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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百五十九話・次の街への移動


 その日の夜は辺境伯王都邸本館広間にて、盛大に別れの宴会が行われた。


僕やモリヒト、ティモシーさんとヨシローに加え、辺境伯領地から来た領兵や使用人たちも一緒だ。


領兵や使用人たちは僕たちとは別で、辺境伯が戻る時に領地に戻るが、今日はまとめて送別会みたいなものになる。


立食のテーブルが並び、皆、自由に食べたり飲んだりしている。


 辺境伯が僕に近付き、話し掛けてきた。


「領兵の中から何名か護衛を出します」


「ありがとうございます。 教会警備隊からもティモシーさんともう一人が同行してくれますので」


護衛に関してはティモシーさんに丸投げした。


「必要なら侍女も付けますよ」


辺境伯は色々と気を使ってくれるが、正直、いざとなったらモリヒトに飛ばしてもらうので、あまり人数が多いと邪魔になる。


「そうですね。 領兵さんから一人、御者が出来る方をお願いします」


それ以外は必要ない。


急ぐ旅ではないので最低限の人数で良いと思う。


「承知しました」


辺境伯はクロレンシア嬢の件で、まだ契約書等の書類仕事に追われている。


「公爵家の対応の方はお任せください」


僕にだけ聞こえるようにボソッと呟く。


強面こわもての辺境伯がニヤリと笑うと迫力があるな。


僕はただコクリと頷いた。




 翌朝、別棟の後始末はモリヒトに任せて、僕はヨシローと一緒に馬車に向かう。


「アタト様、よろしくな!」


御者はキランの指導担当だった老兵である。


「よろしくお願いいたします」


何故か、本館で侍女をしていた奥さんも一緒だ。


「引退したら田舎で暮らすってのが、わしらの夢だったんで」


子供や孫はもう大きいので特に問題はないそうで、夫婦で辺境地に引っ越すらしい。


6人乗りの馬車には余裕があるし、二人で御者をするというので頷いた。


「よろしくお願いします」


辺境地までの僕たちの護衛が最後の仕事になる。




 僕たちは人間に擬態し、さらにモリヒトは黒メガネ。


王都の外壁門を出るまではモリヒトも馬車に乗る。


「大変お世話になりました。 またあちらでお会いしましょう」


辺境伯と挨拶を交わし、馬車に乗り込む。


「出発!」


ティモシーさんと教会警備隊の若者が騎乗して前後に付く。


辺境伯と王都邸の使用人たちに見送られて館を出た。




 ヨシローは昨夜遅くまで荷物の点検をしていたそうで、眠そうな顔である。


「いやあ、お土産が足りないと困るからさあ」


念入りに点検していた荷物は土産物らしい。


「誰でも友達」のヨシローだからな。


大量に買い込んだらしいから、自業自得だ。


「次の街まで4日掛かります。 のんびりいきましょう」


寝ててくれたほうが静かでいい。




 外壁門を抜けても、しばらくは王都の領地内。


王都の住民を支える農地や酪農地帯が広がっている。


先日、王都に来た時は急いでいたこともあり、ゆっくり景色を見る暇がなかった。


御者席には老夫婦が座り、ヨシローはうたた寝。


モリヒトは、すでに光の玉となって周辺の見回りに出ている。


 護衛と馬車の馬の蹄の音がカポカポと耳に心地良い。


4日後に着くティモシーさんの実家のある街も、国直轄の領地であり、王都から延びる街道沿いにはそういった小さな領地が点在するそうだ。


窓から外を眺める。


風が強いので窓を開けることはしない。


「止まれー」


休憩地に到着したようだ。




 王都門から約半日の距離。


これから王都に向かう旅人は、ここで最終的に身支度を整えていく。


簡易な垣根の中には複数の団体がいた。


僕たちは短時間だけの予定だったので、入り口近くに馬車を停める。


 僕も一旦、馬車を降りて体を解す。


フワリと光の玉が馬車の中に入って行き、すぐにモリヒトが下りて来た。


『アタト様』


何か話があるようなので、僕たちは馬車に戻る。


「ヨシローさん、休憩ですよー。 お手洗いはどうしますかー」


「ふえっ、あー」


寝ぼけているヨシローを馬車から追い出す。


御者の老夫婦が休憩所の建物に連れて行ってくれた。




 モリヒトが馬車の中で盗聴避けの結界を張る。


「何かあったのか?」


『これを』


小さな封筒を渡された。


僕は魔力の気配に顔を顰める。


「老魔術師のところのエルフか」


見回り中に、あのエルフがやって来たそうだ。


『エルフの森に知り合いがいるかも知れないからと言付かりまして』


自分は無事だと伝えてほしい、ということらしい。


いや、これ、本当にそう書いてあるのか?。


「モリヒトが持っててよ」


僕は突き返す。


辺境地に戻ったら、長老の知り合いである女性エルフのネルさんにでも渡せばいい。


僕は出来るだけ関わりたくない。


『承知いたしました』


話は終わったようで、結界が解かれる。


「いやー、すごく混んでたよ」


ヨシローたちが手洗いから戻って来て、すぐに次の町へ向けて出発した。




 その後はたいした問題もなく、4日目の昼には無事にティモシーさんの実家がある街に到着。


途中の宿や食堂は全て辺境伯からの紹介で、きちんと対応してもらえた。


この街でも前回と同じ宿である。


「いらっしゃいませ、お客様。 ええ、覚えておりますよ」


宿の主人はチラチラとモリヒトを見るが、今回は黒メガネ付き。


前回のように周りに騒ぐ女性たちはいない。


少しホッとした顔になる。


「それでは私たちはここで失礼します」


ティモシーさんと警備隊の若者は教会へ顔を出しに行く。


「この間のことで文句を言われたら、無理せず来てください」


僕は教会警備隊の若者に声を掛ける。


前回、僕たちは、滅多に街から出ない歌姫アリーヤさんを連れ出した。


その件で教会から恨まれてるかも知れないんだよね。


ティモシーさんは実家に行けばいいが、下っ端の若者はそうはいかない。


チクチクと虐められるようなら宿に戻って来てもらえば良い。


「ご心配ありがとうございます」


若者はあまり気にしていないようで元気に出て行った。




 さて、明日は店に行って『ライス』の交渉だ。


他にも何か手に入るといいな。


「神様、俺はカレーライスが食べたいです……」


必死に祈ってるけど、ヨシロー、それは無理だと思うぞ。



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