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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百九十三話・領主の後継者の選択


 剣を振りたくてウズウズしている少女に準備運動を叩き込む。


「ハッハッ、じゅ、んびっ、も、たい、へん」 


階段の上り下りは短時間でも息が上がる。


「本当の戦いなら、こんな悠長なことはしてられませんがね」


僕はもう慣れたので、まだ息は上がらない。


最後に一番上から回転捻り付きで飛び降りた。




「やっぱりエルフは身が軽いですねー」


ドワーフの少年は休憩で地面に座り、汗を拭きながら羨まし気に言う。


「僕としてはドワーフの頑丈さが羨ましいけどな」


モリヒトが人数分の水筒を差し出す。


「エルフ?、ドワーフ?」


狼狽うろたえる少女。


水筒を受け取りながら少年が答える。


「そうだよ。 知らなかったの?」


あのな、少年。 普通は見ただけじゃ分からないと思うよ。


特に子供の間は人族の子供とそんなに体格は変わらない。


僕は今、人間に見えるように擬態してるしね。




 水筒の中はあっさりとした薄めの果実汁だった。


これ、美味い。


『この館の侍女の方が用意してくださいました』


モリヒトが離れた場所でこちらを見ている高齢の侍女に目を向けた。


あの侍女が作ったようだ。


少女を見ている目が優しい。


きっと、王都から彼女について来た侍女なんだろうな。




「おや、もう仲良くなったのかね」


大旦那が顔を出す。


「領主様、おはようございます」


ピシッと背筋を伸ばして挨拶する少女につられて、僕らも礼を取る。


「ハハハ、そんなに固くならずに続けたまえ」


「いえ。 ちょうど終わったところです」


赤毛の少女とドワーフの少年が「もう終わり?」と、少し不服そうな顔をして僕を見る。


僕は大旦那の前で仲の良い姿を見せる気はない。


なんか勘違いされそうで嫌だ。




 朝食は各自の部屋で取ることになっていた。


部屋に戻るとすでに部屋担当が待っていて、朝食の配膳を始める。


「あの」


僕は執事風の中年男性に声を掛けた。


「すみません。 食後のお茶をこの部屋で僕の同行者だけで取りますが、構いませんか」


「はい、問題ございません。 ご用意いたします」


「よろしくお願いします」


彼が出て行くと、モリヒトは他の部屋へ伝えに行ってくれた。


 ゆっくり食べていたら、食事が終わった者から集まって来る。


「おー、さすがアタトくんの部屋は広いなー」


そう言うヨシローに替わってやっても良いと言ったら遠慮された。


広過ぎて落ち着かないんだよ。




「えー、僕はご領主に頼み事をされてしまって数日滞在予定になりました」


たぶん断っても、また土下座とかされそうなんで、それは阻止したい。


気になることもあるしね。


「それで皆の予定も聞きたいんだけど」


皆、お互いに顔を見合わせる。


「この街で何か気になることでもあるのかね」


辺境伯領兵の老人はさすがに鋭い。


「はい。 実はご領主は後継問題で悩んでおられまして」


子供の僕に見極めなんぞを頼んで来た。


「前の領主はお孫さんでしたね」


ティモシーさんが顎に手を当て、記憶を辿る。


「はい。 先日、お世話になった時は今のご領主の孫である若者が継いでいました。 しかし問題を起こして謹慎、爵位剥奪。 現在は領兵として詰所で生活しているそうです」




 ドワーフの少年が首を傾げる。


「じゃあ、今朝会った女の子は誰?」


「王都の外戚から預かっているらしい。 将来はこの領地を継ぐために修行中というところかな」


ドワーフは男性上位の考えが強いため、女性が領主になること自体が理解出来ないようだ。


「次期領主候補ということか」


ヨシローの言葉に頷く。


婚約者であるケイトリン嬢と同じだね。


「ご領主は高齢なので、彼女が成人する2年後には発表したいと考えている」


そこで、だ。


「僕は皆にも考えてもらいたい。 この領地の後継者に相応しいのは誰かを」


「え?」「はあ?」「無茶言うな」


僕ひとりじゃ無理なんだよ。




 ティモシーさんがじっと僕を見て、口を開く。


「問題を起こすとしたら、その孫かな」


「なるほどな。 ではワシはそちらを調べようかの」


僕は、元老兵を領兵詰所に入り込めるように手配することにした。


アレが領兵たちを煽って何か企んでいないか。


いや、孫を煽っている誰かがいるのではないか。


調べてもらう。


「おれたちは街の噂を集めよう。 孫のこと、その女の子のことを領民がどれだけ知っているか」


僕はロタ氏の提案に頷く。


「私も教会側の立場から次期領主問題をどう考えているのかを調べます」


ティモシーさんと教会警備隊の若者が請け負ってくれた。




「んで、ガビー」


「はいっ!」


何故か元気に立ち上がる。


「あの少女は王都からこの領地に来て、まだ日が浅い」


少なくとも、以前僕たちが立ち寄った2ヶ月前は居なかった。


「友達がいないらしいから仲良くしてやってくれ」


「はい、勿論です」


子供だし、女の子だし、ガビーなら嫌がらないだろう。


戦闘訓練の相手も出来るし。


「そっちの少年もな」


「うん、それはいいけど。 アタトさん、そろそろ名前覚えてもらっていいすか」


ドワーフの少年が不満顔で言う。


「あー、すまん。 あまりたくさん覚えられないんだ。 なんて呼べばいい?」


「ドクンです」


「分かった。 クンだな」


皆に微妙な顔されたけど、良いだろ別に。


「はあ、アタトさんならいいですよー」




 さて、朝食後のお茶会は解散。


僕は領主家の家令に大旦那への面会を頼む。


「旦那様から、アタト様であればいつでもご案内するように申しつかっております」


ということで、すぐに案内された。


 領主用の執務室に通される。


重厚な事務机で書類の山に囲まれ、悪戦苦闘している脳筋爺。


優秀な文官を雇えよ。


「おお、エルフ殿。 今朝は邪魔をしてすまんかったな」


いや、別に邪魔ではないが。


執務室内の応接用のテーブルに移動する。


「それで、どうだったかな。 あの子は」


「申し訳ありませんが、特に何も印象はございません」


勝手に僕が「こう思っている」などと下手な先入観を与えたくない。


「大旦那様にお願いがございまして」


滞在許可と、同行者たちの館への自由な出入りをお願いした。


勿論、許可されたが、皆には常識の範囲内で行動するように頼んだ。



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