表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

248/667

第二百四十八話・女性エルフの過去の話


 ダークエルフに関する書籍を探し始めたのは、昼食前くらいだった。


『昼食はパンをご用意してございます。 皆様、一度お戻りください』


モリヒトが室内でバラバラになっている僕たちに呼び掛けた。


 僕はそれらしき本を数冊抱えてテーブルに持って行く。


老魔術師はすでに座ってパンに野菜を挟んで食べていた。


女性エルフはお茶が冷めた頃に戻って来て、


「何の本を探してたのか忘れたー」


と、落ち込んでいる。


さすが自分勝手なエルフ、何やってんだか。


「種族の本を探しなさい。 特にエルフ、またはダークエルフだよ」


やはり、ダークエルフはエルフと同じ扱いなのか。


僕は釈然としない気持ちでパンに果物のジャムを乗せて食べる。


あまり食べ過ぎると眠くなりそうだ。


実際、女性エルフはすぐに本に突っ伏して寝てしまう。


「アタト様もあまり根を詰めないように」


そう言って老魔術師は毛布を掛けてやっていた。




 そのまま本を読み漁っていたら、いつの間にか窓に夕暮れが迫っていた。


「別空間なのに?」


ボソリと呟いた声に応えが返る。


「長く居ると感覚が狂うので、外の世界と同じ時間経過になっておりますよ」


テーブルの向かいに座っている老魔術師が僕に微笑んでいた。


天気や温度の変化など、外と全く同じように感じられるそうだ。


「てっきり常に温暖な場所かと思っていました」


「ふふふ、それでは呆けてしまいます」


多少の不便さ、不快さは当たり前に感じる仕様らしい。


 ただ危険な場合は遮断。


「たまに大切なお客様もいらっしゃるので安全のために」


ああ、王子も出入りしてるからか。


 そういえば、毛玉騒ぎのせいで最近会っていないけど、王子はどうしてるかな。


うまくクロレンシア嬢に会えただろうか。


『夕食の準備が整いました』


ボーッと考えていたら、モリヒトに声を掛けられる。




 野菜の煮込み料理や肉を焼いたものが並ぶ。


豪華な夕食に驚く老魔術師と女性エルフ。


「驚いたねえ。 眷属精霊は料理も出来るのかい」


「どこから出してきたの?。 こんなの、初めて見たけど」


食材や食器に関しては、モリヒトは常に持ち歩いている。


いつ、どこで必要になるか分からないからだ。


『勝手に厨房を使わせて頂きました』


「それは構わないよ。 あまり使っていないからね」


食事は簡単なものか、屋台で買ったものが多いらしい。


まあ、お年寄りとエルフだけなら、それで足りるだろうな。




 食後のお茶を飲みながら、今夜の宿泊の許可をもらう。


「客用の部屋なんてないわよ?」


女性エルフが片眉を上げ、不機嫌そうに言う。


「ここで構いません」


この部屋で、本の匂いに包まれて眠るのも贅沢でいい。


老魔術師は笑って頷いたが、女性エルフには変人扱いされた。


そういう者もいるんだよ。




「お先に」


「おやすみ」「お疲れ様でした」


女性エルフが眠そうに書庫を出て行った。


「いつも眠そうですね……」


昼寝もしていたのに、あのエルフは寝過ぎじゃないのか。


僕の態度を見て批判的だと感じたのか、老魔術師は彼女の話をし始めた。


「あれは可哀想なエルフでして。 暗い王宮の地下に長い間一人でいたのです。 そのせいか、エルフとしては魔力が不足がちで」


妖精族であるエルフは魔力があれば食事などしなくても生きていける。


逆にいえば、魔力が無ければ生きられないのだ。


魔素が少ない場所にいた場合、魔力が体内で作れず、動けなくなる。


長い間、そんな環境に置かれていたそうで。


「魔力の消費を抑え、回復させるためには眠るのが一番なので、それが癖になっているようなのです」


思いがけない話になった。


 


 王宮には魔道具がたくさんある。


「おそらく、昔はこの辺りにもエルフ族はたくさんいたのでしょう。 彼らを雇って魔道具に魔力を補充させていた時期があったようです」


魔道具を動かすための原動力となる魔力。


普通は魔石を使う。


魔石は勝手に空気中の魔素を吸収し、魔力を作る。


しかし魔獣から採れる魔石は、扱いが悪いと魔力を作る機能が低下してしまうし、王都周辺に人が増えて魔獣が減っていった。


そのため、王宮では魔石の供給が追いつかなくなり、魔力の多い者たちを雇っていたらしい。


「エルフだけでなく人族の魔術師もおりまして、高額で雇われていたと記録にはあります」


しかしある日、王都でのエルフの数が減っていることに気付いた王宮は慌てて補充員を確保しようとしたのだろう。


「その頃、地下の隠し部屋にエルフが捕えられていたという話もあるようです」


思ったよりヤバイ話だった。




 痛ましそうに老魔術師は顔を顰める。


「その中の一人が、彼女ですか?」


「分かりません」と老魔術師は首を横に振った。


王宮でエルフが働いていたのは何百年も前の話。


現在の王都では姿を見ることも滅多にない。


「ワタシが彼女に出会ったのは、地下にある魔道具を点検していた時でしてね」


ふと気付くと、そこにいた。


まるで子供のかくれんぼのように、見つかると逃げ、また現れては逃げるを繰り返す。


地下に通い、根気よくかくれんぼに付き合ううちに、老魔術師は彼女と友達になった。


「他の者に訊ねたら、まあ、昔は居たらしいというだけで」


王宮に勤めている古い作業員たちでさえ、今の彼女の存在を知らなかった。


長い時間の中で忘れ去られた存在。


老魔術師は、これ幸いと彼女を王宮から逃そうとしたのだと言う。


 


「しかし、よく考えたら、彼女には行く当てがありません」


老魔術師も王都から出られず、他のエルフ族がどこにいるかも分からない。


「ワタシは王宮での仕事を辞し、王宮を離れることになりました。 それで、彼女に一緒に行くかと訊いたら頷きましたので」


あの完全に気配を消す隠し扉を作った魔術師なら、彼女一人くらい連れ出すことは可能だったろう。


老魔術師は僕の顔をじっと見た。


「アタト様は辺境の森のエルフ族をご存知でいらっしゃる。 どうか、彼女をー」


僕は片手を上げて、それ以上の言葉を阻止する。


「それを彼女が望んでいるとは思えません」


僕はその言葉を聞かなかったことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 老魔術師が寿命で死んだ後の選択肢の一つぐらいにはなるやろうけど 今連れてけって話にはならんわなあ 終活で準備するぐらいの状況やわな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ