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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第三百話・大会の模擬試合の練習


「お、エルフ殿。 朝からがんばっておるな」


翌日、いつも通り朝錬をやっていると大旦那がやって来た。


「おはようございます」


クンと二人で礼を取る。


「いやいや、楽にな」なんて言いながら脳筋大旦那は僕たちの傍から離れない。


そこへ「お爺様!」と救世主がやって来る。


僕とクンはこっそり目を見合わせて頷く。


「では僕たちはこの辺でー」


「あ、待ってください!」


グェッ、逃げ出そうとしたら捕まった。


「剣術大会の件、十日後に決まりました!。 さっそくですが、訓練に参加させてください!」


脳筋っ娘め。


「えっと。 お嬢様が参加されるわけではありませんよね?」


僕の言葉に大旦那と孫のような少女が顔を見合わせて笑う。


「実はな」


なんだか嬉しそうな二人の態度に嫌な予感がする。


「お爺様が優勝者と対戦させてくれるって約束してくださったのです」


「はあ?」


何考えてんだよ。




 大旦那は悪気無く笑う。


「姫の願いだ。 叶えてやらねばならぬ」


あーそーですかー。


「ですから、体型の似ているお二人の動きを参考にさせていただこうと思います!」


あのね、お嬢様。


「参考になんてなりませんよ。 僕はエルフで、クンはドワーフです」


基礎体力も違えば、培って来た筋肉や運動感覚も違う。


体形が似てるからって人族の女の子が僕たちを真似るなんて出来ないんだけど。


僕はジロリと大旦那を睨む。


「僕たちを敵だと認識して戦うのなら別ですけどね」


それなら分かる。


何度も手合わせして相手の出方に慣れれば、多少はマシになるだろうからな。


「えっ、いえ、そんな。 敵だなんて思っていません」


慌てる少女にクンは追い打ちを掛ける。


「敵は敵でしょ。 おいらとアタトさんだって戦う時は敵だもん」


つまりライバルってことか。


僕はクンの正論に頷くしかない。




「じゃあ、こうしましょう」


僕はお嬢様に一つ提案する。


「領兵隊の兵舎の広場を借りて一度だけ練習しませんか。 それで僕たちの戦い方は分かるでしょう」


その後は領兵の方々に稽古をつけてもらえばいい。


 お嬢様は同年代の僕たちと戦ってみたいのだろう。


ならば、大会で僕たちのどちらかを相手にエキシビジョン、つまり模範試合をすればいい。


見世物になるのはこの際、僕も目をつぶる。


「僕とクンが模擬試合をして、その後にお嬢様と対戦なら丁度良いと思います」


「ほどよく疲れているからか」


僕は大旦那に頷く。


お嬢様に勝ち目があるとしたら、それくらいのハンデは必要だろう。


だから、優勝者と一戦なんてヤメロ。


「当日、誰が優勝するかは分かりませんが、少なくともお嬢様が勝てる相手じゃありません」


怪我をさせるようなことを約束するなよ、クソジジイ。




「その代わり、僕は全力でやりますけど」


素人しろうとの少女に負けるのは嫌なんで。


クンが僕の服を引っ張る。


「アタトさんが全力でやったら一瞬で終わっちゃいますよ?」


と、小さな声で囁く。


「バカか。 全力でやるわけないだろ」


聞こえたのかどうかは分からないが、赤毛の少女の顔が真っ赤になっている。


「分かった。 すぐに領兵隊へ行きましょう!」


本気マジかー。




 ちょっと脅して諦めてもらうつもりだったんだがな。


朝食後、僕たちは領兵隊用宿舎に来た。


念のため、ティモシーさんとガビーも一緒だ。


まあ、本当はモリヒトだけでもいいんだけど、あれは僕の眷属なのでどうしても偏る。


というか、万一、お嬢様が負けそうになったら大旦那が出てくるだろう。


それで僕が不利になったらモリヒトが手を出すかも知れないからね。


モリヒトには試合に手を出すのは最終手段だと言いくるめる。


ティモシーさんの許可がなければ手は出すなと命令したのだ。


『分かりました。 ティモシー様に従います』


その不服そうな顔は止めてくれ。




「なんの騒ぎですか?」


眼鏡の副長さんが出て来た。


「なに、ちょっとした子供の訓練じゃよ」


えーえー、そうですとも。


 大旦那が副長と話をしている。


その間に、領兵のうち、街中の警戒のための居残り組が窓から広場を覗き込む。


お嬢様はガチガチの古い鎧装備を身に付け木剣を腰から下げていた。


怪我さえしなけりゃ良いのかも知れんが、あれじゃ動きずらいだろうに。




 兵舎の厨房に潜入している辺境伯領兵の爺さんが出て来た。


「アタト様。 なんです、これは」


「見ての通りです。 お嬢様がどうしても僕たちに相手をしてくれというので」


僕たちはまだ子供だし、間違ってお嬢様に怪我でもさせたら命が無い。


だから止めてくれる大人たちがいる前でやったほうがいいと思う。


大旦那は当てにならないからな。


「本気ですかい?」


心配そうに見る相手はお嬢様である。


「本気だけど本気じゃない」


そう返したら、老兵にため息を吐かれた。




「クン、ガビー」


僕はドワーフ二人を呼ぶ。


「は、はいっ」「うん?」


まずはこの二人にやってもらう。


二人は革の胸当てに戦闘用のブーツ、それと腕と脛を守る装備を装着。


ガビーは槌だが、クンはドワーフにしては珍しい長剣だ。


ロタ氏(いわ)く、


「この長剣は、クンの体形に合わせて短くしてあるが、盾にもなるくらいの厚みがある」


だそうだ。


かなり重いだろうに軽々と捌く姿は、さすが子供でもドワーフである。




「怪我をしたら僕が治すから心配いらん」


実際にはそうなる前にモリヒトか誰かが止めに入る。


「分かりました」


二人は頷き、左右に分かれた。


審判を老兵に任せ、僕は大旦那の傍に戻って合図を送る。


「はじめっ!」


辺境伯領の老兵の気合の入った声が響く。


「ウオオォォオオオ!」「タアァーーーーーッ!」


己をふるい立たせる雄叫びと金属の打ち合う音。


お互い防御に優れたドワーフは、真正面から撃ち合う。


ガビーの手足が長い分、優勢かな。


クンは逃げ切れないと予想する。


赤毛の少女と大旦那はじっと見入っていた。


 一人二人と兵舎から人が出て来る。


「なんだありゃ」「大人と子供でやってんのか?」


確かにガビーは人間の成人くらいの背丈はあるし、クンは僕より少し低い。


年齢も17歳と10歳だし、やっぱ大人と子供に見えるか。


しかし、今のところ戦闘自体は互角である。



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