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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二十五話・領主の願いを聞く


 領主館の表玄関に馬車が停まる。


今回は正式な客らしい。


僕もエルフとして呼ばれたので耳は隠していない。


「ようこそ、いらっしゃいませ。 先日は大変失礼をいたしました」


家令のお爺さんがきっちりとした礼を取る。


『いえ、先日の件は我が主人の我が儘でございます。


こちらこそ、不敬を働き申し訳ございませんでした』


と、モリヒトが対応してくれる。


口調が柔らかいから、今日は機嫌が良いみたいだ。


 ヨシローが僕をチラチラ見て「あれは良いのか」と目配せしている。


子供だからねー、我が儘って言われても致し方ない。




 家令の後ろを僕とモリヒトが並んで歩く。


僕たちの後ろにワルワさんとヨシロー、最後に騎士服姿のティモシーさんだ。


タヌ子は僕の腕の中で少し緊張している。


フワフワな尻尾が心なしか強張っている気がした。


 階段を上がり、二階にある部屋に通される。


田舎にしてはかなり豪華な作りになっていた。


「本日は我が館にようこそ」


ニコニコと微笑むご領主とケイトリン嬢が僕たちを待ち受けていた。


「僕はアタトです。 これはモリヒト。 お呼びと伺い参上いたしました」


僕は簡単に名前を告げ、会釈程度にヒョコと礼を取る。




 領主親子が並んで座り、その向かい側のソファに僕を挟んでヨシローとワルワさんが座った。


僕たちの後ろにモリヒトが立ち、ティモシーさんは入り口の扉の近くに立っている。


 すぐにメイド服の若い女性たちがお茶とお菓子を配り始めた。


彼女たちはモリヒトを一目見て顔を赤らめ、いそいそと嬉しそうに給仕を終えると退室時は残念そうにしていた。


顔か、顔だけで良いのか。


言っておくが、お嬢さん方、コイツはこの中で一番ぶっそうなヤツだぞ。


僕は心の中で呟いた。




 空気を和ませるようにケイトリン嬢が微笑む。


「どうぞ、召し上がって下さいませ」


本当にこのお嬢さんは真っ正直というか、多少見栄えは良いが素直な女性だ。


領主の娘にはあまり向かない性質だな。


「ありがとうございます、頂きます」


僕が子供らしく素直に手を伸ばすと、ご領主がホッとしているのが分かる。


この人も腹芸は苦手そうだ。


 ワルワさんによると、この人は領主といっても領地はこの町一つだけ。


この町も含めた土地を治める辺境伯というのが、まだ上にいる。


つまり、ここは辺境伯の領地だが、飛び地になっている。 そのため、その人に頼まれて管理をしているそうだ。


ただ、辺境伯自身は領都が遠いため、あまりこちらには来ないらしい。




 まずは全員がお茶に口を付けたことを確認し、僕は先日の非礼を詫びた。


ご領主は首を横に振る。


「いや、当方の落ち度もあったのだから、その件に関してはお互いに不問としたい」


「いいよね?」という顔でこっちを窺うのは止めて。


「こちらとしては助かります」


僕はそう応えるしかない。


「ところで、何か彼に用があったのかね?」


ワルワさんはご領主とは知り合いらしい。


「うむ。 用事というよりエルフの方々がこの町に来た理由が知りたいのだが、教えてもらえないだろうか」


僕は後ろを振り向き、モリヒトに返答を任せるため、お菓子を口に入れた。


僕は喋らないよ、という意思表示である。


モリヒトは一瞬、嫌そうな顔をしたけど『代わりにわたくしが』と話し出す。




 まず、自分は眷属精霊でエルフではないこと。


主人である僕がエルフの村を出て自活するため、人族の町で物品の売り買いをしようとしていたことを話していく。


『こちらの幼獣を助けたことをきっかけに、ワルワ様とご縁が出来まして』


僕はこれ見よがしにタヌ子を撫でる。


『現在、ワルワ様と程良く取引が出来ております』


暗にこれ以上は望まないということを示しておく。


「俺もアタトくんとは友達になれたしね」


ヨシローはニコニコ顔で僕と同じようにお菓子を摘んでいる。


「なるほど、そうでしたか」


何で、このご領主は子供相手にここまで下に出るのか。


まあ、彼の立場は、辺境伯と町の住民との板挟みの中間管理職みたいなものだ。


先日の失敗もあるし、何か目星しい功績が欲しいところなんだろう。




「ところで、えっと、アタトくんだったかな」


さて、やっと本題に入るようだ。


「もうすぐ、この町で祭りがあるのだが、ぜひ参加して楽しんでもらいたい」


出来れば長く、友好的なお付き合いをお願いしたいということである。


「出店も許可しよう。


特別扱いではないよ。 ちゃんと品物と書類は確認させてもらったからね」


僕はチラリとティモシーさんに視線を送る。


涼しそうな顔で片目を閉じて微笑む。


ウィンクってこの世界でもあるんだな。


ただし、イケメンに限る。




「お祭りの件は承知いたしました。 出店のほうは改めて考えさせていただきます」


僕が大人びた答えをしたせいで、ご領主がポカンとした。


「改めてって、何かあるの?」


ヨシローが隣から口を挟む。


「僕やモリヒトが売り子なんてしたら騒ぎになるでしょ。 誰か雇おうかなって」


「ああ、そうだね。 この町には仕事斡旋所があるから、そこで訊ねるといいよ」


「はい、そうします」


今度はちゃんと子供らしく笑って答える。


『ところで、お祭りというのはいつなんでしょうか?』


モリヒトが訊ねる。


「明日ですわ」


ケイトリン嬢があっけらかんと言った。




 待て待て、明日?。


僕とモリヒトが驚いていたら、ご領主が眉を寄せた。


「そのために今日来たのだと思ったのだが」


『……いえ、全くの偶然です』


僕はウンウンと首を縦に振る。


確か先日、申請のために館を訪れた際、祭りが近いから混んでいると聞いた記憶はある。


だけど、それが明日とは思わなかった。


「出店といっても簡単なテントとか敷物で、市場の隅にお邪魔するつもりでしたから」


僕が顔を顰めているとヨシローは、


「それで良いんだよ。 田舎の祭りだもん」


と、何でもなさそうに言う。


「そうじゃよ、アタトくん。 いつもの人出に町の外からの人が多少増える程度じゃ」


ワルワさんも問題無いと後押しするが、この世界に慣れない僕には、それだけでも予想外過ぎる。


僕はため息を吐いた。



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