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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百八十話・領主の立場と食材


 しばらくして、モリヒトと共にドワーフ娘たちが戻って来た。


何故か揃って僕の部屋の隅に並ぶ。


「やあ、お疲れ様。 子供の世話は大変だったかな」


「は、はい。 いえ、あのー、今日は無事に終わったんですが、そのー」


ガビーが目を逸らす。


「何かあったのか?」


「い、いえ、そのお」


ハッキリしないのでスーに目で訊ねる。


「ああ。 アタト様に2日間って言われてたのに、今日で終わっちゃったのよ」


皆、楽しかったらしく、次から次と作業が進み、思ったより早く終わってしまった。


「それなら気にしなくていい。 こっちの用事も無事に終わったからな。 予定より早く、明日にはここを立つ」


怒られると心配していた三人娘は、顔を見合わせて喜ぶ。


「ホントにすみませんでした」


ガビーは改めて頭を下げる。 真面目だな。


「でも、アリーヤさんのお嬢さんたちも手先が器用で、小物は本当に上手く出来てましたよ」


それは良かった。


上のお嬢ちゃんが母親似でしっかり者らしく、ガビーもつい色々と力が入ってしまったみたいだ。


「下のお嬢さんがまだ魔力に触れないって言うから、素材は全て魔力の無いもので代用したの。 あれなら売り物になりそうだったわ」


何故かスーはドヤ顔である。


「報告ありがとう。 こちらが上手くいったのも皆のお蔭だ」


僕は礼を言う。


「それじゃ、ロタさんにも出発を伝えて、朝までに準備を終わらせてくれ。 僕はこれから領主館に行って来る」


ドワーフ街に知らせに行ってもらいたいと頼む。


「分かりました!」


ガビーが元気に答え、宿を飛び出して行った。




 陽が沈み、街が薄暗くなり始める頃、オーブリーさんが迎えに来る。


馬車に乗せられ領主館へ。


「何の話か、俺も聞いてなくてな」


オーブリーさんは今夜は貴族らしい服装だ。


僕も今夜は仕立て師の爺さん作の上品な服装にした。


モリヒトは僕に似せた服に黒メガネである。




 家令が出迎え、奥の客用の食堂へ案内された。


前回、招待された晩餐会と違い、本当に内輪だけの小ぢんまりとした食事会。


領主一家は夫婦に子供が3人。


僕とモリヒトに、同行をお願いしたオーブリーさんの8人だ。


 領主はオーブリーさんよりかなり年上で、体格は細っそりとしていて痩せた頬が苦労性ぽい。


「アタトくん、もう辺境地に帰るそうだね。 この街の居心地はどうだったかな?」


「良い街ですね、辺境地の次に」


「アッハッハッハ」


子供なんだから話し下手は大目に見てくれ。


当たり障りのない会話をしながら、緊張で味の分からない夕食を頂く。


これも付き合いだ、仕方ない。 




 食後のお茶は別室に移動。


夫人と子供たちは下がり、男性たちだけになる。


使用人も人払いして、家令と最低限の護衛だけが残った。


ゆったりとしたソファを勧められ、低いテーブルを挟んで向かい合わせに座る。


オーブリーさんが左隣の一人用の椅子に座っていた。


「実はだね。 アリーヤの実家である食料品の卸店から国外の店と取引したいとの申請が来ていてね」


僕は口に運んでいたカップをテーブルに戻す。


「申し訳ありません。 それは僕が注文したものです」


「やはり、そうか」


領主は眉間の皺を揉む。




「何か問題がありましたか?」


「うむ。 以前から問い合わせが来ていてな。 王宮の貴族管理部では、うちの領地が『異世界人』の好む食料を集めて、何かしようとしているのではないか、と」


おやおや、アイツらまだそんなことに拘ってるのか。


「他の領地では売上にもならない金持ちの嗜好品を定期的に、しかも大量に仕入れるとなると、また煩くなるのではないだろうかね」


僕は、取り越し苦労だと思うがな。


「こちらの領地には『異世界の記憶を持つ者』はいませんよね」


それなら問題ないのでは?。


仕入れたとして、売り先は王都のモノ好きか、辺境地にいる『異世界人』のヨシローひとりだけだ。


そんなに大金が動く訳ではない。


「今まではそうだった」


領主は大きなため息を吐いた。


「アリーヤが料理好きで食料品店の食堂で作った料理を名物として売り出す予定だそうだ」


む、あの店主は何やってんだ。




 この街の人口が増えたのは、たまにアリーヤさんの音楽会があるせいだ。


アリーヤさんはあまり街の外には出ない。


「亡くなった神官様は大変、民に人気があったそうですね」


「あ、ああ。 それが?」


「アリーヤさんの料理は『異世界人』料理ではなく、『高位神官様』のお好きな料理と聞いています」


老神官が好きだった料理が、たまたま『異世界』の料理に使う食材と被っているだけ。


「そうではないですか?」


『異世界の料理』なんて誰が知っているというのか。


「辺境地の『異世界人』も気に入ったと聞いたが?」


チッ、知ってやがる。


「だって、食材が似ているんですから、味も似るでしょう?」


あくまでも食材の問題とした。




『異世界の記憶を持つ者』を支援するのは領主の仕事だが、過度に保護したり、過度に知識の恩恵を受けることは禁止されている。


だから辺境地の町では、この料理の食材は他国から仕入れることは出来ない。


おそらく、教会や王宮から苦情が来るからだ。


『異世界人』ヨシローが辺境地の次期領主であるケイトリン嬢の婿になることでさえ、王都に呼び出され、本人の意思を確認されたからな。


 しかし、この街は違う。


「『異世界人』のいる辺境地ではなく、『高名な神官様』がいらした街だから作れる料理だと思います」


僕たちは『異世界料理』としてではなく、この街の名物料理として受け継ぐ。


僕はニコリと笑う。


「安心してください。 この街の名物は『神の声を聞いた高名な神官様』と『歌姫アリーヤさん』でしょう?」


「う、うむ。 確かにそうだな」


領主はウンウンと頷く。


「ご領主様。 僕はまだ子供ですが、エルフの商人です。 これから辺境地の町の領主様や住民のために動く予定なんです」


商売のためにも、王族や貴族管理部に目を付けられたくない。


まあ、もう遅いかも知れんが。


「末永く『神官様料理』の食材の取引をお願いします」


「分かった。 こちらこそ、よろしく頼む」



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