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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百五十七話・王都のドワーフの娘たち


 夕方近くに、モリヒトが最後の荷を届け、空の荷馬車と共に戻って来た。


『運送を完了いたしました』


「お疲れ様」


家令さんに荷馬車の台数と送料を伝え、僕たちは別棟に引き上げる。


ようやく王都での仕事が終了だ。


「風呂に入りたいな」


ボソリと呟く。


庭ではかなりの人数と品物が動いていたため、土埃が酷くてさ。


『すぐにご用意いたします』


「すまん。 一番疲れてるのはモリヒトだろうに」


朝からずっと何回も移動を繰り返してくれた。


魔力は問題ないだろうが、ほら、精神的にさ。


『いえ。 アタト様がそう仰ってくださるだけで報われます』


うーん、なんか揶揄からかわれてる気がする。


まあいい。


「とにかく、お疲れ様。 今夜はゆっくり飲みなよ」


『ありがとうございます』


酒好きのモリヒトは機嫌良さげに頷いた。




 僕が風呂に入ってのんびりしている間、一階の厨房付き食堂で夕食の準備が始まる。


キランと護衛メイドが辺境地に行ってしまったので、料理はモリヒトが、配膳はガビーとヨシローが手伝っていた。


呼ばれて食堂に行くと、職人兄妹とティモシーさん、スーとロタ氏が座っている。


「一応、教会納品分は終わりました!」


兄職人が報告してくれる。


「お疲れ様でした。 皆、ありがとう。 助かったよ」


モリヒトの料理の他にも、辺境伯から労いのための料理や酒が届いていた。


「今夜はゆっくり食べて飲んでください」


ご苦労様ということで打ち上げを兼ねる。


「わあ、美味しそう!」


スーと職人妹がさっそく手を伸ばした。




 ヨシローとティモシーさん以外は明日の朝、工房街に戻る。


「騒ぎのほうは収まっていますから、ご安心を。 何かあれば教会に相談に来てください」


ティモシーさんが職人兄妹に話している。


兄妹は料理を口に押し込みながら何度も頷いた。


「明日、教会に納めに行くなら、おれも一緒に行くが」


ロタ氏がそう言うので、僕は感謝して頷く。


「はい、お願いします。 今後の相談もありますので」


ヤマ神官に話したいこともある。


 賑やかな食事が進み、やがてヨシローと職人兄妹が酔い潰れた。


ヨシローはティモシーさんが部屋へ放り込み、モリヒトは職人兄妹を兵舎の部屋へ送って行った。


モリヒトは、今夜は一人で飲むらしく、そのまま戻って来ない。


屋根とか、庭の草木のあるところで飲んでいるのだろう。


王都の精霊たちとも別れが近い。




 僕はドワーフたちと一緒に2階の客用居間に移り、チビチビと果実酒を舐めている。


普通に強い酒も飲めるけど、八歳の子供には似合わないし、周りに気を使わせたくないんでね。


「ガビー、飲んでる?」


「は、はいっ」


なんだか元気のないガビーに声を掛ける。


王都の酒は上品なものが多くてドワーフたちには少し物足りないかな。


まあ、ガビーはドワーフらしくないドワーフなので酒はあんまり強くないけど。


「あ、あの、アタト様は明日、王都を出るんですか?」


「うん?。 まだ決まってないよ」


連れに女性がいなくなったので、出発準備はすぐに終わりそうだけどな。


ああ、ガビーは僕たちと一緒に行きたがってたんだったな。


6人乗りでも馬車は密室だから、僕たち男性ばかりの中に女性一人はキツイと思うんだ。


気心が知れた相手ばかりでも、そこはハッキリ分けたほうがいい。




「それなんだが」


ガビーの隣に座っていたロタ氏が僕に話し掛けてきた。


「確か、帰りはどこかの街に寄るんだよな」


「ええ。 アリーヤさんのご実家に寄ります」


ウンウンと頷き、ロタ氏が話し続ける。


「おれは一旦、ドワーフ街にもどる。 行商人としての仕事があるからな」


それは知ってる。


「実は、何人か女性のドワーフたちがお嬢とスーを見て働きたいと言い出してな。 一緒に辺境地に行くことになりそうなんだ」


へえ、それは初耳だ。


確か、王都にいるドワーフは男性ばかりだと聞いていた。


スーとガビーも驚いている。




 僕は訊ねる。


「でも、ドワーフの娘さんたちの親には反対されるでしょ?」


辺境地のドワーフ地下街では、女性たちが外で働くことはかなり嫌悪されていた。


スーは家族と大喧嘩、ガビーは父親の工房で働いてはいたが一人前扱いされなかった。


女性だというだけで。


「王都のドワーフの男性たちは日頃から働く人族の女性たちをたくさん見ているせいか、そこまで否定的じゃない」


辺境地とは人数が桁違いだからな。


「じゃあ、ドワーフの女性でも王都なら働く場所はありそうですよね」


人族の女性たちと一緒に働けばいいと思う。


わざわざ辺境地に行く必要はない。


「ふん、辺境地にしかない物があるだろ」


あー、アレか。


そんなに魅力的な素材なんだ。




 ロタ氏の話では、手先が器用で家族の理解もある女性ドワーフを預かることになりそうだという。


「それと、ドワーフの行商人見習いが御者代わりについて来る。 これは前からの約束でな。 王都に着いたら連れて行くと約束していたんじゃ」


「それは構いませんが」


「スーとガビーと新人を連れて、のんびりと行商なんぞ出来ん。 途中からでも良ければ、おれたちもアタト様と同行させてもらえんだろうか」


僕たちが先に出発し、途中の街で泊まっている間に追いつくそうだ。


「護衛は教会から一人同行する予定だ」


辺境地からティモシーさんと一緒に来た若者が、王都には飽きたと帰りたがっているそうだ。


王都には魔獣がいないから物足りないんだろう。


6人乗りの馬車にドワーフの荷馬車、騎馬の護衛か。


うーむ。


「分かりました。 明日、借りられる荷馬車を確認したら、そのまま預かって行きましょう」


いつでも出発出来るように。




 翌朝、二日酔いの職人兄妹を連れて、ロタ氏と共に教会に向かう。


ヨシローはティモシーさんの監督の下で文字の勉強である。

 

 無事に納品。


ヤマ神官が僕を見てニタリと笑う。


「そういえば、先日、面白い子供が来ましてね」


その子供は首から下げた『御守り』を見せた。


「これ見せたら食べ物がもらえると聞いた」と言って。


「へえ、賢い子供ですねー」


「ええ。 教育しがいがありそうです」


無事、保護されたようだ。



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