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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百七十三話・墓所の祠の中


 神と精霊王の話は一旦、置いておく。


今は石棺の老神官を解放する方法を探しているのだ。


薄っすらとした明かりに浮かぶ大木の根。


焼き払ったらスッキリするだろうな。


「辺境地の墓所には、こんな木は無かったよな」


町の郊外というより、町に近い場所に墓所があった気がする。


『魔獣の森が近いせいでしょう』


わざわざ大木を用意しなくても、周りにいっぱいあるからか。


あそこなら一本ぐらい失くなっても文句は言われないだろうな。


でも、ここでは一本の大木が中心になっている。


それが失くなったら大事件だ。




 その前に、この世界の神が死者の弔いをどう考えているのか知りたい。


抜き出した『神の声』を読み返す。


多くは教会としての葬儀のやり方や遺族に対する心構えをいている。


基本的には、元の世界とあまり変わらない。


 亡くなれば、すぐ棺に入れる。


体内の魔力が循環されなくなり、周りに影響が出る前に。


教会で葬式を出すわけではなく、そのまま墓所に運ばれ埋められる。


あっさりしたもんだ。


旅先や町の外で棺が間に合わない場合は、やはり大木や草木の多い場所に埋める。


魔素溜まりが出来ないよう注意を払う必要があるからだ。


「狩りなんかだと獣の死骸は焼くのに」


『人と獣では違うということでは?』


人ならそのまま埋め、獣は焼却処分。


そんなことで差を付けるのか。




 神官の仕事は、亡くなった者の魔力を封印すること。


赤子が産まれた時に封印するのと同じ。


「封印すれば、赤子でも、ある程度は本能で制御出来る。 亡くなってしまうとそれも出来なくなるから早めに棺を用意して埋めることに決まっているようだ」


亡くなっているため暴走はしないが、周りに影響が出る恐れがある。


棺に入れるまでの魔力漏れを防ぐために速やかに封印せよ、と。




 フッとモリヒトが息を吐く。


『人族は脆いくせに厄介ですね』


「他種族は違うの?」


モリヒトは頷く。


『エルフやドワーフ族は体内魔力が多いため、生体活動が止まれば、放っておいてもしばらくすれば自然に還ります』


植物に吸収される必要もなく、そのまま体が崩れ、魔素に変換される。


「精霊は?」


モリヒトが少し呆れた顔になった。


『精霊に死という概念はありませんよ。 普段から姿を変えて見せているでしょう?。 魔力の塊なんですから』


そっか。


それなら安心だ。


『安心、ですか?』


夕食のパンとスープの皿をテーブルに置きながら、モリヒトが首を傾げる。


「モリヒトが僕のせいで死ぬ、なんてことがないってことだろ?」


僕は魔法で体の汚れを落としてからパンを手に取る。


モリヒトは、よく分からないという顔で肩をすくめた。 


人間臭い仕草をするようになったのは、もしかして僕の真似をしてるのか。


 食後は眠くなるまで続けると伝えると、モリヒトは地上の様子を見に行った。


ランプに分身を入れて置いていくのも忘れない。




 結局『神の声』と思われるものは、教会に対する指示ばかりだった。


昔から、こういった場合はこうするだとか、祈りや奉納のやり方、災害時の対処など。


まあ、勝手にやり方を簡素にしたり、教えを曲げて解釈されたくないのは分かる。


だから定期的に『神の声』として伝えているのだろう。


僕も魔宝石の件で、適当に改変するヤバさは知ってしまった。


あれは痛い。


 教会の図書室から持ち出した約20枚の紙束。


ヨシローの参考になりそうな老神官の手記と、教会の神官の心得みたいなもの。


ダメだな、参考にならない。




 この世界の神様ってのは何がしたいんだろう?。


僕は精霊王に客として呼ばれたらしいけど、神様は無関係なのかね。


すぐに死んでは困るからと最強の眷属精霊を付けられ、長命種であるエルフとして産まれたのは良いのか悪いのか。


「長生きして、何をすればいいのやら」


元の世界の記憶では70歳という、まずまず長い人生を送った。


今さら他の世界で子供からやり直すとは思わなかったが。


「僕は前の世界で何かやり残したのかも知れないな」


だから素直に死ねなかった。


そんな気がしている。




 モリヒトの分身が入っているランプがカタカタと揺れた。


客が来たようだ。


街はとっくに寝静まる時刻。


僕に何の用かな。


 階段を降りてくる足音は二つ。


『アタト様。 オーブリー様がお話があるそうです』


僕は読んでいた紙から顔を上げる。


「こんばんは、オーブリー隊長」


そう呼ばなくてはならないほど、彼はしっかりとした騎士服に身を包んでいた。


「やあ、アタトくん。 お邪魔するよ」


モリヒトが土魔法で簡単なテーブルと椅子を作り出す。


「よくここが分かりましたね」


モリヒトはミルクを入れた甘い紅茶を出す。


眠気を誘って早く終わらせろって?。


それは相手次第じゃないかな。


「馬車の御者というのは案外噂好きが多くてね。 変わった場所に変わった者を運んだりすると、ペラペラと喋りたくなるものらしいよ」


ほお。 それでわざわざ。




 オーブリーさんに椅子を勧め、座ってもらう。


「僕はただ図書室で手に入れた資料を、誰にも邪魔されずに読みたいだけなんですが」


「馬鹿言うな。 こんな時間にエルフが居ていい場所じゃない」


僕はコテンと首を傾けてオーブリーさんを見る。


「だって、この資料。 亡くなった神官さんの手書きなんですよ。 読んだことあります?」


「ああ、見たことはある。 あまりにも上手すぎて読めないやつだろ」


あはは、なんて楽しい表現だろう。


あー、この人、貴族家の三男坊だったっけ。


遠回しな皮肉表現は慣れてらっしゃる。


「僕は図書室で書き写してる間に、読めてしまったんですよ。 老神官の本当の言葉が」


「受付の司書が持っていたアレか。 確かに、王宮に知られたら拙いかもな」


だから一人で作業したいんだと分かってくれ。




 オーブリーさんは「うーむ」と唸る。


知ってしまったからには教会警備隊隊長としても、領主一族としても放っておけないということか。

 

「じゃ、俺も付き合うぜ」


は?。


「申し訳ないが、見届けさせてもらう」


この人は……何かあったら自分が責任を取るつもりなのか。



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