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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第二百四十九話・今後の二人の行く末は


「貴方はエルフ族をみくびっておられる」


僕は手元の本を開く。


「エルフはそんなに弱い種族じゃありません」


開いたページはエルフ族の項目。


「エルフ族は人族より遥か昔から生きてきた種族です。 人族を手玉に取るくらい簡単に出来ます」


我が儘で傲慢、魔力では敵わないと表記されている。


「しかし、彼女はー」


「はあ、爺さん。 アンタ、あのエルフに遊ばれてるんだよ」


グダグダ言う老魔術師に、僕ははっきり言ってやる。


「エルフ族ってね。 アンタたちが思っているよりずっと性格悪いからな」


王宮の地下に居た時は確かに弱っていたかも知れない。


だけど、これだけ魔力が溢れた結界の中で大切にされているエルフが、自分の好きな場所に行けないはずがない。


「その気になれば、彼女は眷属精霊だって探しに行けるし、同じエルフ族も見つけられるはずです」


そうしないのは、たぶん理由がある。


 それは自分で確かめてもらうしかないので、僕はそれ以上、二人の問題に口を出す気はない。


気まずくなったのか、老魔術師は「失礼する」と部屋を出て行った。




 翌朝、まだ早い時間。


僕にとってはいつもの時間に目が覚める。


書庫の中に野営用の寝床を敷いていたが、誰かの足音の振動で起き上がった。


「おはようございます、アタト様」


老魔術師だった。


やはり年寄りは朝が早いな。


「おはようございます」


彼は手に紙束を持っていた。


「ダークエルフ族の資料です。 ワタシの部屋にありました」


そう言って手渡される。


「そうでしたか。 ありがとうございます」


僕はありがたく受け取る。 これでもう用は無い。


「お世話になりました」


と、礼を取る。


干し魚を土産に渡し、辺境伯邸に帰ると告げた。




 老魔術師は朝食を勧めてくれたが、僕は丁重に断る。


「アタト様。 何かございましたら、またご連絡ください」


諦めた老魔術師は深く礼を取った。


「ありがとうございます。 では」


支度を済ませ、結界の外へ向かって歩き出す。


見送りについて来た老魔術師は「最後に一言だけ」と付け加えた。


「ワタシがこの世を去りましたら、どうか、あの子を仲間に加えてやってください」


アレを僕に面倒を見させる気か。


「それは彼女次第だと思いますが。 まあ、僕を頼って来ることがあれば考えます」


僕はエルフには嫌われてる。


それに、あの女性エルフは、きっとそれを望んでいない。




 老魔術師の結界から出る。


「ふう」


胡散臭い裏路地。 朝早いせいか、人影は少ない。


ゴロゴロ転がってる酔っぱらいはいるが無視。


「市場で腹ごしらえするか」


『はい』


ブラブラと歩いて市場に着く頃にはすっかり朝食の時間になっていた。


モリヒトに言われ、ティモシーさんの実家である食料品店の前のテーブルに座る。


『アタト様はこちらでお待ちください』


「うん。 分かった」


モリヒトが市場の人混みに消えていく。




 老魔術師は僕がダークエルフ族だと気付いていたのだろう。


最初から、あの女性エルフを僕に託すために招待されたのだ。


資料は予めどこにあるのか分かっていて、時間稼ぎをしていたに過ぎなかった。


まあ、そんな気はしていたさ。


でも思わず、たくさんの資料や本を読めたのは良かった。


 しかし、奥手なのか純粋なんだか分からんが、傍迷惑なのは間違いない。


「あれはどうみてもエルフが人間に惚れてるでしょ」


エルフ族は性悪だ。


彼女はわざと精霊を探していない。


眷属精霊がいたら、老魔術師が彼女の世話を焼く必要がなくなるからな。


子供っぽい口調や仕草も、老魔術師の気を引きたくてやってるだけ。


「まあ、あの老人がいつまで元気でいられるのかは知らないが」


案外、長生きするかも知れないな。


エルフの女性が、何とか引き伸ばすと思う。


もしかしたら、あの空間を閉じて、二人っきりの世界に篭ってしまうかも知れない。


それはそれで幸せかもね。

 

僕は関わってしまった者として「今の幸せを少しでも長く」と願ってやろう。




「あ、アタト様?。 いらっしゃったんですね」


食料品店の店員が出て来た。


「お邪魔してます」


片手を上げて挨拶する。


食事中かと訊かれて頷く。


「今、モリヒトが調達に行ってますんで」


「ああ、そうでしたか」


忙しそうなので、気にせず放っておいてもらう。


『お待たせしました』


僕は、モリヒトが買い込んで来た屋台料理を美味しく頂く。


『それでは、本日は辺境伯邸に戻られますか?』


そうだなあ。




 僕が王都に来た用事はだいたい終わった。


あと、心残りはクロレンシア嬢のことくらいか。


しかし、アレは僕ではどうすることも出来ない。


辺境伯と王子にがんばってもらうしかないのだ。


「一旦、双子を辺境地に送った後、ティモシーさんの実家に向かうか」


米を仕入れたら、そこからまた飛んでもいい。


とにかく、帰りは辺境伯夫妻とは別行動になるだろうし。


なる、よな?。


……確認しよう。




 食後は少し市場を周り、食材を買い足す。


王都でしか手に入らないものも結構ある。


特に調味料が豊富だが、モリヒトに言わせると。


『製法が違うだけで、材料は割とどこでも手に入りますよ』


と、いうことらしい。


確かに香辛料に使われる薬草なんかは、エルフの森でも手に入るものが多い。


「じゃあ、気になるものを買って帰って分析したら作れる?」


『はい。 おそらくは』


そんなわけで、色々買い込んだ。




 タクシーのような馬車を拾って辺境伯邸に戻る。


門番が開いてくれた門を抜けて本館の玄関脇で降りた。


「お帰りなさいませ、アタト様」


何故か家令さんの出迎えを受ける。


「ただいま戻りました、とお伝えください」


きっと心配してるよね。


家令さんはニッコリと微笑む。


ん?、何やら不穏な気配を感じる。


 辺境伯に呼ばれているそうで、そのまま執務室に向かう。


「アタト様!、良かった、ご無事で」


「ご心配をおかけしました」


礼を取ろうとして気付く。


「これって」


隣の部屋へ続く扉が開いた。


「来ちゃいました!」


は?、なんで居るの、クロレンシア嬢。


「家を出て参りましたわ」


辺境伯は苦笑している。


予想外のことに僕は眩暈がした。



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