し待ってやってください」


「え?」


不満顔で少女は僕を見る。


「だって、戦い方を見せてくれるんでしょう?」


思ったより興奮しているのか、僕に詰め寄って来た。


「僕と貴女では実力が違い過ぎるんですよ。 言ったでしょ?。 一瞬で終わっちゃうって」


「でも!、だってー」


なかなか離してくれない。




「戦い方は見せますよ。 そうだ、副長さん!」


見学していた領兵たちに顔を向けて、僕は眼鏡の青年を選ぶ。


「一戦、お相手してくださいませんか?。 お嬢様に僕の戦い方を見せる約束をしたので」


「えっ、私ですか?」


ポカンとしている眼鏡さん。


「すまんな、副長。 相手があんな子供ではやりにくいだろうが頼む」


領主に頼まれたら雇われている領兵が断われるはずはない。


「わ、分かりました。 では誰か木剣を」


「副長さん。 さっきまで何を見てたんです?。 ちゃんと真剣で戦ってたでしょう?」


僕はモリヒトから愛剣を受け取る。


刃渡りは長剣の半分くらいで、少し反りがある一対の双剣を腰にく。


これが僕の戦い方だ。




 一旦、兵舎の中に入り、すぐに戻って来た副長は長剣を持っていた。


訓練用の軽鎧を着ている。


領兵たちが騒めく。


「あの副長が」「本当に子供相手にやるのか」


見物人が増える。


昼近くになり、外の訓練場に行った兵士たちが戻って来たらしい。


「キミは鎧は着ないのか?」


副長さんが僕に訊ねる。


「僕にその剣が届くとでも?」


口元を歪めて不遜に笑ってみせる。


「……そういえば、キミはエルフ族でしたね」


へえ。 ちゃんと情報は掴んでいたか。


「ええ。 もっぱら魔獣退治は魔法中心ですけど、今回は人族相手ですから使いませんよ」


ローブを脱ぐと、中は普段着より運動着に近い程度の服。


身軽さ重視だからな。


「副長さん、擬態のままがいいですか?。 それともエルフの姿がお好みで?」


「好きにして頂いて結構です」


煽ってみるが割と冷静だ。


「ではこのままで」


僕と副長は広場の真ん中まで進むと左右に分かれる。




「はじめっ!」


老兵の声が響く。


僕は双剣を抜いたまま、ダラリと両手を下げている。


やる気なさそうに見えるだろうね。


冷静を装う副長の顔が、だいぶ嫌そうな表情になってきた。


サッサと終わらせるか。


 突然、僕は相手に向かって走り出す。


身構える相手の直前で飛び上がり、背面に着地。


「ムッ」


相手が振り返る前に一度斬り付け、すぐに後退して離脱。


そこからは周囲を走りながら翻弄。


たまに斬り込み、腕や背中に傷を付けていく。


「おいおい、まともにやり合わねえのか」


見物人からの野次が飛ぶ。


まともにぶつかるわけないだろう。


相手は領兵隊副長だし、こっちはエルフでも魔法なし。


かなりの身長差。 間合いに入って足を止めたら終わる。


とにかく、捕まらないように動き回るしかない。




 相手が動いたら、こっちは下がる。


ジリジリと苛立つ様子を見て、隙が有れば斬り込むを繰り返す。


カキンッ


僕の剣が弾かれる。


ようやく目が追い付いて来たようだ。


「なんだ。 エルフの戦い方は逃げ戦法か」


「ふふふ、煽っても無駄ですよ。 アナタに勝てるなんて僕は思ってません」


声が届く範囲で止まるのは無謀だが、伝えておかなきゃならん。


「僕の戦い方をお嬢様に見せるだけですしね」


魔獣相手なら動き回っている間に何体も倒しているだろうに人相手は邪魔臭い。


「よく見てくださいね。 この後、お嬢様に戦い方を教えるのはアナタだ」


「なにっ?」


集中して体を回転。


狙ったのは副長が剣を持つ腕。


双剣の二回攻撃のうち、一回は弾かれたが、もう一回は血飛沫が飛んだ。


うん、満足だ。


「そこまでじゃ!」


僕はサッと離れて剣を納める。


「ありがとうございました」


ニコリと笑って礼を取った。




「よくやった!、坊主」「ありゃあ、試合じゃねえよ」「副長、お疲れー」


うるさい野次馬は無視して大旦那の傍に戻る。


『お疲れ様でした』


モリヒトから汗拭きの布と水筒を受け取った。


「あれがエルフの戦い方ですか」


お嬢様は不満気だ。


「真剣なんですから」


水筒のお茶を一口飲んで、フゥッと息を吐く。


「斬られたら終わりです」


本来の戦い方なら相手の剣は受け流すか、避ける。


それが出来なかった時点で僕の負け。


副長は僕を斬るつもりなんてなかった。


僕の剣を狙っていたから、剣がぶつかって止まったのだ。




「ガビー、いけるか?」


「はいっ!」


領兵から木剣を借り、ガビーに持たせる。


「お嬢様の番ですよ」


「私は真剣ではないの?」


まだ頬を膨らませている。


「このドワーフは鍛治職人でして、怪我させられないんです」


日頃、戦闘訓練に慣れている者と全くしていない者相手では勝手が違う。


思いがけない動きをするので怪我の確率が上がってしまう。


「それに、ガビーは女性ですからね」


外見では全く分からないが。


「え?」


大旦那も気付いてなかったようだ。


「同性の方が遠慮なく戦えるでしょ」


男性たちがお嬢様相手に真面目にやるとは思えない。


どうやって負けようかって考えるんじゃないかな。




 ガビーは慣れない長剣。


それでもお嬢様より頭一つ分、背が高い。


鍛治師なので、見えない服の下にはキッチリ筋肉は付いている。


お嬢様がどれだけ鍛えてるか知らないが、体型を見ればおおよその筋肉量は分かる。


「そこまで」


やっぱりガビーの相手にはならんな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ