第二百五十三話・代官の選定と将来
「最近はエルフまで味方に付けているそうだな」
ウエッ、僕まで出てきた。
「兄上様。 あれは人間の力でどうこう出来る相手ではありません」
「国宝級の贈り物までされているそうではないか」
「それはー」
エンデリゲン王子は言葉が出ない。
どうせ何を言っても分かって貰えないと諦めたのかな。
僕はチラリと侍従長の顔を見る。
国王と同じくらいの年齢で、見た目はごく普通の暗い茶髪の男性だ。
「これ、僕が出てって説明しましょうか?」
と言ったら、首を横に振られた。
あ、ダメ。 余計、ややこしくなる?。
はあ、そうですか。
僕は大人しく座っていたほうが良さそうだ。
やがて、国王の裁定が下りた。
「分かった。 では、こうしよう」
ガサガサと紙の音がする。
「ある領地で税の未納が続いたため、貴族家の取り潰しがあった。 以降は国の直轄地となるため代官が必要だ」
そこで少し間が開いたのは、それぞれが確認しているんだろう。
先ほどの音は紙の地図でも広げたか。
「父上。 貴族管理部として、代官には誰を派遣すれば良いと思われますかな」
国王が爺様に訊いてるようだ。
「ふむ。 確か、何もしない領主のせいで碌な産業もなく、農地も荒れ放題。 魔獣被害もあり、民も逃げ出したと聞くが」
「はい。 王都から馬車で片道約15日。 領地は広めですが海と山が近く、農地はほぼありません。 父上なら誰を代官に任命いたしますか?」
代官?。 領主ではないのか。
僕が首を傾げていると、後ろから声が聞こえた。
「この国では、代官は領主と同じ権限があります」
領主は貴族でないとなれないが、代官なら文官や武官の中から優秀な者や、裕福な商人などの平民でもなれる役職らしい。
「手腕が認められれば叙爵、領主になることもございます」
侍従長が教えてくれた。
「かなり大変なお仕事みたいですね」
「はい。 国王からの直々の任命ですから、平民出の代官では失敗すれば、すぐに処刑されます」
げっ、異世界コワイ。
「アタト様なら出来ると思いますが、依頼があれば受けられますか?」
え?、絶対嫌だけど。
「お断りします」
この侍従長さんって初対面のはずなんだけど、どうして僕にそんなことを訊くのかな。
爺様の声がする。
「エンデリゲンよ。 おぬし、やらぬか?」
不毛な土地を領地として与えて、実質的に王宮から放り出すことになる。
「そうですね。 今まで散々『奇行』をやらかしておりますからな。 これくらいの罰が丁度良いでしょう」
国王も了承したようだ。
「……畏まりました。 謹んで、代官の職を拝命いたします」
エンデリゲン王子は承諾する。
おそらく、いつかはこうなると予想していたのだろう。
「将来、領地の繁栄が確認出来れば、正式な領主と認めよう。 それまで、お前の監督者は隣領の辺境伯だ。 よく学びなさい」
「えっ」
狼狽えるエンデリゲン王子の声が聞こえた。
「お前も、それで良いな」
「ええ。 王族が代官とは。 平民と同じ扱いですか」
フフンッと王太子が鼻で笑った。
それには誰も反応しない。
「それと、この際だから言っておくが」
国王の声が不機嫌そうに低くなる。
「我は今後、王族に正妃以外の婚姻は認めぬ」
何らかの理由で正妃以外の女性を囲う場合は、正妃に許可を取った上で愛妾とし、その子供は王族には加えない。
後継がいない場合のみ、その子供を養子とする。
「は?。 何故ですか、父上」
今までは慣例として、正妃の他に様々な理由で側妃を当てがわれてきた。
それが当たり前だった。
「今の王宮には、もうこれ以上、王族を養う力がないのだ。 エンデリゲンを王宮から出すのも、王太子であるお前に側妃を認めないのも、民の負担を減らすためだ」
「民のため」と言われてしまえば、王族としては反論出来ない。
王太子は「しかし、それは」と食い下がるが、エンデリゲン王子が代官を引き受けた以上、彼も引き下がるしかない。
最終的には了承して部屋を出て行った。
僕は侍従長に促されて隣の部屋に入る。
「お疲れ様でした」
まだ少しボーっとしているエンデリゲン王子の隣に座らされる。
テーブルの上に広げられていた地図に気付き、覗き込んだ。
「ここが辺境伯領ですね。 その隣り、これが新しく殿下が赴任される領地ですか」
地図の上を指でなぞり、場所を確認する。
あー、ここってケイトリン嬢を取り込もうとして失敗したバカ息子の領地じゃないか。
確か、ここは漁港があって、魔魚じゃない普通の魚が獲れる。
魚醤作りも盛んなんだよな。
辺境伯領と辺境伯夫人の実家がある領地とも隣接する領地だ。
援助の条件もそんなに悪くない。
「御父上、御祖父様、このような配慮を頂き、感謝いたします」
「なに。 お前の力が見たいだけだ。 領地が豊かになるまで母親は預かっておく。 早く迎えに来てやれ」
「はい」
王子の目から涙が溢れた。
「ホッホッホ、泣いておる場合ではないぞ。 おぬしが以前から申し出ていた、魔獣やエルフ族を監視する役目をしてもらうことになるのじゃからの」
「は、はいっ!。 しっかりと励みます」
なかなか良い家族だな。
僕はほっこりした気分になった。
「では、クロレンシアは辺境伯家の騎士団に?」
王子の確認に国王が頷く。
「そうなるな」
父親の公爵が認めればだけど。
ここに関しては国王からの命令とはいかない。
王太子との縁談がなくなれば、今度は他に有力な貴族や豪商からの話に乗る可能性もある。
「クロレンシア嬢なら、いっそ独り身を通すと言い出しそうです」
王子は幼い頃からの付き合いなので、クロレンシア嬢の気質はよく知っている。
「それを待っているのかも知れぬな」
娘がいくつになろうと手放したくない。
親バカというか、子離れ出来ない父親。
「エンデリゲン。 アレを説得出来るのか?」
王子はしばらく考えていた。
王命とするのは簡単だが、公爵の心象は悪くなる。
教会と高位貴族との摩擦を解消したい王子としては好ましくない。
王子は僕の顔を見た。
「アタトは、私とクロレンシア嬢はお似合いだと思ってくれたんだよな」
はあ、それがなにか?。




