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第三話・精霊王の客である



『精霊王様はわたくしに異世界からの客人をお守りするようにと仰いました』




「客……?」


僕は眉を寄せる。


「客ってことは、その精霊王とやらが僕を招待したということか!?」


『王』というなら身分が高い者なのだろうが、僕にそんな知り合いはいないぞ。


「何故、僕を呼んだんだ?」


『存じません』


僕は混乱して頭を抱える。


良く分からないが、精霊王という者が僕を元いた場所からここへ連れて来たのは間違いなさそうだ。


『ただこちらの都合上、人間ではなく、種族や年齢も変えさせていただいたようですね』


眷属を付けるためにエルフにし、こちらの常識をこれから学ぶということで子供にしたという。


嫌かと問われたが、嫌ではないので首を振る。


むしろ嬉し……ムニャムニャ。





 異世界というのも分からんが、僕にとって重要なのはそこじゃない。


「ここで僕は何をすれば良いのだ?」


呼んだヤツには何か意図があったのだろ。


そこを確認せねば。


『わたくしは存じませんが』


精霊は綺麗な顔を僕に近付ける。


『お好きなようになさればよろしいかと』


ニッコリ微笑むのを見て、僕はやはり見た目が良いというのは得だなと思う。


どんな胡散臭い言葉も信じてしまいそうだ。


 まあ良い。 じゃあ、僕は眷属であるコイツを利用するだけだ。


「確認だが、僕は元の場所に戻れるのか?」


『申し訳ございませんが、それはわたくしでは分かりかねます』


あ、そ。




「どうせアンタは監視役だろ」


僕は『客』という名の『観察対象』


『王』に直接頼まれたというのなら、この精霊もそこそこ遣り手なんだろうさ。


精霊は静かにただ微笑んでいる。


「じゃあ、僕をご主人様なんて持ち上げないでくれ。 僕に不敬とかは別に構わないよ」


そんなに出来た人間でもないし、甘いことを言われ続けたら調子に乗って好き勝手やらかしてしまいそうだ。


「訳が分からないままアンタたちから見捨てられるのは困る」


ダメな時は黙ってないで教えて欲しい。


だって、ここは知らない世界だ。 常識だって違うだろう。


『遠慮せず、きちんと忠告をするということですね』


眷属精霊はフムと頷く。


『なるほど。 承知いたしました』


精霊がエルフの顔で柔らかく微笑む。


ついでに「敬語は止めて友人のように接して欲しい」と言ったら、それは断られた。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



 あの日以来、僕はこの眷属精霊には会っていなかった。


今年の顔合わせの儀式も自分から辞退したので、他の子供たちからは「いないから恥ずかしいんだろう」と笑われた。


それは別にいい。 どんなに嘲られても自分はもう知っているから。


そして、ちゃんと長老に呼び出し方を習っておいて良かった。


『お待たせいたしました』


回想している間に戻って来た眷属精霊に案内され、僕は再び歩き出す。




 二日ほどで森の端に辿り着く。


森から出ると、そこには草原が広がり、その先にまた森が見えた。


『ここから先は人族の土地になります』


エルフの森は鬱蒼とした原生林だが人族の森はちゃんと手入れされている。


かなり離れていてもそれが分かる程度にはエルフの目は優秀だ。


 眷属精霊の話では、エルフ族と人族の間には多少の交流はあるらしい。


だが、エルフたちが人里には滅多に行かないように、人間たちもあまりエルフの森には近寄らないという。


まあ、あんな不遜なエルフ連中とは付き合わないほうがいい。


僕も助かる。




 そこから東に移動すると波の音が聞こえ始めた。  


「海か」


岬、といってもデコボコした海岸に突き出した地形の一部。


その岬の先端、波が押し寄せる岩場の小高い場所にポツンと一つだけ建物がある。


「あそこに住むのか?」


『はい。 アタト様さえよろしければ』


と、眷属精霊は頷いた。


『ここならエルフ族は来ませんよ』と眷属精霊が自信満々で微笑む。


ヤツらは樹木が無い場所は苦手だそうだ。


そうだな、屋根さえあれば何とかなるか。


とりあえず何でもやってみなきゃ反省も後悔も出来やしない。




 しかし、建物の中に入った僕は唖然とする。


「……穴だらけじゃねえか」


屋根は何とかなりそうが、崩れた壁は風避けにもならない。


「これじゃ眠れないぞ」


僕が唸っていたら眷属精霊に手招きされた。


『お部屋はこちらです』


え、ここじゃないのか。


 ついていくと、床の中央部、瓦礫の影に地下への階段があった。


『ご安心ください。 ここには結界で蓋をいたしますので』


階段口から入る雨や海水、それと波の音まで遮断してくれる結界があるそうだ。


「へぇ」


やはり精霊の魔法ってのは便利だな。


 地下へ進むと廊下があり、扉の無い小部屋が三つほどある。


元々は倉庫かな。 木箱や布袋などが散乱していた。


一番マシそうな部屋を選んで鞄を降ろす。


『ここを少し改装いたしますが、よろしいでしょうか?』


「そうだな。 僕も手伝おう」


片付けくらいなら僕でも出来る。


『いえ、わたくしにお任せください。


そうですね。 アタト様はこの塔の周りを調べて来ていただけませんか?』


ニコリと微笑む眷属。


「あ、うん。 分かった」


僕は鈍臭いからな。




 戦力外通告され重い足取りで地上へ戻った。


今日は風が強いのか、波の音が激しく聞こえる。


塔の内部を見渡す。


上に昇る螺旋階段はあるにはあるが、あちこち崩れていて登れそうにない。


 僕は建物から外に出て海へと向かう。


目の前には青黒い海面と打ち寄せる白い高波。


エルフになってから初めて見る海だ。


何せ、今まで森から出たことが一度もなかったからな。




 実を言えば村を出てからずっと不安だった。


僕は、この世界で一人でやっていけるんだろうか。


確かに七十年生きた記憶はあるが、僕自身が何をしていたのかハッキリとは思い出せていない。


……やっぱり、惚けたんだろうか。


だが、海を見て少しホッとしている。


以前見た記憶と現実との合致、これは幻ではない。


 考え事をしながらボーッとしていたら、陽が落ち切る前に眷属精霊が呼びに来たので建物に戻る。


『海はお好きですか?』


何気ない言葉に僕は「ああ」と短く返した。



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― 新着の感想 ―
1話(村追放直前)で前世人格(記憶)を思い出した描写で、2話〜3話の過去回想で既に転生を認識している状態の話に見えます。すごい違和感。(本来の意図は他人と見た目が違うって話をしてる?)
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