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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二十八話・本のある場所へ


 午後の早い時間に商品は売り切れた。


「えっ、もう無くなっちゃったの!?」


喫茶店の手伝いに行っていたヨシローがクッキーの差し入れを持ってやって来たが遅かった。


「はい、すんません」


バムくんが謝る必要はないぞ。


ヨシローは残念そうにしているが、ワルワさんの家にはちゃんと買い置きがある。


「魚醤も予約が入ったようです」


教会の警備隊から注文が入りそうだという話をすると喜んでいた。


まあ、漁師のお爺さんが生産を増やすにはもう少し時間がかかるだろうが。




 さて、暇になってしまった。


ヨシローが「町中を案内しようか」と言ってくれたが、この人混みの中を動き回るのはあまりにも疲れそうだ。


それでなくとも今は祭りの午後。


他の町から来ている客が多い時間帯だ。


「では、教会の蔵書室に案内しようか?」


と、ティモシーさんが提案してくれた。


信心深い人間が多いこの世界では、祭りでなくても教会を訪れる者は多い。


しかし、信仰とは全く関係ない蔵書室には誰も来ないそうだ。


「ぜひ、お願いします」


僕はティモシーさんの提案に乗ることにした。




「じゃあ、オラたちはここで」


バムくんとワルワさんとは広場で別れる。


「集計はやっておくよ。 次回の目安になるじゃろう」


ワルワさんにお願いしてよかった。 学者さんなので数字に強くて本当に助かる。


「ご迷惑をおかけします」


借りていた備品は、連絡すれば組合の人がすぐに引き取りに来てくれるらしい。


キューキュー


「ごめんな、タヌ子。 さすがにお前は連れて行けない場所だ」


僕は必死に甘えてくるタヌ子をバムくんに預ける。


後ろ髪をひかれつつ、タヌ子に見送られてティモシーさんと一緒に教会へと向かった。




 教会は町の中心部にある。 広場や領主館のすぐ近くだ。


「俺も教会は初めてかも」


何故かヨシローがついて来た。


「ヨシローさんは教会に保護されているのでは?」


だから教会警備隊の騎士であるティモシーさんが護衛についているのではなかったのか?。


僕が首を傾げるとティモシーさんが苦笑する。


「いや、教会は中立だよ。


周りが過度の干渉をしないように監視し、本人に不便のないよう支援しているだけだ」


「なるほど。 監視しているのは異世界人ではなく、他の住民や領主のほうということですか」


僕の言葉にティモシーさんはただ微笑んでいた。




 教会は祈りを捧げる人たちが引っ切りなしに出入りしている。


神像が祀られた部屋を横目で通り過ぎ、僕たちは奥へと進む。


人気がなくなった辺りで足音が聞こえた。


「お待ちください」


追いかけて来た年配の警備隊員に止められる。


「そちらのお二人はどなたですか」


ティモシーさんが同行していても怪しい二人組は見咎められたようだ。


 僕たちを庇うようにティモシーさんが前に出る。


「蔵書室にご案内するだけですよ。 どうせ中には司書様だけで他に人はいないでしょう?。


お二人の身元は私が保証します」


ティモシーさんが微笑んで交渉しているが、チラチラとこちらを見る先輩隊員の目は厳しい。


さすがに全身ローブ姿は怪しいか。


 僕がそっとフードを外すと、モリヒトもそれに習う。


「あのー、僕は字を読み書き出来るようになりたいだけなので」


この町には本屋が無いんだから仕方ないだろう。




 領主館でのエルフの噂は伝わっているはずだ。


僕たちがコソコソ動いているのは、領主館のような騒ぎにしたくないだけで教会に反感を持ってるわけじゃない。


「もしかしたら、エルフが見てはイケナイものでもあるのですか?」


可愛らしく小首を傾げて見せる。


嫌味ったらしくてすまん。


年配の警備隊員の目が丸くなるが、さすがに大声を上げることはなかった。


ちゃんと、フード付きの足元まであるローブで体全体を隠している理由を分かってもらえたかな。


「と、途んでもない。 失礼した」


ふう。 何とか引いてもらえたようだ。


僕とモリヒトは他の人には見られないうちにフードを被り直す。


ティモシーさんが先輩に軽く会釈をして、僕たちは先へと進んだ。




「こっちだ」


一般的に礼拝用とされる建物から中庭を抜けて、教会の実務を行うための建物に入った。


ティモシーさんによると、こちらの建物には身寄りのない子供たちを預かる施設が併設されている。


「教会付属の養護施設があって、そこの子供たちの教育に使われているんだ」


そこで使用されている勉強用の書物を集めた蔵書室らしい。


 しかし、辺境地で保護されるような子供は、ほぼ全員が養子として引き取られていく。


子供は宝であると同時に労働力だから。


働けない幼児や日中面倒を見る人がいない場合のみ臨時で預かることはあるそうだ。


お蔭で僕たちは、その子供たちが使うはずだった本を見せてもらえる。




 半地下になる入り口への短い階段を降りて行く。


扉を開くと薄暗い部屋に魔法の灯りが点り、入り口から奥へ、ぎっしりと本が詰まった書棚が並んでいた。


半地下なのは魔獣被害を考えてのことと、紙の劣化を防ぐために日光を避け、高い位置の窓から風を通しているからだという。


 管理している高齢の司書が一人、ティモシーさんから相談を受け、本を探しに書架の間に消えていく。


「静かですね」


こういう所ならずっと篭っていたい。


「また来られるように手配しておこう」


そう言って、ティモシーさんは手の平くらいの四角い豪華そうな紙を渡してきた。


教会の意匠だろうか。 何か紋章みたいなものが描かれている。


「それに魔力を込めれば登録される。 身分証みたいなモノだから町に来る時は忘れずに持って来るように」


ティモシーさんが不在でも担当司書さんがいれば入れるようにしてくれた。


「ありがとうございます、助かります」


僕はそれに自分の魔力を纏わせる。


ふふん、だいぶ上手くなった。


 司書さんが子供用の薄い本を数冊、ティモシーさんが分厚い辞書のような本を一冊、僕の前に置く。


その中から借りれるだけ借りると言ったら、全部モリヒトに渡してくれた。


『ありがとうございます』


モリヒトの笑顔が微妙に引き攣っていた。



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